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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
だけど死ぬのは私じゃない
116/171

霧を超えて a

無茶苦茶遅れて申し訳ありません。

明日18時更新

「詠唱がなければ使えないなんて、私がいつ言いました?」


 それはまるで、無闇矢鱈に混ぜられた絵の具のような。

 無秩序に、無茶苦茶に。周囲の景色が腐り、捻れ、異世界の様相を描いていく。


 腐敗奏。禍力の持つ『腐敗』の特性に特化させることで至ったマガツ。純粋な威力は『破壊』に劣るが、広域への攻撃的干渉においては大きく秀でている。


 咲は藍染に気付かれないように、敢えてこの力をを薄弱に展開し、空間的な下地を作っていた。

 『腐敗』の特性は周囲を侵食する。下地が空間全域行き渡った瞬間、切姫を最大出力で行使。一気に干渉を行い、腐敗を完成させる。


「師匠は知らないと思いますが、マガツは思考発動――使おうと思い、禍力を通わせればそれだけで発動するものなのですよ」


 言い終わると同時、限界を超えた切姫の刀身が砕け散る。

 それが合図だったかのように空間腐敗はいよいよ勢いを増し、擬似庭園を呑み込んだ。


 一瞥して分かる禍力の空間干渉に藍染は身構えるが、巻き込まれた体に異変はない。

 変わったのは擬似庭園全体の景色だけ。被害も損傷もない。

 何を意図してのものか――少しの間思考し、気付く。


「【霧尽】を封じるため……か」

「ええ。師匠のあのチート転移、恐らく自分自身を空間と互換しているのでしょう? ならその空間そのものを滅茶苦茶にしてしまえば使えなくなる……違いますか?」

「…………」


 実際にどうなるか、藍染は沈黙して思考する。

 ただの物理現象ならいざ知らず、概念干渉級の禍力によって歪んだ空間。【霧身】――己が身の空間置換による再生や瞬間転移は確かにリスクが高い。


 【霧刃】のような攻撃系の干渉に関しても、同じく空間腐敗に満たされた空間に干渉することとなる。

 そうなると魔法の発動には一度腐敗奏自体を上書きしなければならず、必然消耗も発動にかかる時間も増えるだろう。


 確かにこれでは【霧身】や【霧刃】は使えない。少なくともこの極限の戦闘で通用するレベルではなくなった。

 ……だが。


「その程度で俺を倒せるつもりなら、まだまだ甘いと言わざるを得ない」


 空間を使った干渉は封じられた。だが【霧尽】そのものが封じられたわけではない。接触による直接干渉は未だ健在だ。

 周囲の禍力で多少は減衰しているものの、その程度がどうしたという話。 一撃当たれば即死の上、干渉力で【霧尽】に劣る攻撃は全て無効化されるのは何も変わらない。


 その上元より藍染の方が強いのだから、咲達が不利なのは明白だ。

 揶揄というよりはただの事実の指摘に対して、咲ははんっ、と鼻を鳴らした。


「はっ、そんなもん当たらなければどうってことないんですよバーカバーカ。攻撃だって憂絶(こいつ)でぶった斬ればワンパンです」

「お前にはそれが可能だと?」

「そのために一番厄介だったあの糞転移を封じたんですよ。あれさえなければあなたなんかどうとでもなります」

「……これは忠告だが。実力に見合わない大言は身を滅ぼすぞ」

「そっくりそのままお返ししますよ人間風情が。この期に及んで師匠ヅラとか舐めんな」


 ビッ、と中指を立てて吐き捨てる咲。随分感情表現が素直になったな、と藍染は他人事のように思い、


 死角から迫る憂姫の銃撃を弾いた。


「っ……!」

「……ほう」


 藍染は飛び退る憂姫を追わず、感心したような声を零す。

 【霧尽】の斬撃で防いだはずの弾丸は、明後日の方向に弾かれ壁に穴を穿っていた。


 互換による無効化が効いているならこうはならない。僅かとも干渉力で【霧尽】を上回った証拠だ。

 見れば、憂姫が持っているのは今までのものと違う、長大な銃身の拳銃になっていた。


「……【コードディザスター】」


 それは彼女の義父が持っていた拳銃。禍力を弾丸として撃ち出す災禍の現し身。

 新たな主人に与えられたその特性は、魔力を禍力に変換するというもの。


 憂姫の【カラフル】はその種類こそ多岐に渡るが、基本的に元の性能を数倍にまで引き上げる。

 元々が一撃必殺の魔弾、そしてSランクのパンドラであるヒトガタが使っていた武装。それらを数倍に強化し、掛け合わせた禍力の弾丸として撃ち出すのだ。


 撒き散らされた腐敗奏により減衰した今の【霧尽】であれば、純粋な威力勝負なら勝機はある。


「ちょっとユウヒ、せっかく注意引いてあげたのに何失敗してるんですか。せめて片腕くらい持って行ってくださいよ」

「……それ、本当に出来ると思って言ってます?」

「まさか。そういうところで詰め切れないのがユウヒだって、私ちゃんと知ってますもん。何年一緒にいると思ってるんですか?」

「……。この戦いが終わったら、ちょっと話し合う必要がありそうですね」


 軽口を叩き合いつつ、憂姫と咲は油断なく構えを取る。

 逆手に構えた小太刀に翼状の一対二枚のブレードを持ったバケモノ、長大な銃身の拳銃に機械的なナイフを持った人間。

 全く違う二人ながら、不思議と鏡合わせのように息を合わせて。


「あの攻撃力と機動力……正面戦闘は駄目ですね。防御と回避優先で、それと切姫の効果はあと三分ですから短期決戦(ブリッツ)で行きますよ」

「守り主体の短期戦ってもう言ってること滅茶苦茶……じゃあ、基本お互いを囮にして裏取っていく感じで」

「ユウヒのそうやって無茶振りに真面目に応えるところ、結構好きですよ」

「……咲の口から出るそういう軽口、私あんまり好きじゃないです」


 どこかの馬鹿を思い出すから。

 ……まあ、だから、嫌いってわけでもないけど。


 憂姫は一瞬だけ瞳を閉じ、全身から力を抜いた。

 雑念を捨て、自分の為すべきこと、そして成したいことのみをただ想う。


 決断は? ――済んでいる。

 決意は? ――澄んでいる。

 決行は?


「――これからです!」

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