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青白い月の夜  作者: 夏蜜
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青白い月の夜

 青白い月明かりの夜だった。(すが)は立ち寄ったスーパーで自動ドアの開かない人を見た。ただひとり、閉ざされたドアの前にじっと佇んでいた。

 悪いと思いつつ、菅は横から割りこむ。先にドアをすり抜けると、後ろにいた年齢不詳の男も便乗してついてきた。誰かが来るのを待っていたのだろう。菅は特に気にもせず、晩御飯を手に入れるためにカゴを持った。

 閉店間際の店内に人はさほどいない。いるとすれば、菅と同じ会社帰りの客か、家の仕事を片付けてやってきた主婦ぐらいだろうか。菅はまず惣菜コーナーへ向かった。なるべく手っ取り早く食べられるものがいい。料理は嫌いではないが、毎晩となると手間なのである。

 とはいえ、この時間帯になれば、割引シールの貼られた惣菜は他の客に買われて無いに等しい。少々遅かったかと後悔したのも束の間、陳列棚の端に運よく焼き鳥が残っていた。鶏皮は好んで食べはしないものの、贅沢は言わない。

 菅が手を伸ばすと、反対側から伸びてきた手と軽く接触した。菅は視線を上向ける。目許を前髪で覆い、銀縁眼鏡をかけた、年齢不詳のあの男だった。確かさきほど、店内で反対方向に別れたはずである。惣菜コーナーは店の左側にあり、男の方角からだと遠回りになるはずだが。

 菅は奇妙な感覚に陥りながらも、潔く焼き鳥を諦めて精肉コーナーへ歩きだした。やはり、手作り料理が体には良い。角を曲がると、何故かまたあの男と出会した。菅は3割引きの生姜焼き用の肉を素早くカゴに入れ立ち去る。勿論、肉を奪われないようにだ。

 有線音楽の流れない店では、ショーケースの作動音がいつもよりはっきりと耳につく。通りすがりに、うるさい音声POPが菅の神経をさらに昂ぶらせた。あとは生姜焼きのタレである。

 菅が慎重に通路へ入ると、そこには誰もいなかった。今がチャンスだと、直感した。お気に入りのタレを手に取り、閉店を知らせるBGMを聞き流してセルフレジに駆けこむ。会計を手短に済ませると、出入り口へ急いだ。

 すると、またあの男の気配を背後に感じた。心なしか焦っているようである。ここで捕まったら、二度と元の世界へは帰ってこれなくなる気がした。あの男は危険すぎる。

 幸い距離をとっていたおかげで、菅は男を切り離すことに成功した。恐る恐る振り返れば、店内の明るい照明が無念そうな男の叫びを画にしている。これで店員がドアを開けない限り、男が出ることは叶わないだろう。

 帰路につく菅の青白い顔を、真上の月が妖しく浮かび上がらせる。明日には、日常の生活には戻れないとも知らずに。

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