十三話 いつか、我を忘れることがあっても
リックは惨状に驚いた。イアンとジャックの所に戻ると、イアンがジャックに襲い掛かろうとしていた。ジャックを守ろうと咄嗟にランスが飛び出した。
「ジャック、どうしてこの状況になった?」
「分かりません。突然、イアンが唸り出して睨みつけてきて、」
ランスに説明しているジャックだが、身体は震えていた。イアンは眼が紅くなり、牙を剥き出し、鋭く尖った爪を向けている。ジャックはイアンの豹変に頭が追いついていなかった。その間にもイアンは唸り声を上げ、襲い掛かろうとする。必死になってランスが止めるが、ジャックを守るのが精一杯で時間の問題だった。
「兄さん、目を覚ましてくれ! 誰も傷つけたくないんでしょ!」
ランスはイアンに届くように大きな声で叫んだ。それでも、イアンは手を止めようとしない。その姿を見ていたリックは隣にいるサンの裾を掴んでいた。
「兄さん、頼むから戻ってくれ!」
攻撃するイアンを止めながら、ランスは再び大声を上げた。このまま攻撃を止め続ければ、限界を来ることは分かっていた。だが、反撃することは出来なかった。ランスもまたイアン同様に大切な者を傷つけたくはなかったのだ。
「ランス、このままじゃ埒があかない。此処はやるしか、」
「やめて! イアンを殺さないで!」
サンの言葉にリックは声を上げ、飛び出した。イアンを助けようとイアンを庇うようにサンとランスに立ちはだかった。
「リック、危ない! イアンから離れろ!」
サンは咄嗟に大きな声で叫んだ。リックは離れようとしない。リックは覚悟を決めていた。たとえ、攻撃を受けてもイアンの為なら受け入れられる覚悟を。リックは背後でイアンが唸るのを訊いた。サンとランスが危険だと注意してもリックは聞く耳を持たなかった。
リックは一度だけ背後を振り返った。イアンは依然として唸り続けている。次の瞬間、リックとイアンの目が合った。イアンはリックに近づき、あの鋭い爪を振り下ろそうとした。リックは目を瞑ってしまった。襲い掛かってくると思った直後、ドサッと倒れ込む音がリックの耳に届いた。
「兄さん!」
ランスが倒れ込んだイアンに駆け寄った。リックは唖然とした。イアンは息を荒くし、苦しそうにしている。その様子を見たリックは目を逸らした。ふと、サンと目が合う。サンは不思議な顔をして、ランスに呼ばれてリックを素通りしてしまった。徐々にイアンは落ち着いていった。
「まさか、傷が治ってるなんてな。やっぱり、為っちまったせいで治癒能力が上がったのか。凄いな」
「関心してる場合じゃない。兄さんは元から治癒能力が高いからそのおかげもあるはずだ。良くなった以上、このれからの事を話さなければならない」
サンが関心していると、ランスが真剣な表情で話を切り出した。ランスの言葉にイアンはランスを見る。
「話?」
不意にイアンはこの場にいるランス、サン、リック、ジャック、みんなに問い掛ける。ランスとサンは残念そうにしていたが、リックは嬉しそうに微笑んでいた。あの件について知らないジャックは何の事かさっぱりだった。雰囲気に何か違和感を覚えたイアンは怪訝な顔をした。
「リックから頼まれた。イアンと帰りたいと。話し合った結果、俺とサン、ジャックは先に街に戻ってる」
イアンは目を見開いて驚いている。リックが自分と帰りたいとは思っていなかったのだ。リックはイアンが半ヴァンパイアに為り、あの狂った姿を見ている。それでも尚、共に帰りたいと思うのはイアンとの親しみ、とても大切な存在であるという証だった。不意にリックはイアンの手を繋いだ。リックは笑っていた。そんなリックを見て、イアンも笑みを零した。イアンは傷付けてしまうかもしれないという思いがあるが、必ず守らなければという使命感を感じ、リックの手を握り返した。
次話更新は10月22日(金)の予定です。
今まで夜遅い時間の更新でしたが、今後は21時くらいに更新しようと思っています。
宜しくお願いします。




