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真夏の告白  作者: かな太
1/2

1太陽に焦がされて


 ある日の昼下がり。まだ高い太陽を見つめながら、あちぃ。とぼやく。屋上の給水タンク横。そんな太陽に近いところで寝そべっているのだから当たり前だよ。と側から見ていると突っ込まれるかもしれない。

 だが、好き好んでここにいるわけではない。


「遅いな、あいつ」


 そう。ここには呼び出されて来ているのだ。くれぐれも内密にと言われたあきは、屋上だと見つかる可能性もあると考えて、さらにその上、給水タンクの横という高いところへ陣取った。

 給水タンクが影になればいいものを、タンクの影になった所は人が腰掛けるには狭く、そんな命の危険を冒してまで座る勇気は無かった。


ガチャ


 静かにドアが開く音がして、目当ての人間か?と下を覗き込んでみる。


「やあ!暁くん!もう来てたのかい」


 見えたのは朗らかに笑う金色。太陽よりも眩しい色が真夏の太陽にジリジリと焼かれた目に痛い。


「おそい」


 くせのある金髪をふわりと揺らしながら、はしごを上ってくる待ち人、ふみに、暁は唇をとんがらせて不平を述べる。呼び出したくせに遅れてきた史は「すまないねっ」と笑うとひょいとはしごを登って暁の隣に腰掛けた。


 史は、転校生だった。どっかの国とのハーフらしく、金髪に少しだけ緑がかった茶色い瞳。ここまで聞くとイケメンを想像しがちだが、史は頬にあるそばかすのせいなのか、少し垂れ目で眠そうな印象を受けるせいか、親しみやすい平凡な顔立ちだ。と暁は思っている。


「これは暁くんへのお土産」


 どこからともなく、ひんやりとしたペットボトルが手渡される。


「お茶よりコーラが良かった」


 むっとしながらも、この暑さに喉はカラカラだったらしい。流し込むと、外気と体内の温度差で胸のあたりが痛むようだった。


「で?」


 お茶を飲んで一呼吸。ここに呼び出した要件を尋ねたつもりだった。


「ここは太陽に近いから暑いねえ。呼び出す場所を間違えたよ」


 ははは。と暁の手元からペットボトルを奪って自身の喉を潤す史。


「言いにくいことかよ」

「うーん」


 いつもは言いたいことをズバっと言ってしまう史。言葉を濁すなんて珍しい。何かを迷うように視線をウロウロさせ、手もなんだかもじもじと落ち着きがない。


「もしかして好きなやつでもできた?」


 ぴくり。史の動きが一瞬だがピタリと止まる。知らない人が見れば見逃すほどの小さな動揺。暁は見逃さなかった。


「ええと」

「まじか。俺の知ってるやつ……だよな。じゃなきゃ呼び出しなんて」


 ……呼び出しなんて?なんで俺は呼び出された?と考えて、暁は自分の頭に浮かんだ答えに驚いてばっと史のほうを見やる。

 隣の男は、俺の反応にいままで見たことがないくらい顔を真っ赤に染めていた。


「や、やだな!まだ何も言ってないじゃないか!勘違いするなよ!」


 その反応を見て、暁は自分の頭に浮かんだ答えが間違いじゃないのだと、この男は俺のこと、同性である暁のことが好きなのだと気づいてしまった。

 史は、顔が赤いのは日焼けのせいだよと笑った。少しだけ、泣きそうな顔で。悪いことがバレた子どもみたいに。それなら、


ちゅ


 軽いリップ音を立てて、太陽から守るように顔を隠していた史の頬に、俺の唇が触れる。ジリジリと太陽に焼かれ続けている史からは、太陽のにおいと、俺と同じ汗のにおい。

 史が顔の赤さを太陽のせいにするなら、俺のこの行動だって、太陽の熱に浮かされたってことにならないだろうか。照りつける太陽が、2人の周りにある世間体や偏見なんてものも壊してくれないだろうか。


「……なっ!?」


 一拍以上遅れて、史が頬を押さえて口をパクパクとさせている。自分に起こったことに理解が追いついていないらしい。


「ちょっと汗臭かった」


 動揺する史に軽口で返すと、史はくしゃりと顔を綻ばせて泣きそうな顔で笑った。


「そんなの、お互い様だろ……」


 この瞬間を、史のこの笑った顔を、俺は一生忘れないと思う。


「……臭いけど、べつに嫌いじゃない。史のなら」

「…………それもお互い様だよ」


 それから少し黙って、もう一度。深く重なった。


「ちゃんと言えよ」

「暁くんこそ、人の唇を奪ったんだから正直に言った方がいいんじゃない?」

「るせえ」


ジリジリと灼きつける真夏の太陽が、ふたりの心ごと熱くした。




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