第65話 油断
善次郎が事業を始めてから五ヶ月。
最初の三ヶ月は苦労したものの、今ではぼちぼち顧客も増えてきた。
善次郎の思惑以上に、事業は早くも軌道に乗ろうとしていた。
それは、善次郎が自分で思っている以上に努力したからだ。
人を思いやる気持ちというのは凄いもので、端から見れば大変に違いないと思われることでも、当の本人にとっては、なんとも思っていないことがある。
今の善次郎が、まさにそうだった。
夏が退院してから半年が経つ。
夏も、あれからは元気だ。
毎日元気よく、部屋を走り回っている。
が、好事魔多し。
またもや、夏の様子がおかしくなった。
ある日のこと。
その日は幸運にも、善次郎はずっと家に居た。
朝から元気がないと思っていた夏が、昼頃になって、急に震えだした。
善次郎の脳裏に、あの時の悪夢が甦った。
善次郎は、急いで夏を病院に連れていった。
やはり、カルシウム値が極端に低下していた。
迂闊だった。
近頃はすっかり元気だったので、完全に治ったものと油断していた。
退院してから一ヶ月は、週に一度検査を受け、毎日カルシウム剤も飲ませていた。
四ヶ月目に、もう大丈夫だろうということで、検査も打ち切り、カルシウム剤もやめていた。
ところが、病魔は、しぶとくと夏に巣食っていたのだ。
「これは、手術のせいではない」
先生の推測によると、夏はどうやら、カルシウムを吸収するビタミンDをうまく摂取することができない体質らしい。
どうやら、夏の低カルシウム血症は生まれ持ってのものらしい。
動物の勘は鋭い。
親猫は、それがわかっていて見放したものと思われる。
前回ほど酷くはないが、さりとて軽くもないので、また入院ということになってしまった。
なぜ、ずっと検査を継続させなかったのか。
悔やんでも悔やみ切れない。
先生が検査を打ち切ったことを詫びてくれたが、やはり自分の責任だと、善次郎は自分の甘さを呪った。
しょんぼりとして、家へ帰った。
家に帰っても善次郎の落ち込みは治らず、夏に申し訳ない気持ちと、心配がない混ぜになって、暗澹たる気分で過ごしていた。
夜の七時。
美千代と洋平が訪れた。
「なにがあったの?」
美千代は、善次郎の顔を見るなり、異変を察知した。




