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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第50話 とんでもないことに

 手術当日の朝、美千代と洋平が一晩会えないから今の内に会っておこうと思ってと言って、出勤と通学前に、二人揃って顔を出した。

 二人とも、凄く不安な顔をしていた。

 一晩会えないからというより、今生の別れというような様子だ。

「前にも言ったろ、心配ないって。明日には、元気な姿で帰ってくるさ」

 善次郎が軽い口調で、二人を宥めた。

 今日が手術なんてことを知るはずもない夏は、元気に美千代と洋平にじゃれついていている。

 手術当日は、朝から餌を与えないでくれと、医者から言われていたので、餌の容器は下げておいた。

 活には可哀想だが、猫に道理がわかるわけもないので、活にも我慢してもらうことにした。

 夕方、夏を連れていった。

 先生を始め、看護婦さんたちはみな愛想のよい顔で出迎えてくれた。

 心細げに鳴く夏を預けて、お願いしますと頭を下げる善次郎に、去勢手術なんて手術のうちに入らないのでご安心くださいと、爽やかな笑顔で先生が答えた。

 その顔を見て、ふと善次郎の胸に不安が宿った。

 あまりにも軽薄過ぎる。

 そう感じた。

 気にし過ぎだ。

 胸の不安を抑えつけて、善次郎は家へと帰っていった。

 家に帰ると、美千代と洋平が待っていた。

 どうだったと、二人が同時に訊いてくる。

「大丈夫だ。先生も、こんなのは手術のうちに入らないと言っていた」

 二人を安心させるように、善次郎が笑顔で答えた。

 それを聞いても、二人はまだ心配そうだった。

 この二人も、二匹を家族のように思っている。

 それが、善次郎には、痛いほどよくわかった。

 活はというと、どこか元気がない。

 多分、寂しいのだろう。

 無理もない。夏が来てからというもの、二匹はずっと一緒だった。

 離れるのは、今日が初めてなのだ。

「おまえも、寂しいのね」

 自分の寂しさを紛らわすかのように、美千代が活を優しく慰めている。

 洋平は黙って、その様子を眺めている。

 一番寂しいのは、洋平ではないか。

 洋平は、いつも夏と遊んでいた。

「明日なにも予定がなければ、俺と一緒に夏を迎えにいくか」

 善次郎が、明るい声を洋平に投げた。

 洋平は顔を輝かせて、元気よく首を縦に振った。

「わたしも行く」

 すかさず、美千代の声がする。

「おまえも?」 と返す善次郎に、「いけない」と挑戦的な口調で、美千代が答える。

「大体、あなた、洋平だけ誘うなんて不公平よ」

 口を尖らす美千代が、善次郎にはおかしくってならなかった。

 こいつに、こんな可愛らしいところがあったんだ。

 善次郎は、改めて美千代に惚れ直した。

 待ちに待った翌日。

 三人は意気揚々と、夏を引き取りに向かった。

 美千代と洋平はあまり寝ていないと見え、二人とも眼が充血していた。

 善次郎も同様である。

「麻酔が覚めた時、異常に暴れましてね、日頃から嫌がってもうんと抱いて、もっと人に慣れさせておいてください」

 夏を受け取る時、医者にきつく注意された。

 おかしい。

 いくら夏が我儘だとはいっても、そんな暴れ方はしないはずだ。

 美千代と洋平が抱いても、嫌がって腕の中で暴れたりすることはあるが、この医者の言うような異常な暴れ方などしたことがない。

 善次郎は、この医者に激しい不信感を抱いた。

 とりあえずは、素直に「すみません」と謝って、夏を引き取って帰った。

 家に帰ってから、夏はぐったりとしていた。

 活の時もそうだったが、それとはどうも、様子が違う。

 夏のしんどうそうな様子は、活の比ではなかった。

 美千代と洋平も不安気な面持ちで、ずっとぐったりとした夏の様子を見守っている。

 家に帰ってから一時間も経った頃、あまりにも夏の様子がおかしいので、善次郎はもう一度、夏を連れて病院に行った。

 当然の如く、美千代と洋平も付いてきた。

 医者は、よく診察もせず、ちょっと夏の身体を触っただけだ。

「個体によって術後の症状は様々なので、暫くすれば元気になりますよ。まあ、心配なようだったら、点滴でも打っておきましょう」

 そう言って、夏の首筋に無造作に針を突き刺し、これも無造作に液を流し込んでいった。

 点滴と言いながら、まるで普通の注射のようだ。

 夏の首筋はパンパンに膨れた。

 この段階で、善次郎の不信感は最高潮に達した。

 しかし、美千代と洋平もいることだし、文句を言うのを控えて、大人しく夏を連れて帰った。

 点滴を打っても、夏の状態が改善される様子はなかった。

 ずっと、しんどうそうに蹲っている。

 美千代も洋平も用事をおっぽり出して、夏の傍から動かない。

 夕方、夏の様子が急変した。

 小刻みに震えだしたのだ。

 最初は熱でもあるのかと思っていたが、身体を触ってみても熱くない。

 そうこうしているうちに、全身が痙攣しだした。

 美千代と洋平が悲鳴を上げた。



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