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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第22話 駆け巡る思考

 善次郎は、活のダイエットを諦めたわけではない。

 いつもの餌をやったのは、とりあえず眠りたかったからだ。

 明日から、また夜勤が続くので、大切な夜の眠りを邪魔されたくなかったのだ。

 なにか負けたような気がして、少し悔しい気持ちもあったが、これでもう邪魔されないだろうと思って、再びベッドに潜り込んで眼を閉じたものの、眠りは訪れそうになかった。

 自分が眠りたいからといって、あいつの言いなりになっていたのでは、いつまで経ってもダイエットなんてできるわけがない。

 安易に、いつもの餌をやったのを後悔したのである。

 眼を開けて、餌を食べる活の後ろ姿を見た。

 その姿を見ると、直ぐに違う思いが湧きあがってきた。

 人間でも、ダイエットは難しい。

 自分で痩せたいと思っているのにだ。

 酷いのになると、明らかに命に係わるというのに、自分を抑えることのできない人も、大勢いるではないか。

 ましてや、相手は動物だ。

 より、本能の赴くままだろう。

 このままにしておくわけにはいかない。

 そう思うのは、俺のエゴだろうか?

 活から眼を離し、仰向けになって両手を頭の下に置き、眼を閉じた。

 いや、違う。

 健康管理に気を付けてやるのも、飼い主の責任だ。

 いろいろと考えた結果、そういう結論に達した。

 だが、直ぐに別の考えが、それを打ち消す。

 しかしなあ、美味くもないものを、毎日毎日食べさせられるのはたまったものじゃないだろうな。

 俺が活の立場だったら、ぞっとするだろう。

 ましてや、活にとっては、食べるのが一番の楽しみだろうし。

 そんなんだったら、生きていても面白くないな。

 活の身になって考えてみる。

 そうは言っても、これ以上太ると、本当に病気になりかねない。

 そうなったら、活が可哀想だ。

 動物は、そんなことはわからないから、やっぱり、飼い主が健康管理に気を付けてやらないとな。

 本当に活のことを思うのだったら、心を鬼にすべきではないか。

 善次郎の頭の中には、様々な思考が浮かんでは消え、消えては浮かんでいく。

 いくら考えても、堂々巡りで答えは出てこない。

 善次郎は、思考の迷路に嵌り込んでしまった。

 さて、どうしたものか?

 悩める善次郎の顔に、毛が触れた。

 顔を横に向けると、眼の前に身体を丸めた活がいた。

 腹が膨れたのか、幸せそうな顔をして、眼を閉じている。

 自分のことで、こんなにも善次郎が思い悩んでいることなど、露ほども感じていないようだ。

 いい気なもんだ。

 苦笑しながら、活の背中を撫でてやる。

 活は少しピクリとしたものの、それ以上の動きはなかった。

 どうやら、真剣に眠っているようだ。

 不思議なもんだ。

 善次郎は感慨深げに思った。

 半年前までは、自分がこうやって、猫と暮らすなんて考えもしていなかった。

 元々、動物には興味がなかった。

 特に、猫は嫌いだった。

 猫には悪いが、なぜか陰気なイメージを持っていた。

 猫よりは、まだ犬の方が好感が持てた。

 それが、活と出会って変わった。

 確かに、犬に比べれば社交的ではない。

 だが、懐かないわけではない。

 今だって、善次郎の横で無防備な姿を晒しているではないか。

 これは、完全に自分に懐いている証拠だ。

 しかも、他人の前では姿も見せないくせに、自分にだけは腹まで見せる。

 そう思った時、不意に愛しさが込み上げてきた。

 同時に、去勢手術の後、活に元気がなかった時の心配や不安も、まざまざと蘇ってくる。

 気が付くと、善次郎の瞳が潤んでいた。

 たかが、猫一匹で。

 そう思ってみたものの、潤んだ瞳は渇くどころか、後から後から滴が流れ落ちてくる。

 その涙が、活の顔に滴った。

 活が眼を開け、甘えた声でひと声鳴くと、また眼を閉じた。

「なんで、こうなっちまったのかな」

 声に出して呟いた。

 それから、暫く活の寝顔を眺めていた。

 よし、決めた。

 一気に痩せさせようとはせずに、時間を掛けて、徐々にダイエットしていこう。

 猫に道理を説いてもわかるはずがない。こうなったら、根競べだ。

 やっとすっきりした善次郎がこれで眠れると思った時、カーテンの向こうが白みかけてきた。

 すでに、夜が明けようとしている。

 いつになったら、善次郎に安眠の日が訪れるのだろうか。


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