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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第20話 抗生物質

 一緒に暮らし始めて半年以上も経つというのに、善次郎は活の性格がいまだに把握しきれていない。

 自分から撫でろと身体を摺り寄せてくるくせに、頭や背中を撫でていると、いきなり本気で噛んでくることがある。

 今も、善次郎は手首を噛まれた。これで何度目だろうか。

 手首の裏からは、血が滲み出ている。

 痛くはあるものの、大した傷ではない。

 噛まれ慣れている善次郎は、そのまま放っておいた。

 だが、時間が経つにつれ、噛まれた部分の周りが赤く腫れてきた。

 これまでにない現象だ。

 善次郎は少し心配になったものの、それでも、一晩寝れば治っているだろうと高を括っていた。

 念のため消毒液を降りかけて、そのまま眠りに就いた。

 次の朝目覚めると、善次郎はびっくりした。

 腫れは引くどころか、ますます酷くなっているではないか。

 晴れた部分が赤みを増し、さらに広がっている。触ると痛い。

 これはやばい。

 そう思った善次郎は、ネットで調べてみた。

 そこで善次郎は、驚愕の事実を知ることになる。

 毎年数人ではあるが、飼い猫に噛まれて死亡しているのだ。

 症状からすると、パスツレラ菌が入ったものと思われる。

 どうやら猫は、口の中に多くの雑菌を持っているようだ。犬よりも多いらしい。

 それに、口だけではなく、爪に菌を持っている確率も多いと書いてあった。

 これまで、あれだけ引っ掻かれていたのに、よく無事でいられたもんだ。

 善次郎は、薄れかけている数々の傷跡を見て、自分の幸運に感謝した。

 しかし、今回はたまたま運悪く、傷口から雑菌が入ったみたいだ。

 それで、こんなに腫れあがっているということがわかった。

 これで死ぬ人の多くは、免疫力が低下していたり、糖尿や癌であったりといった病気にかかっている人みたいだが、だからといって、安心してはいられない。

 このまま放っておけば、健康な善次郎だってどうなるか知れたことではない。

 たとえ死ななくても、へたをすると腕全体がパンパンに腫れて、、腕を切り落とすことになるかもしれないのだ。

 噛まれたのは、利き腕の右腕だ。

 右腕がなくなれば、凄く不便だ。

 生来楽天的なところのある善次郎は、そんな暢気なことを考えた。

 だが、いくら楽天家といっても、死ぬのはむろんのこと、腕を切り落とす気もない。

 早急に医者へ行くことにした。

 幸いにも、今日の仕事は午後からなので、朝から病院に行く時間はあった。

 外科か内科か、どちらへ行けばよいかわからなかったが、外科は電車に乗らねば行けなかったため、とりあえず近所の内科へ行ってみた。

 腫れあがった手首を見せて、事情を話す。

 善次郎のような患者は初めてではなかったのか、医者は心得顔で頷いて、抗生物質を出すから、それを飲めと言った。

 医者の処方はそれだけだ。注射も打たない。

 確かに、ネットにもそんなことが書いてあったが、こんなに腫れていて、抗生物質を飲んだだけで治まるものなのか?

 やっぱり、外科に行ってみようかな。

 そう思ったが、とりあえず様子を見てみようと思い直し、抗生物質を受け取って職場へと向かった。

 善次郎の心配は杞憂に終わった。

 抗生物質を飲んで一日も経つと、腫れがましになった。

 よかった。

 いかな楽天家であっても、胸中に不安はあったのだろう。善次郎は安堵した。

 二日目には、ほとんど腫れは引いていた。

 現代医学は大したもんだ。心からそう思った。

 またひとつ、善次郎は学んだ。

 猫に限らず、動物を飼うということがいかに大変なことか。

 動物の命だけではない。へたをすれば、自分の命にも関わってくる。

 餌や体調管理、そして病気以外にも、気を付けなければいけないことはまだまだ沢山ある。

 今回も、善次郎にとって良い教訓になった。

「おまえのお蔭で、えらい目に合ったぞ。俺が死んだら、誰がおまえの面倒を見るんだ」

 活に話かける。

「まあ、おまえに噛まれて死ぬんだったら仕方ないけどな。そうなっても、俺は恨みはしないよ」

 そう言いながら、懲りもせずに活の頭を撫でている。

 教訓がまったく生かされていないかといえば、そうでもない。

 無防備に撫でることはしなくなった。

 活を撫でる時の善次郎の眼は、油断なく活に注がれている。

 咄嗟の攻撃に、いつでも対処できるようにだ。

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