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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
19/71

第19話 変化

 復活後しばらくは、活の活発な行動は続いていた。

 善次郎の眠れぬ日々も、また然り。

 その時の活は、眠る時間が長かった。

 激しく動き回る分、疲れるのだろう。

 酷い時には、お腹を出して熟睡している。

 緊張感の欠片もない。

 きっと、敵に襲われるなんて思ってもいないに違いない。

 それだけ、善次郎には心を許しているのだろう。

 活も、善次郎のことを家族と思っているに違いない。

 もしかしたら、下僕かもしれないが。

 多分、そっちの方が正解のように思われる。

 善次郎は、時々、眠っている活にちょっかいを出した。

 お腹を突ついてみたり、尻尾を掴んでみたり、髭を指で弾いてみたりする。

 家猫だからって、緊張感を忘れてはならない。

 いつ何時、自分が死ぬかもしれない。

 そうなれば、また野良に戻るかもしれないのだ。

 そうなっても生きてゆけるよう、活を鍛えている。

 そう、全てはその使命感のためなのだ。

 というのは建前で、本当は自分が寝ている時に起こされることへの、ささやかな復讐だった。

 どうやらこの男は、活と同レベルらしい。

 それはさておき、善次郎が寝ている活にちょっかいを出すのは、復讐からだけではなかった。

 善次郎には、もうひとつの狙いがあった。

 活自信がやられて嫌なことは、自分にもしないのではないだろうかということだ。

 だから善次郎は、活が寝ているところをわざと起こす。

 それを繰り返せば、活も自分が寝ているところを起こすのを止めるだろう。

 それが、狙いである。

 そんなことが、猫にわかるわけもないだろうに。本気でそう思っているところが、この男の凄いところだ。

 案の定、善次郎の腕には、次から次へと新しい勲章が刻まれていった。

 それでも、善次郎は止めようとはしなかった。

 どうも善次郎の辞書には、経験学習という文字が抜けているようだ。

 最近の活は、餌もよく食べる。手術前より倍近くは食べるようになった。

 よく遊び、よく眠る。だから、お腹も減るのだろう。

 そのせいか、この頃、お腹の周りが少し目立つようになってきた。

 いくら激しい運動をしているとはいえ、嫌というほど餌を食べ、かつ大いに眠るのだから、太ってきたとしても不思議ではない。

 活は太るにつれ、跳弾行動が減ってきた。

 落ち着いたわけではなさそうだ。

 どうやら体重が増えるに従い、思うように体を操れなくなってきたようである。

 去勢をすればホルモンバランスが崩れ、太り易くなると聞く。

 それもあるだろうが、活の場合、主に食べ過ぎが原因ではないかと思われる。

 そうはいっても、相変わらず走るのは早い。

 しかし、跳躍力と持続力については、間違いなく影響が出ている。

 ありがたいことに、近頃は三角飛びをあまりしなくなった。たまにしても、前ほどの威力はない。

 お蔭で、寝ている善次郎のお腹を、踏切板や着地のマット代わりに使われることが少なくなってきた。

 最近では、去勢前より走り回ることが減っていた。パワーアップしていた時のことが嘘のようだ。

 起きている時も、あまり動き回らず、静かに蹲っていることの方が多くなった。

 善次郎にとっては喜ばしい限りだが、だからといって、起こされる回数がそんなに減ったわけではない。

 踏み台にされることは少なくなったものの、この頃では、もっぱら猫パンチによって起こされることが多くなった。

 餌をくれというのではない。

 活の食べる量を心得ている善次郎は、夜中に空になるようなことはしなくなっていた。

 常に活の状態を測り、絶妙の配分で容器に餌を入れて眠りにつく。

 無茶な暴れ方をしなくなった分、体力をあまり消耗しなくなったのか、活は太るにつれ、眠る時間が減ってきていた。

 若い活は、長時間静かに座っていることが苦痛なのだろう。自分が暇なもんだから、善次郎に遊んでもらおうと思って、善次郎を起こしにかかるのだ。

 自分がやられて嫌なことはしない。

 そのことを教え込むために刻まれた腕の勲章が、ただ空しかった。

 最初は、顔に身体を摺り寄せてくる。腹がごろごろと鳴っている。

 睡眠不足の善次郎は、それくらいでは起きない。

 次に、顔や手を舐めてくる。猫の舌は、犬とは違いざらざらしている。

 それでも、善次郎はなかなか起きない。

 業を煮やした活は、最後にはパンチを見舞う。

 一発で起きなければ、二発でも三発でも浴びせてくる。

 これでは、いかな善次郎でも起きないわけにはいかない。そして、相手をさせられる羽目になる。

 活が飽きるまで。

 善次郎の睡眠不足は、まだまだ続くことになりそうだ。

 

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