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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第15話 去勢

 このところ、活がよく鳴く。

 昼も夜もない。

 秋も近づき肌寒さを感じるようになってきたので窓を閉め切ってはいるが、このままでは、隣近所からクレームが出かねない。

 善次郎が調べた結果、どうも、さかりではないかと思われた。

 活は、まだ去勢していない。

 善次郎は、去勢するべきか否か迷った。

 いかに猫とはいえ、人間の勝手な都合で体をいじるのはどうかと、善次郎には思われたのだ。

 だからといって、外に出して、他の雌猫に子供を孕ませるわけにもいかない。

 そんなことをすれば、以前の活のような不幸な野良猫を増やすだけだし、活が産ませた

 子供を全て引き取って面倒みるだけの経済的余裕もない。

 仮に、そんな余裕があったとしても、この部屋では狭すぎる。それに、外で孕ませたのなら、どれが活の子供かもわからない。

 善次郎は思い悩んで、いろいろなサイトを覗いてみた。

 そして、あるサイトの一文が目に留まった。

「猫を飼うという行為自体が自然に反しているのだから、避妊が自然に反していると考えるのは愚かである。飼い猫の生んだ子供を育てるならば良いが、それが出来ないようなら避妊すべきである」

 そんなようなことが書かれていた。

 その通りだ。

 善次郎は納得した。

 去勢にかかる費用も、なんとか捻出できそうだ。

 去勢しよう。

 そう、決心した。

 そうすると、今度は別の悩みが生じた。

 どこの病院で去勢するかである。

 この前行ったところは少し遠いので、近くにないか調べてみたところ、なんと近所にもあったのだ。

 前は、自分の勉強不足で動物病院の場所なんて知らなかったからタクシーの運ちゃんに任せてしまったが、きっと運ちゃんもそこしか思い当らなかったのだろう。

 去勢するには、連れていくときと帰るとき、それに抜糸もしなければいけない。

 最低、三往復はすることになる。結構、タクシー代がかかる。

 近場にしようか?

 動物病院なんて、どこも一緒だろう。

 動物病院の先生は、誰でも動物に対して強い愛情を持っているはずだ。だから、医者の道を志したのだろう。

 だったら、どの病院に行っても同じではないか。それに近ければ、なにかと便利だし。

 この時の善次郎は、すべての医者が動物に愛情を注いでいるとは限らないことを知らなかった。

 そのために、善次郎と一匹の猫が大変な目に合うことになる。

 が、それは、もう少し先のお話。

 悩んだ末、やはり少し遠くてもこの前の医者に頼むことにした。

 知っている先生に頼んだ方が安心できるからだ。

 善次郎は、自転車を買うことにした。

 これならばタクシーを使わなくてすむし、何かあってもいつでも行ける。

 その病院は、自転車だったら十五分くらいの距離だった。

 タクシー代より自転車を買う方が高くつくのだが、これから、どんなことでお世話になるかわからない。

 それに、なにも活の病院だけではない。

 買い物にも行ける。重たい物を抱えて帰る必要もない。

 自転車があれば、なにかと便利になる。そう思ったのだ。

 自転車を買った足でペットショップへ行って、活を入れる籠を買ってきた。

 なにかを察したのか、逃げ回る活を籠入れるのに一苦労したが、活を入れた籠を荷台に乗せて、動物病院へと足を運んだ。

 元気な活を見て、先生は喜んでくれた。

 覚えてくれていたのだ。

 毎日、沢山の動物を診ているだろうに、たった一回連れてきた活を覚えているなんて。

 善次郎は感激した。

 善次郎が去勢の話をすると、それがいいと、先生も同意してくれた。

 たまたま空いていたので、手術はその日の夕方に行うことになった。

 手術後は病院に留めて、一晩様子を見るという。

 今日は相談だけのつもりだったので、善次郎に心の準備は出来ていなかったが、それでも善次郎は、活を預けてそのまま仕事先へと向かった。

 その日、善次郎は夜勤ではなく、昼から夜までの勤務だった。ために、夜は家にいる。

 活を拾ってから、活と離れるのは初めてだった。

 仕事から帰ってきた善次郎は、いつもの癖でただいまと言っていた。

 部屋の中には、動き回る黒い影も、ニャアと鳴いて出迎えてくれるものもいない。

「俺の部屋はこんなに広かったのか」

 自分の家ではないような感覚に捉われた善次郎が、ぽつりと呟いた。

 今日が夜勤だったらよかったのに。

 玄関に佇み、暫く悄然としていた。

 猫一匹で、こうも変わるものなのか。

 活のいない空間を見回しながら、善次郎は戸惑っていた。

 食事を摂る気も起きず、早々と寝床に就いた。

 いつも朝までぐっすりと眠りたい。活さえ邪魔しなければ、そう思っていたのだが、いざ活がいないとなると、眠るどころではなかった。

 今頃どうしているだろうか。

 無事でいてくれるだろうか。

 寂しがってはいないだろうか。

 そんなことを考えているうちに夜が明けてしまい、結局一睡もできなかった。


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