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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第14話 さらば未練

 彼女と別れた夜、善次郎はちょっぴり後悔していた。 

 怒りに任せて彼女を追い返したものの、もう少し言いようがあったのではないかと悔やんでいるのだ。

 当の活は、そんな善次郎の気持ちなぞどこ吹く風というように、素知らぬ顔で何事もなかったように、部屋の中を我が物顔で走り回っている。

 そんな活を恨めしそうな眼で見て、善次郎がため息をついた。

「おまえさえ出てきてくれれば」

 走り回る活に、善次郎が文句を言った。

 活に罪がないのはわかっている。

 それでも善次郎は、恨み言のひとつも言わずにはおれなかった。

 ニャア。

 走るのをやめて、活が体を擦り付けてきた。

「元気を出しな」

 そう言って、慰めているように聞こえる。

 もう一度、ニャアと鳴いた。

 今度は、わりときつい口調だ。

「俺というものがありながら、他の女にうつつをぬかすからさ」

 まるで、そう言っているかのようだ。

「俺は、そっちの趣味はないぜ」

 そう呟きながらも、善次郎が尻尾の付け根を撫でてやった。

 活は気持ちよさそうに眼を細めて、背中を丸めた。

 考えてみれば、これで良かったのかもしれない。

 活の背中を撫でているうちに、そう思えてきた。

 動物を血統などで判断するなんて、本当に好きとはいえない。

 人を、家柄で判断するのと同じだ。

 あの彼女が。

 善次郎の顔に、失望の色が浮かぶ。

 自分の思い通りにならないからといって、まさか血筋なんてものを持ち出すなんて。

 半分は本気で言ったのではなかったのかもしれないが、まったく思っていなければ、口には出さないだろう。

 俺も変わったものだと、善次郎はつくづく思った。

 以前の自分だったら、猫なんかより、間違いなく彼女を選んでいた。

 彼女の意見に同調して、活を非難していただろう。

 それが、活をけなされて、頭に血が上ってしまった。こんなに我儘なのに。

 また、善次郎がため息をついた。

 この分では、当分再婚できそうにないな。

 善次郎には再婚したい気持ちがある。

 離婚してわかったことは、一人身は気楽だということだ。

 食事は、コンビニやスーパーへ行けば、多様なおかずが揃っている。

 味も悪くはないし、カロリーも記載している。自分で作らなくても、栄養管理もでき、飽きることもない。

 それに、一人分だと食材を買って調理するより安く済む。

 洗濯もしかり。洗濯機は全自動だし、近くにコインランドリーだってある。

 毎日洗濯するのでなければ、却ってコインランドリーの方が安くつく。

 便利な世の中になったものだ。

 こんなことだから。独身でいようとする者が多いのかもしれない。

 だが、張りがない。

 自分一人が生きていくために働くのと、家族のために働くのでは、同じ働くにしても張り合いが違う。

 家族がいる時はそれが重荷になっていたが、それくらいの重荷があった方が働き甲斐があるのだと、今にして善次郎は思う。

 確かに、活がいる。活も、善次郎にとっては立派な家族だ。

 しかし、なにかが違う。

 いくら活がいるとはいえ、誰もいない部屋に毎日帰ってくるのは寂しいものだ。

 だから、善次郎は再婚したい。

 そうはいっても、誰でもいいわけではない。

 活を家族の一員とみなし、大事にしてくれる女性でなければ駄目なのだ。

 彼女は人間としても優れており、女性としての魅力もあった。

 猫をペットとして割り切れば、彼女の意見も間違いではない。

 その割り切りが、善次郎には出来なかった。

 決定的な価値観の相違である。

 いくら魅力的であっても、根本的な価値観が合わなければどうしようもない。

 そう思うと、善次郎の気が楽になった。

 もう、後悔はない。

 そうさ、俺は活のことが大好きだ。そして、とても大切に思っている。

「この世の中には、いろんな人間がいる。いつか、お前のことを大切にしてくれる女性

が現れるさ」

 善次郎は活に語りかけながら、自分に言い聞かせていた。

 そうなった時、活が隠れることはないんじゃないか。そう、自分と出会った時のように。

 ふと、善次郎はそんな気がした。

 きっと活は、本能的にそういった人間を見分けているのだろう。

 活に任せておけば、もう結婚で失敗することはない。

 なんとなくそう思った。

 俺も変わったものだ。

 もう一度しみじみと思い、善次郎は苦笑を浮かべた。


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