3
長々と歩く事に関して不満は無い。何せ、リンファは民と共に畑仕事や剣を習っていた、所謂お転婆だったのだ。
(体力は問題無い・・・しかし、暇だな)
リンファは歩くだけなのが苦痛な事を知った。今日だけで幾つの知識を得ただろう。
だが、今は知識よりも気を紛らわせる何かが欲しいものだ。
「リンファ」
イオンの呼び掛けに振り向こうとする。
もふっ
リンファの顔に何かが当たった。それは、もふもふしている。そして、当たった後も張り付いているのだ。
リンファは慌てて、それを顔から剥がす。
「・・・何だ、これは」
呆然と呟く。
リンファの目には、見た事の無い生き物が映っていた。
毛玉。真ん丸で真っ黒なそれはつぶらな瞳でリンファを見つめる。このつぶらな瞳と長い尻尾が無ければ、本当に毛玉だと思うだろう。
大きさはウサギくらいだろうか。しかし、毛玉はかなり軽い。中身が詰まっていないかのようだ。
「・・・イオン。これは何だ?」
「一応、召喚獣だよ」
リンファは返答に目を見開く。
「これが?あの召喚獣だと?有り得ん・・・こんな毛玉が強い力を秘める召喚獣だなどとは、認めん」
召喚獣。それは代償となる物を使い喚び出す獣だ。力を秘めており、召喚主を助けると言われる。
それが、こんなちんくしゃな毛玉である筈が無い。
どうやら、リンファも憧れていたようだ。
なのに・・・こんな夢をぶち壊す存在だったとは。
「リンファ・・・召喚獣にも、位があってね。弱いのは弱いんだ」
「・・・・・・こいつは、何が出来るんだ」
毛玉でも、召喚獣。何かは出来る筈だ、そうだと言って欲しい。
「・・・・・・・・・・・・・・・何かあったかな?」
たっぷりと考えた後に、出された答えにリンファは肩を落とす。
(ダメダメじゃないか、こいつ・・・)
クリスティナに到着した。眩く光る水晶にリンファは憧れが戻って来た気がした。
(いや、こいつが悪い訳では無い。こいつはこいつで可愛らしいし、此処までの道中の暇潰しになってくれたのだから)
リンファは腕の中で丸まる毛玉に目をやる。長い尻尾と僅かにある耳や四本の足。ぬいぐるみみたいな獣。
こんな風でも召喚獣なのだ。
・・・つまりは、イオンは召喚獣を喚び出せる程の力を持っている。
「こいつはどうするんだ?」
流石にクリスティナでも、召喚獣は珍しい筈だった。基本的に召喚獣は王族やそれに近い者くらいしか持っていない。
だが、イオンは持っている。
「平気じゃないかな?だって、ちんくしゃだよ」
「・・・そうだな」
その後、毛玉の名前が「シュー」だと判明する。
逃亡生活 完