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ロヴァーナが花嫁として指名された時から家族である王や姉、臣下である貴族達は勿論の事、民も国の全てが彼女を哀れんだと言って良い。だから、可哀想という言葉にリンファは歯を食い縛る。それこそが真実だった。
「でも、その立場をただ受け入れるだけだったのは彼女自身」
自分の置かれた状況を打破するのを早々に諦めて甘やかされた。向上心も自尊心も無い愚かな娘。
リンファは悔しかった。全て見透かされているような気がした。いや、見透かされたのだ。
「それは・・・貴女に関係あるのか」
「ふふ・・・」
妖艶な動きで彼女はロヴァーナに歩み寄る。リンファはそれを止めようと思うのだが、足は凍り付いたように動かなかった。これは恐怖だと理解出来てしまう。
「無関係にはなれないわよねぇ」
本来なら彼女こそが義妹になっていたんだもの。ロヴァーナを嘲笑うように彼女は微笑み続ける。リンファはそうかと納得する。彼女は、徹底的に嫌っているのだ。抗う事をしない者を。きっと、彼女はロヴァーナが花嫁としてやって来た日に殺そうとしていたのかもしれない。そして、それを成したとしても彼女は罰せられないのだ。
「貴女は・・・そんなにも嫌だったのか」
ロヴァーナのような存在を、それを許してしまった我々を。
彼女達は生まれた瞬間から未来を定められていた。でも、その未来を自ら選んだ。自らの手で他の未来を壊してまで、その未来を選び取ったのである。
そんな人達からロヴァーナが嫌悪されるのは当たり前なのかもしれない。
「ふふ・・・嫌に決まってるでしょう」
当たり前の事だと彼女の視線が語り掛けてくるようだった。彼女の心はきっと凍り付いているのだ。なのに、その奥では激しく燃え上がっている。そんな極端さを感じてしまう。これがこの人の激情。
「甘やかされた者に期待出来る能力なんて無いでしょう」
「それは、そうだが・・・」
彼女を納得させられる言葉をリンファは知らない。
「貴女とも私達とも違う、力を持たない者の無い物強請り」
力と言ってもそれは天性の物を指してはいない。その者の努力によって勝ち取った物である。ロヴァーナは自身の才覚を自身と周囲の過保護によって潰していったのだ。少しずつ押し潰された才覚は望まれたのとは別物になってしまった。
「抗わないのは愚かよね」
甘くて冷たい声がその場を支配する。これが支配者かとリンファは妙に冷静な頭で考えた。逃れられないのだと身体が降伏してしまっている。
無駄なのだ。得られる権利を放棄してしまったお前達には抵抗も許されない。
リンファは頭の中で響く声に怯える。それは誰の声だろう。負けを認めろと囁いてくるのは。
「愚か者にも愚か者の矜持がありますよ」
「・・・お前はどうして彼女に肩入れするのかしらね?」
肩入れとはどういう意味だろう?リンファは傍らの存在に気付く。自分は一人では無かった。
「イオン・・・」
そういえば、彼は何者なんだろう?リンファはイオンの事を知らないのだと突き付けられた。彼は何故かリンファに優しいから。
「お前は、こちら側だと思っていた」
「何処に居るかは自分で決めます」
「お前にそんな意思があったなんて」
計算外だわ。呆れを含んだ声。その顔は忌々しげに歪んでいる。
「リンファ、君の思うようにしたら良い」
助けたいと思ったから、貸そう。この身体も、能力も、全て。何もかも明け渡してしまっても良いと思えたのはきっと、一目惚れしたからなんだろうね。イオンの言葉はリンファには難しかった。初めてだったのだ。
「私の誤算はお前ね」
そんなに情熱的なんて知らなかったわ。彼女の顔は屈辱に歪む。




