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怯えているようにも見えた。エミアーナの表情はまるで迷子になった幼子だ。リンファは救わねばと自身に言い聞かせる。
(彼女も彼女自身が分からないのだ・・・自分が迷子になっている事が)
だから、リンファは手を差し伸べる。
「エミアーナ」
(この手を取って欲しい)
それが出来ないなら、そんな泣きそうな顔で笑わないでくれ。リンファはエミアーナから目を逸らさない。逸らしてはならない。逸らせない。これがきっと最後のチャンスになるのだ。
「エミアーナ、私の手を取ってくれないだろうか」
「私は・・・貴女の手に触れたくないわ」
真っ直ぐにリンファを見詰めるとエミアーナは拒絶の言葉を放つ。それでもリンファは手を下ろさない。ただ真っ直ぐに手を伸ばし続けるのだった。
そんなリンファにエミアーナは溜息を吐き出す。
「貴女は彼女のようね・・・彼女はもっと強引だったけれど。彼女のように強い光は影の中に生きてきた者には辛いのよ。それを貴女は理解出来ないでしょう?分かるかしら、貴女も強い光なのよ。きっと、私には耐えられるものでは無いわ」
「エミアーナ・・・貴女はこちらに来るべき人だ」
だって、ツィツィーリエは彼女を愛している。エミアーナが彼女と呼んでいるのは恐らく、ツィツィーリエだろうとリンファは予測した。
「リンファ」
誰かがリンファを呼ぶ。その声にリンファは肩の力が抜けるのが分かった。
「・・・イオン」
名前を呼ばれたイオンは微笑む。エミアーナはイオンを化け物でも見ているような目で見ていた。リンファとは真逆の視線にイオンは苦笑する。
「何故、お前が居るの?」
険しい表情のエミアーナにリンファは首を傾げる。畏怖の込められた眼差しは確かにイオンに向けられているのだ。リンファにとって彼はそんな目で見られるような存在では無かった。
「エミアーナ、彼は・・・」
「そう・・・お前がこの子を逃がしたのね」
(彼女はイオンを知っている・・・?)
リンファは困惑する。イオンはそんなリンファに優しく微笑む。
彼の誕生に怯えたのは自分だけでは無かったとエミアーナは記憶している。もしかしたら、あのツィツィーリエさえもが怯えていた。それだけの力を持って生まれた彼が目の前に居る。
「アルヴィス=セドリック=イオン」
エミアーナの声が誰かの名を呼ぶ。リンファは咄嗟に耳を塞ごうとしたがそれは防がれる。イオンの手がリンファの手を掴んでいた。優しく包み込むように。
「・・・イオン」
優しく笑いながらも、知らないでいる事を許さない手だった。
(お前は誰なんだ)
リンファは今更ながら彼の事を全然知らないのだという事を知ったのだ。それなのに、信頼している。可笑しい事だ。リンファは思わず笑い出す。
「イオン、お前が何者でも構わないんだ」
(そう・・・何者でも構わない)
イオンという存在がリンファに与えたモノがそうだと思わせる。




