優しい侵略者
リンファはぞわりと背筋に這い上がった寒気に身体を擦った。イオンが居ない今、彼女に出来る事は少ない。
(こんなに不安なのは初めてだな・・・あいつが居ないだけで私はこんなにも頼りない)
溜息を吐く。頼りない自分に嫌気がさす。
リンファは弱い自分を叱咤する。ここにイオンは居ないのだ。ならば、自分がしっかりしなければならないのだから。役に立てるとは思わないのだが。
「こんにちわ」
柔らかな声は聞いた事があった。
「貴女は・・・何故ここに?」
彼女は王女だ。こんな所にやって来る目的は自分ではないか?リンファはそう思った。そんなリンファに彼女は微笑む。彼女に似合う、この場に似合わない笑みだった。
リンファの背筋に嫌な汗が流れた。逃げなければ。本能がそう告げる。
「あら?なぁぜ?私は・・・私はこの国の、王女なのだから」
エミアーナは自身の白い髪を掻き上げる。彼女の赤い目に暗い闇を感じたリンファは後ずさった。彼女から離れたい。しかし、エミアーナはリンファが下がる毎に一歩進む。リンファは壁際に追い詰められた。
「くっ・・・」
「大丈夫よ・・・リンファ。貴女に危害を加えるつもりは無いの、そう・・・貴女には」
「・・・エミアーナ」
リンファはエミアーナを真っ直ぐ見詰める。恐らく、彼女は何かを抱えている。大きくて重くて暗い何かを。それがリンファには分からない。
それでも、それが恐ろしい闇なのだと・・・深い傷跡なのだと、リンファは感じたのだった。
イオンは目前の者達を排除し終えると空を見上げた。赤く染まっていく空は恐ろしく、美しい。まるで、彼女のようだと呟く。だが、自分が好きなのは爽やかな青空なのだと確信する。イオンはリンファの元へと急いだ。最悪の事態にはならない。そんな事はさせないのだと。
「彼女を止めてくれるかな」
リンファは強くて優しいから。イオンは期待を胸に駆け出した。
(君なら、きっと)
救い出せると信じる。だから、今はまだその時では無いのだ。
「エミアーナ・・・」
リンファは禍々しい物を感じた。それは目の前の彼女から溢れているように思える。彼女の心の中の澱んだ物が溢れている。そう思えてならない。
(これは・・・きっと、いけない物だ)
本能でその気配を察したリンファは自分を叱咤する。彼女にはこんな物は似合わないとリンファは思うのだ。エミアーナにはもっと柔らかで温かな物が似合う。
(だから、そこにいちゃいけない)
リンファはエミアーナに手を差し出す。エミアーナはリンファの手に戸惑った顔を向ける。




