亡国の姫君
セイラムは四十年程前に一つの国を滅亡に追い遣った。その国がある土地を欲したからである。絶大な力を宿した土地を我が物とする為に王は、その上にある国を蹂躙した。
荒れ野となった国には、たった一人の姫君が居た。王はその姫君を娶った。そして、姫君との間に一人の王女が産まれる。エミアーナと名付けられた王女は姫君によって、憎しみを育てられた。
姫君は白い髪と緑の瞳を持つ美しい人でエミアーナもその美貌を受け継いでいた。しかし、たった一つ違っていたのは・・・その憎しみで塗り固められた赤い瞳。ツィツィーリエはその瞳が何であるのか気付いていた。
憎しみに染め上げられた色。母の胎の中で凝縮された憎しみは彼女の躯に宿った。その結果がツィツィーリエを不安にさせる。浮かび上がる疑惑の念を拭い去る事が出来ないまま、エミアーナを側に置いていた。
そして、遂にその時が来たのだ。
姫君の復讐の時が、やっと来た。
永かった。彼女はそう思う。
彼女は待っている。彼等がやって来るのを、この始まりの地で。
「お母様」
ここは母の故郷だ。憎しみに染められた母の国。
「・・・もうすぐ、終わる」
彼女の内にある憎しみも、ここで昇華される筈だ。そして、どんな形になろうとも、前に進む。彼女の願いは進む事。
「・・・・・・」
やっと。解放の時が近付いて来た。
亡国の血を引く姫君は一人、涙を流した。その傍らには、愉しげに嗤う黒い影があった。
彼女の傍に居てくれた存在はずっと、影だけだった。
寂しい思いをしながら、たった一人で佇んでいた。影は傍に在るだけ。一緒に居てくれる存在ではなかった。そんな存在は・・・
彼女は涙を拭う。
決着を。
亡国の姫君 完




