見えない魔法
胸中に滲み出る感情をリンファは押しやる。今はこんな事を考える暇は無い。
(何とかしなければ・・・ロヴァーナは私の妹なのだ)
リンファは考える。今、考えるべき事を。
そして、思い出す。
(そういえば・・・侍女達はどうしたんだろう)
今の今まで忘れていたが、彼女には侍女達が居る。そして、逃げ出してしまった今、彼女達の現状は分からない。
リンファは苦笑いを浮かべた。
自分の事に手一杯でそこまで頭が回らなかったのだ。だが、もしかしたらリンファよりも逞しい彼女達の事だ。案外、平気かもしれない。
侍女達の事は心配ではあるが、最後には何とかするだろうという思いが勝った。
そして、やはり心配は目の前にある。
「・・・リヒャルト、お前は」
「リンファ」
彼女の言葉を止めたのはイオンだった。リンファはイオンに目を向ける。
「リンファ、彼には気を付けて」
イオンの表情は険しく、リンファは息を飲む。リヒャルトを警戒している事は分かっていた。だが、この表情は違うと思ったのだ。
(何だ?)
リンファは不安になる。自分の婚約者だった青年は何かが変わったのだろうか。
分からない事だらけだ。リンファの不安は消える事は無いだろう。彼女が誰かを思う事を止めない限り。
「・・・・・・リヒャルト」
それでも、大切な存在を捨て去れないのがリンファなのだ。
「首を振るだけで良い。質問に答えられるか?」
彼女の問いにリヒャルトは頷く。柔らかな笑みを浮かべる彼は紛れも無くリンファの婚約者である彼だった。
そこに違和感を感じ取る事は出来なかった。しかし、リンファは一応警戒する。彼女の中で魔法に対する認識は未知であるから、イオンからの注意に素直に従う事を決めたのだ。
(私に、出来る事をしよう)
そして、絶対に諦めない。
諦めたくはなかった。それはリンファが彼女らしくある為にも、重要な事である。
リヒャルトの記憶は曖昧な所が多くなっていた。例えば、ロヴァーナを連れて国を出た後。ある街に辿り着いた所までは覚えている。だが、辿り着いた瞬間からの記憶が綺麗に消え失せていた。
それからは暗闇の中に居た事は覚えている。誰かの声を聞いた事も。何かの足音を聞いた事も。
しかし、それは夢の中を彷徨っているみたいにあやふやだった。
何となくだが、リンファにも分かった。自分達の状況は危ういのだと。そして、その原因はリンファにはどうする事も出来ないのだ。
見えない魔法(敵)を怖いと思った。
見えない魔法 完




