近付く何か
リンファは頭を抱える。分からない事だらけなのだ。
「リンファ、はい」
そんな様子のリンファにイオンはシューを差し出す。円らな瞳がリンファを見上げた。それは、リンファを慰めているようでもあり、甘えているようでもある。
シューの様子に彼女が微笑むと、シューは嬉しそうに飛び跳ねる。
(大体、シューの体はどうなっているんだ?)
彼(で良いのかは分からないが)は愛くるしい目をリンファに向けて首を傾げる。そもそも、首は何処から何処までだろうか。球体のような丸さを持っているのに、案外動きは似ていない。動きはあくまで、小動物を思わせる。
柔らかな体毛に覆われた球体。シューを表す一番簡単な言葉だ。
「お前は気楽そうだな」
リンファの言葉にシューはただ真っ直ぐ彼女を見た。
その日の夜、リンファは中々寝付く事が出来ないでいた。彼女の枕元ではシューが寝息を立てる。
リンファはその柔らかい毛を撫でながら、今までの事を思い出していた。
生まれ育った国を離れ、妹の代わりに嫁ごうとした。ただ、国の事を思っての行動である。
それが良かったのかは分からない。
しかし、リンファの決心は揺るがないだろう。もう一度、選択したとしても結果は同じ気がする。彼女の意志は固いのだ。
(きっと、このままでは見つかるのだろうな・・・誰にかは分からないが)
妹も、自分も追われている。今後の事を考えれば、国に帰る事は出来ないだろう。これ以上、迷惑は掛けられない。
逃げ続けるしかないのだ。
(国を守る為には・・・)
リンファは再び決意する。彼女が『王女』である限り。
「うふふふふ」
愉しげな笑い声が聞こえる。それはきっと自分にしか聞こえていないだろう。
「逃げられない、逃げられない・・・逃がさない」
歌う様に呟いている。
「すぐに行くわよ・・・待ってて」
呟きからは逃れられない。それを自分は知っている。
「逃がさない、逃がさない。必ず、捕まるの・・・私が捕まえるから。待ってて、待ってて、待ってて・・・・・・」
声は、憎しみを込めて呟き続ける。この声が彼等に届く様に。
近付いていく何かは、うっとりと嗤う。これからが愉しくて仕方が無いのだ。
「この憎しみを、やっと」
解放出来る。私達を地の果てに追い遣った彼奴等に復讐を遂げられる。
「待ってて・・・必ず、私はお前達を」
気配を感じて目が覚めた。彼は窓へと目を向ける。窓の外に渦巻く殺意を帯びた影に舌を打つ。
彼はベッドから抜けると、一文だけの手紙を残して部屋を出て行った。




