追跡者
彼は意識を取り戻す。
唇が動く。だが、声は出せなかった。
そんな彼の耳に嗤い声が届く。楽しげなそれは狂いそうな程、彼の心を抉る。
彼が耳を塞いでも、声は聞こえた。
嗤い声の中、彼は再び意識を失った。
「他愛無い・・・この低度で守ろうと思ったのか」
嘲笑う声は彼には聞こえなかった。
それは、彼にとって良かったのか・・・はたまた悪かったのか。
だが、一つだけ分かった。
ロヴァーナは虚空を見つめる。虚ろな目は何を見つめているのか。
リンファには分からなかった。
彼女には、何も出来なかった。出来る事が見つからない。それは苦痛だった。
「リンファ」
呼び掛けるイオンの声に振り向く。彼は何処までも優しい微笑を浮かべていた。
彼女達が居るのは名高いクリスティナに埋もれた町・レナード。通り過ぎて行かれる町である。
忘れられる町はひっそりとしていた。だが、入る事が出来た宿は品が良く、隅々まで手が行き届いているのが分かる。
その宿の窓辺で、ロヴァーナは外を見ている。しかし、その目は何も映していない。
外の景色は素晴らしいというのに、それを観賞する気分にはなれなかった。
リンファはこの町に辿り着いた時を思い出す。それは、突然だった。留まる人は少ない町。だが、通る人は多く、道には常に誰かが歩いている。そこを彼女達も歩いていた。
すると、突然に彼女達の進行方向に黒い影が現れた。影は最初、確かな形を持っていなかったが、段々人の形になって、最後には人となったのだ。
不思議な事にそれに気付いたのは彼女達だけ。他の人達は気付かずに過ぎていく。いつもの様に。
異様な光景だった。
人影は高らかに嗤い出す。その声は確かにリンファの耳に届いていた。気のせいでは無い。
しかし、周囲は変わらなかった。
「我が召喚獣」
その声は高く、女性の物だった。視線はロヴァーナに、いや・・・彼女の胸元に向けられている。まるで、そこに何かがあるかのように。
背中に冷や汗が流れるのをリンファは感じた。これは危険だと、本能が告げている。
リンファは急いでロヴァーナの腕を掴んだ。早くここから離れなければ。ただ強く、そう思った。
人影に背を向け、リンファは妹の腕を引き走り出した。
「ふふふ・・・無駄な事を」
纏わり付く声が・・・恐ろしかった。
だが、一つだけ分かった。
弱いままでは、守れないのだと。
追跡者 完




