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世継ぎの姫君と花婿  作者: 如月瑠宮
第一章
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追跡者

 彼は意識を取り戻す。

 唇が動く。だが、声は出せなかった。

 そんな彼の耳に嗤い声が届く。楽しげなそれは狂いそうな程、彼の心を抉る。

 彼が耳を塞いでも、声は聞こえた。

 嗤い声の中、彼は再び意識を失った。


「他愛無い・・・この低度で守ろうと思ったのか」


 嘲笑う声は彼には聞こえなかった。

 それは、彼にとって良かったのか・・・はたまた悪かったのか。

 だが、一つだけ分かった。




 ロヴァーナは虚空を見つめる。虚ろな目は何を見つめているのか。

 リンファには分からなかった。

 彼女には、何も出来なかった。出来る事が見つからない。それは苦痛だった。

「リンファ」

 呼び掛けるイオンの声に振り向く。彼は何処までも優しい微笑を浮かべていた。

 彼女達が居るのは名高いクリスティナに埋もれた町・レナード。通り過ぎて行かれる町である。

 忘れられる町はひっそりとしていた。だが、入る事が出来た宿は品が良く、隅々まで手が行き届いているのが分かる。

 その宿の窓辺で、ロヴァーナは外を見ている。しかし、その目は何も映していない。

 外の景色は素晴らしいというのに、それを観賞する気分にはなれなかった。

 リンファはこの町に辿り着いた時を思い出す。それは、突然だった。留まる人は少ない町。だが、通る人は多く、道には常に誰かが歩いている。そこを彼女達も歩いていた。

 すると、突然に彼女達の進行方向に黒い影が現れた。影は最初、確かな形を持っていなかったが、段々人の形になって、最後には人となったのだ。

 不思議な事にそれ(・・)に気付いたのは彼女達だけ。他の人達は気付かずに過ぎていく。いつもの様に。

 異様な光景だった。

 人影は高らかに嗤い出す。その声は確かにリンファの耳に届いていた。気のせいでは無い。

 しかし、周囲は変わらなかった。

「我が召喚獣」

 その声は高く、女性の物だった。視線はロヴァーナに、いや・・・彼女の胸元に向けられている。まるで、そこに何かがあるかのように。

 背中に冷や汗が流れるのをリンファは感じた。これ(・・)は危険だと、本能が告げている。

 リンファは急いでロヴァーナの腕を掴んだ。早くここから離れなければ。ただ強く、そう思った。

 人影に背を向け、リンファは妹の腕を引き走り出した。

「ふふふ・・・無駄な事を」

 纏わり付く声が・・・恐ろしかった。




 だが、一つだけ分かった。


 弱いままでは、守れないのだと。




 追跡者 完

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