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第二十話 祝福という存在

 ロヴァルさんからのお願いはイネスに対してだった。

 ソナム妃殿下に祝福を与えて貰えないかと言われたのだ。

「どうか精霊様にお願いしてもらえないだろうか」

 いや、イネスに直接頼めば良いじゃんと言えば驚いた顔で僕を見ている。


「えっ? おかしな事言った?」

「いいえ、それでよろしければ」

 ロヴァルさんはにこりと笑うと改めてイネスに向き直り「精霊様。どうかソナム・・・・・・いやソナムの子に祝福をお願いできますか」と、あくまでここだけの話でと切り出した。


「まだ陛下には伝えておらぬそうですが」

 どうも里には密かに懐妊が伝えられたそうで「なにぶん難しい時期とあれば、そばに付いて守るわけにもいかず」難儀していたそうだ。


 ククリ族には古くから精霊信仰があった。

 生まれてくる子に精霊の祝福をというのは古くからあるそうだ。

 そこに本物の精霊が訪れたと聞いて、ぜひにお願いしたいという事だ。


 でも、王族の懐妊を他国の者に簡単に教えて大丈夫なのかな。


 聞かされた内容に俄然やる気をだしたのはイネスで「おぉおおおおお!!! 任せておくが良い!」とばかりに胸をそらせたのだ。



        ※※



「どうやら、着いたようですわね」

 疲れた顔をしたローザが言った。


 ラトリー以外のロマリカの民を残し、五日かけてスヴェアの王都にたどり着いた。

 ヨールの祭事は盛大な祭りだから絶好の稼ぎ時と考える行商人の馬車が目立つ。途切れる事の無い人の流れは東西の門に向かっている。


 僕たちはその流れから離れ北門に向かった。


「大きいね」

 ひっそりと静まりかえった北門は、城壁に不釣合いなほど大きい。

 まるで門が先にあって、後から城壁を設けたように見えるほどだ。


 番人小屋で手紙を渡すと宿を訪ねられた。


 王都での宿泊場所は『草原のオクルス亭』

 歴史有る建物で広々としたホールの天井からは光が差し込んでいる。

 上を見上げると丸い天窓の存在感が凄い。


 ここで離宮からの使いを待つ。

 これは尤もな話で普通は王族に簡単に会える方がおかしいのだと言う。


「アレス! 手伝うのじゃ!」

 宿に着くなり僕は忙しい。

 張り切るイネスの相手に追われた。

「早く! ラトリーも急ぐのじゃ!!!」

「はっ! はい。イネス様」

 すでに助手となっているラトリー。心なしか疲労の色が濃い。頑張れ!



 ふう・・・・・・。王都に向かう馬車のなかでも大変だった。


「ふむふむ、そうか。ご苦労」

 どこからともなく現れてはイネスと意思の疎通をはかる精霊たち。

 普通の人には見えなくても、精霊眼を持つ僕に取っては目まぐるしく光が踊る。


 どうも各地の精霊に頼んで祝福の方法を調べてもらっている様子だった。


 イネス自身、祝福を行うのは初めてとあって、他の高位精霊にやり方を聞いてもらっていると聞いたんだ。

 そのため次々と光が飛び込んでくる。

 いまも開け放した窓からは『伝令』の青い精霊が訪れて何かを伝えていた。


 イネスによれば、精霊が生まれてくる子供を祝福するのは昔からあるらしい。


「とても良いものなのじゃ!」

 鼻息も荒くしっぽも誇らしげだったけど、張り切りすぎじゃありませんか?




        ※※



「おぉおおおおおおおおおお!!! なるほど! これは良い物が手に入った」

 どんどん献上品が積み上げられていく。


 僕の部屋には、どこから取り出したのか? 精霊が持込んだ不思議なものが揃っていった。

 さっきからラトリーは一生懸命に薄い衣に針を通している。


 何かの鳥の羽から始まり。キラキラした石の欠片と太鼓???


「ねえ? イネス。これ何に?」

 どこのラテン民謡? と言った風情の太鼓。

 どこかで見た事があると思ったら前世のTV番組だ。

 叩くとポンポコ音がして楽しい。


 これもイネスが使うのかね? と思いながら、結構気持ちの良い響きで適当にリズムを奏でていると。


「ほぉ~上手いものじゃのぅ。これなら任せても大丈夫かな」などと、うなずくイネス。


「ん、なにが?」

 若干リズムでハイに成りかけている僕は聞いた。


「決まっておるだろう! アレスが使うのじゃ!」とドヤ顔で返された。

「うげぇ、マジで!?」


 それからは夜通しの特訓に付き合わされる事となったのだ。




 翌日、離宮から使者が来てイネスを先頭に表に出ると、見た事も無い馬車が用意されており前後を囲む騎士が相手の身分の高さを感じさせる。



        ※※



「良くお似合いですよ」

「・・・・・・なんか緊張するな」


 通された支度部屋でローザに身嗜みを整えてもらいながらのどの渇きを覚えた。

 イネスはといえば、同じくローザに用意された衣装を身に付けてもらっていた。


「ほほほ」とか「へにょっ」とか時々変な奇声を上げながらも高いテンションを維持してリハーサルに余念が無い。



 案内に声を掛けられて向かった先は中庭の奥深く。

 本日は私的なお呼ばれということで、お茶会に出席だ。


 意外に人が少ないな。侍女に女官か・・・・・・護衛は遠くに下げられているのか。

 信用されているのかな? まあ精霊を相手だし、気を使ってくれたのかも知れない。

 うん、いやな気配もしないしイネスも何も言わない。

 敏感なイネスのこと、ここは安全な場所なのだろう。


「ようこそ小さな精霊様」

 そう言ってイネスに笑いかけたソナム妃殿下は優しそうな人だった。

 スカートのすそを摘まんでのお辞儀は、これぞ完璧な挨拶と言っても良いだろう。


 すげー綺麗な人だ。


「うむ、我はイネス。そこにいるアレスに名前を貰ったのじゃ!」


 ちょっ! イネス! 名前を付けたのは関係ないから!!!

 なにを! 偉そうに言ってるのよ!

 妃殿下はイネスの仕草を見て、くすくすと笑っている。


 って! いけねっ!

 昨日あれだけ練習してたのに忘れてた。


「は、初めましてアレス・ローズウッドと申します」

 挨拶を忘れていたことに慌てた僕が、ローザに教えられた通りに膝を付き手を胸に当てて返した。

 エルフの僕はハーフだけれど、人族の慣習に従う事は無いから俯かないのだ。


「うふふ、アレス様ようこそいらっしゃいました」

 そうして僕を見た妃殿下は優しい笑顔を返してくれたのだ。




 何重にも重ねられた薄い衣をまといイネスが立ち上がった。

 和やかな雰囲気ではじまったお茶会。

 もちろん目的はそれでは無い。

 大事な祝福の儀式が残っているのだ。


「やや子がおると聞いて来たのだが」とイネスが恐る恐るお腹に手を伸ばした。

 妊娠中の王族に触れるとか、これが精霊で無ければ大変だろうな、などと考えながら見守る。


「はい、イネス様。どうぞこの子に祝福をお与えくださいませ」

 そう言ってソナム妃殿下はイネスに身体を寄せる。


「おお、良くわかる。元気な良い子じゃ」

 イネスは小さな手でお腹を三回撫でると「ふふふ、出たいのか? だがまだ育ってはおらぬから駄目じゃ」とお腹の子に話しかけた。


 そして周りを眺めて微笑む。





 そして突然、イネスの口が音を紡ぎだした。


 長い音階が三つ続いて、何かを呟いた。

 言葉にならない精霊の詠があたりに木霊する。

 呼ばれてどこから現れたのか、あわせて精霊たちが優しく光りだした。


 普段は目に見えない精霊たちもイネスの力で姿を現していく。


 ここからはイネスの独壇場だ。微笑ましい雰囲気のなか、ときどきしっぽでリズムを取る仕草を見せた。


 思わずくすくすと笑ったら、イネスに睨まれてしまった。


 おっといけない。忘れてたよ。

 慌てて太鼓を取り出すと僕も儀式に参加する事にした。

 手で軽やかにリズムを刻みながら目でごめんと謝る。


 幻想的な風景のなか、踊りながら詠うイネス。

 そこにいる誰もが目を奪われている。


 今回イネスが行うのは単なる祝福では無い。

 どちらかと言えば加護に近いものだ。

 これはイネスの強い希望から行われていた。


「お願いじゃ、アレスの力を貸して欲しい」

 どうも僕の魔力で精霊石を作って欲しいとの事である。

 出来上がった精霊石で加護の力を増すらしい。


 とうぜんローザは難色を示した。

 僕が精霊石を作れるのは隠すべきだと主張。

 うーん、当然考えたよ、でも何となくイネスの気持ちがわかるんだよね。


 これは必要な事なんだと。


「ローザの心配もわかるけど、今回は大丈夫じゃ無いかな?」

 僕がそう答えたことでローザは引き下がった。ローズウッドの当主は僕で決定権は僕にあるのだから。


 でもね。


 漠然として根拠も無い自信のような物だけどソナム妃殿下を見て確信に変わった。


 この人なら知られても大丈夫だと。


 やがて一つの精霊が僕の前に現れた。

 お辞儀をするようにゆっくりと上下したあと魔石に停まって待っている。

 そうかキミが守ってくれるんだね?


 イネスは精霊たちに願いを込めて聞いているのだ。僕はなんとなくわかる。


「誰がこの子を守るのか? 守れるのか?」と呼びかけているのだ。


 次から次にと魔石に停まる精霊から、その願いに応える意思のような物を感じて僕は指先に魔力をまとわせ魔石に触る。


「まあ!」

 ソナム妃殿下がそれを見て目を見開いた。

 魔石に吸い込まれるように、僕の魔力に導かれて魔石に消えて行くからだ。


 そして最後に長い長音が鳴り響くと、そこには虹色をした精霊石が残された。



 後年、虹の加護石と呼ばれた精霊石の誕生だった。

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