第十九話 ククリの里という存在
「いてっ!」
砦に向かって一歩踏み出したらピリッと来た。
「どうされました?」
「いや静電気」
「静電気?」
「ああ、なんでもない」
ラトリーに気にし無い様に伝えて砦の前に立った。
この世界の人には静電気という言葉は通じないのだ。
どうも僕は静電気体質な様で、たまにピリッと来るのが微妙に嫌だったりする。
統率された兵士の見本を見せられているようだった。
「なんか緊張するし」
微塵も揺るぐこともなく堂々としたローザに対して、若干びびり気味の僕である。
それもそのはず、周りには屈強な兵士に囲まれているのだから。
ククリ族の里はぴりぴりとした雰囲気がしていた。
「とりあえず、ラトリーたちを休ませないと」
雰囲気に飲まれてか幼い子供は怯えてるし、お年寄りには身体を休める場所が欲しいからだ。
「そうですね、聞いてみましょう」
「アレス様は里の長のところへ案内されるようです。残りのものは集会所で待つようにと言われましたので、水と食事を分けて貰えるように交渉しました」
軽く兵士と言葉を交わしたローザから聞いた。
相変わらず仕事が早いと思う。
ついでにラトリーに馬車の世話を頼むと、幾らかのお金も渡していた。
兵士は言葉を交わすことを禁じられたかのように、無言で僕たちを城館に案内する。
城館は茅葺で木の建物だった。
田舎の家に似てると思って、少しだけ懐かしい感じがした。
もちろんローズウッドの村でも木で家が作られている。でも佇まいというか作りがとても日本的なのがククリの里だった。
門をくぐり庭先に案内された。
玄関を素通りしたことで、歓迎されてないのかと思った。
だって客を迎えるなら庭先に案内なんてしないよね?
ローザが眉をひそめるくらいだもん。
そして、気がつくとイネスに手を握られていた。
そこには、髪に白いものが目立つ男の人が胡坐を組んで座っていた。
「物々しい気配だな。戦でもするのか?」
ギレアスが嫌味っぽく言った。
「ほほう。挨拶も無しか、相変わらずの物言い変わらんな」
飄々(ひょうひょう)とした見た目だけれど、本能が警鐘を鳴らすよ。この人は絶対にやばい人だと。
隙が無いというか、油断したら殺されるレベルの人だ。
じろっと睨まれただけで身がすくんでくる。
イネスが僕を守るように前に立った。
「っ! ・・・・・・イネス」
ああダメだ。しっかりしないと。
逆にイネスを庇うように前に出ると腹に力を入れた。
ううう、怖いけど。
「いつからククリは庭先が客間になった? 客扱いされれば挨拶もするが悪戯はやめて貰おう。坊主がびびってる」
良く言った。いや、びびってるのは本当だけどね。
「・・・・・・坊主?」
じろっと睨まれた。
うへぇええ、ギレアスの物言いで洒落にならないくらいに殺気が飛んでくる。
「ふぅ・・・・・・相変わらずか。いや、すまん。おい! かまわんから警戒を解け」
その一言で、すっと気配が薄れると同時に威圧感が消えていく。周りからの殺意も消えて途端に怖く無くなった。
はぁ~良かった、正直ちびるかと思ってたよ。
「いやぁ、悪かったな。あのギレアスが仕えたと聞いてな、ちょっと試させてもらっただけだ」
悪びれる様子も無くにやけている。
ちょっと試すだけで殺気を飛ばすとか正直止めて欲しい。
「それでどうだ? うちの当主は」
「ああ、そうだな」
ギレアスの問いかけににやりと笑い。一呼吸おくと。
「失礼をしました。ローズウッドの御当主様。私がこの里を束ねているロヴァルと申します。以後よしなにお取り計らい下さいませ」
完璧な所作と共に、目の前には平伏している屈強の騎士がいた。
ウインクを入れるあたり、どうやらこの人もギレアスと同じタイプの人間のようです。
さっきの物々しい態度はなんだったのだろう? 一転して和やかな祝宴は始まる。
ラトリーも呼ばれ僕たちは豪華な食事に舌鼓をうった。
聞けばロマリカの人たちにもきちんと食事は出されているらしい。
「知っているか分らんが娘を嫁に出した」
「おお、聞いている」
「気に入らん相手だが無下にするのも難儀な事もあり仕方なくだ」
マジかよ、スヴェアの側妃でしょ? 気に入らないって、もしかして王様の事ですか。
「まあそれは残念だな」
こっちも微妙に酷い。
どうもギレアスとは昔からの付き合い。それもかなりの仲のようでお互い本音で話している。
そんな事もあって、話の内容は自然と危ない方向に向いていた。
「あの王ではダメだ。器が小さい」
いや・・・・・・一国の王の器が小さいって。
「では、うちの坊主はどうだ?」
おいおいギレアス。なに言ってるのよ。
にやにやとこっちを見ているギレアスに殺意が湧いた。
王の器が小さいんだから僕なんかゴミじゃねーか。比べさせるな。
「そうだな、まず年回りが不釣合いであろう。もっとも我が一族からローズウッドに嫁がすなど、身分違いも甚だしくて考えた事も無いわ」
そうですよね。王の側妃を出すようなお家ですもんね。まあ、田舎の領主では身分違いだよな。
「まあ、そうなるわな」
「当然ですわね。おほほほほ」
途端に笑いに包まれた。
ちょ、ちょっと! ローザまでなに同調してるのよ?
「アレス様」
ラトリーが手をぎゅっと握って微笑んでくれた。
ありがとう。慰めてくれて。
「それより戦をするのか?」
良かった話を変えてくれて。
「おう、近々一戦するぞ」
どう見ても砦の雰囲気は普通を越えていたから僕も聞き耳を立てる。
「相手はどこだ?」
「わからん」
いやいや、ロヴァルさん戦う相手が分からないって。
それダメだろ。
「まあ、正直に言えば多すぎて分からんのだ」
「ははは、相変わらず派手だな」
「お、おう。戦は女子の次に好きだからな」と言いながら皿を下げに来たお姉さんの腰に手を伸ばした。
「きゃっ! 御館様!!!」
「おおお、手が滑った」
馬鹿である。
ロヴァルさんも黙っていたらそこそこなんだけど・・・・・・などと思いながらギレアスを見た。
見事な体格でこれぞ戦う騎士と言ったロヴァルさんに比べて、小柄ながらも盛り上がった肩の筋肉は見劣りしないギレアス。
ふむ、流石に竜殺しだけあるかも? と思った瞬間。
「お止めください!!!」通りかかる侍女さんのお尻を触って殴られてた。
こいつも馬鹿だ。
どちらもただの酒飲みでオヤジにしか見えないわ。
「ところで遠来の友に頼みがある。流石に戦に加われとは頼まんが届けてほしいものがあってな」
そうロヴァルさんが切り出した。
「当主を差し置いて、勝手に受けるわけにはいかんな」と僕を見る? えっ! ここで僕に聞くの?
「いかにも。弁えておる」
そうして僕のほうに向き直り。
「アレス様。お願いがございます」
えっ、えっ、えっ! 「ななな、なんでしょう?」
それまでの冗談めいた雰囲気から一変して戦う男の目に変わった。
「お急ぎかと存じますが、一つお願いを聞いていただけますかな」
そして僕らは王都へ行くついでに頼まれごとをされたのだった。




