やっと離れられた
「ぶはっ……!?」
「がはっ……!?」
5話の天井掃除における『音速ピンボール大クラッシュ』――。
激しいゴム弾の弾幕と、時速百キロを超える衝撃に巻き込まれた勇者と魔王軍の暗殺者は、王宮の床へと激しく転がった。
しかし、その凄まじい衝撃は、思わぬ奇跡(?)を引き起こす。
あまりの衝撃の強さに、これまで二人を頑強に縛り付け、一体化させていた「因縁の包帯」が、ブチブチブチィッ!!! と音を立ててすべて派手に弾け飛んだのだ。
床に突っ伏したまま、勇者が恐る恐る自分の手を見る。
そこには、四六時中繋がされていた魔族の手はなかった。
「は、離れた……? 離れたぞ! ついにあの魔族と離れられたんだ!」
隣で頭を打っていた暗殺者も、バッと飛び起きて自分の身体を確認する。
人間の勇者と骨格レベルで絡み合っていた呪わしい拘束は、今の衝撃で完全に消滅していた。
「ククク……ハハハハハ! ついに、ついにこの薄汚い人間から解放されたぞ! 自由だ! 五体満足の自由の身だ!」
二人はその場で、抱き合うこともなく(当然だが)、それぞれ逆の方向を向いて大歓声をあげた。
自力で動ける。別々に歩ける。手を繋がなくてもいい。
全身は打撲でガチガチに痛むが、そんなものは「一心同体ロボ状態」の屈辱に比べれば蚊ほどのものでもない。
「おい人間、これで貸し借りなしだ。私はこれから、あの掃除バカの息の根を止めに行く!」
「待て魔族、奴を仕留めるのはこの私だ! 完全に自由になった私の、本当の恐ろしさを教えてやる!」
みなぎる復讐心。溢れる解放感。
二人はそれぞれニヤリと不敵な笑みを浮かべると、即座に身を翻し、ゼクスを追って猛スピードで階段を駆け上がっていった。
「奴の居場所は割れている! 天窓から屋根の上に出たぞ!」
「上等だ、今度こそあの男に本当の『死』を与えてくれるわ!」
ようやく手に入れた、完璧な「自由」。
もう二度と、あの男のせいで不条理な目に遭うことも、ましてや手を繋ぐような屈辱を味わうこともない。
満身創痍の二人は、ただ復讐の炎だけを燃やし、一気に対決の舞台へと躍り出るのだった。
◆
その頃、カメラは切り替わり、王宮の奥深くにある国王の執務室へ――。
「ふふん、ふふ〜ん♪ 世界が平和になるというのは、これほどまでに心が安らぐものなのだな……」
国王は極上の紅茶を優雅に啜りながら、幸せそうに鼻歌を歌っていた。
数日前まで、魔王軍の電撃侵攻に怯えて夜も眠れなかったのが嘘のようだ。すべては、あの掃除係のゼクスフェルトがもたらした「勇者と魔王軍幹部が熱烈な接吻を交わして同盟を結んだ」という奇跡の報告のおかげだと信じ切っていた。
「ひ、陛下ぁぁぁーーーッ!!! 大変でございますっ!!?」
バァン!!! と凄まじい音を立てて扉が開き、顔面を土気色にした内務大臣が、転がるように部屋へと飛び込んできた。その手には、禍々しい紫色のオーラを放つ一通の書状が握られている。
「これこれ、騒々しいぞ大臣。世界はすでに平和になったのだ。そうそう大事件など――」
「その平和が、最初から大嘘だったのです!! たった今、魔王軍から公式の『抗議文』が届きました!」
大臣はガタガタと震えながら、その手紙を読み上げる。
「『我が軍の優秀な暗殺者が、そちらの勇者と強制的に手を繋がされたままパレードの馬車に乗せられ、時速百キロで暴走させられた。我が魔王軍は人間国と和解など一ミリもしておらん! あまりの精神的屈辱に、我が暗殺者は現在、深刻な精神的ダメージを負っている。これは明確な宣戦布告と受け取る』……とっ!!」
「な、なんということじゃ……っ!!」
国王はガタガタと震え、持っていたティーカップを床に落として割った。
世界平和のパレードまで開催し、国中がお祭り騒ぎになっているこの状況で、すべてはゼクスの「お掃除の言い訳」が生んだ特大のデタラメハッタリだったのだ。
その時、部屋の窓から、はるか上空の王宮の屋根のほうから「見つけたぞゼクスフェルトォォォッ!!」という、先ほど分離したばかりの勇者と暗殺者の凄まじい怒号が微かに聞こえてきた。
「だ、騙したな……ゼクスフェルトよ……! 国を挙げての大恥をかかせただけでなく、世界大戦一歩手前の国際問題まで引き起こしおって……!」
国王の顔が、怒りと羞恥心と恐怖でみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「おのれ……あの三白眼の掃除狂め……! 戻ってきたら、絶対に責任を取らせて、後で必ず魔王軍に向かわせてやる……!!」
執務室に、国王の激怒の咆哮が響き渡る。
王宮の平和のメッキが完全に剥がれ落ち、激怒した国王がゼクスへの「クビ宣告(第7話)」を決意した、激動の裏側の一幕であった。
カクヨムの方は完結してるので続きが気になる方は確認よろしくお願いします




