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追放されちった

お掃除大好き人間が無双する物語です…どうもバーレイグです。カクヨムでも投稿してるのでよろしくお願いします。

「――おい、ゼクス! お前みたいな『荷物を運んで片付けるだけ』の無能は、今日限りでクビだ! 追放だ!」

豪華な宿屋の一室。


響き渡ったのは、この国の若き英雄であり、魔王討伐の大命を帯びた「勇者」の怒声だった。


指を突きつけられた男――ゼクスフェルトは、微動だにせずその言葉を受け止めていた。


漆黒の髪に、鋭く尖った三白眼。


長身の体に黒を基調とした隙のない衣服を纏ったその姿は、黙っていれば伝説の暗殺者か、冷徹な国家エリートにしか見えない。


凄まじい威圧感を放つゼクスの沈黙に、勇者は内心で(ふん、あまりのショックに声も出ないようだな……!)と勝ち誇っていた。


だが。


超クールに見えるゼクスの脳内は、今、お祭り騒ぎだった。


(あ、追放されちった。……やったーーーーーー!!!)ゼクスは心の中で激しくガッツポーズを決めていた。


(これでもう、このバカ勇者が夜な夜な部屋で散らかす酒瓶や、脱ぎ散らかした防具を片付けなくていいんだ! 荷物持ちの仕事は移動が多くて掃除の時間が足りなかったからな。これからは誰にも邪魔されず、大大大好きな『掃除専門』として人生を謳歌できるぞ!)


歓喜に震える心をひた隠し、ゼクスは仕事人風の冷徹な表情のまま、深く一礼した。「――承知いたしました。今までお世話になりました」


「ふん、今更泣きついても遅いからな! さっさと出ていけ!」


ゼクスは静かに踵を返し、部屋のドアへと向かう。しかし、その時。


プロ掃除人としての悲しいさがが、床の一点に目を留めてしまった。


先ほど勇者がこぼした高級ワインの赤いシミである。


(お世話になった部屋ですし、汚したまま出るのは職人としてのプライドが許しませんね。最後くらい、綺麗に磨いておきましょう)


ゼクスは歩きながら、誰にも気づかれないよう、心の中でそっと生活魔法を唱えた。『摩擦係数:ゼロ』。


それは、ゼクスが「床にこぼれた頑固な油汚れやシミを、雑巾でヌルッと一瞬で拭き取るため」だけに極限まで鍛

え上げた、お掃除専門の地味魔法である。


床のミクロな凹凸を完全に無くすことで、ワインのシミは絨毯に染み込む前に、綺麗さっぱり消滅した。


「よし、ピカピカですね」ゼクスは満足して、静かに部屋のドアを閉めた。


本人は魔法の効果を戻すことを忘れてしまっていた。さらに気づいていなかった。


その部屋の床全体の物理法則が、完全にバグってしまったことに。



◇ゼクスが去って三分後。


勇者が「フン、荷物持ちの奴隷が一人消えたところで、俺たちの旅には何の影響もないわ!」と高笑いしていた、


その時。


カチャ、と窓の鍵が開いた。乱入してきたのは、漆黒の装束に身を包んだ、魔王軍の超一流暗殺者のゴツい男だった。


「勇者め、命を貰う――!」


「なっ、魔王軍の刺客!? 死ねぇい!」敵味方に分かれ、お互いに武器を構えて激しく地面を蹴り、突進する二人!激突の瞬間――二人の足が、ゼクスが磨き上げた床に触れた。


「「――あ」」


ツルンッ!!!それは、バナナの皮を同時に踏んだような、全人類共通の美しいスライディングだった。


摩擦が完全にゼロになった世界では、踏み出す力はすべて「滑る力」へと変換される。


ブレーキなど一ミリも効かない。


「うわあああ!?」


「なっ、なんだこの床はぁぁぁ!?」


凄まじい速度で、正面衝突コースを滑走する勇者と暗殺者。ドゴォン!!! と激しい音が響き、二人は勢い余って

ガシッと抱き合う形になった。


そして、不運にも、お互いの顔が完璧な角度で正面衝突し――。


ぶちゅううううううううっ!!!!!


部屋の中に、お互いの唇と唇が凄まじい圧力で重なり合う、肉厚な音が響き渡った。


勇者と暗殺者の目が、限界まで見開かれる。


((な、何が起きている!?!?!?))あまりの精神的恐怖と絶望に、二人の脳内が完全にフリーズした。


だが、物理法則は止まらない。


正面衝突の衝撃で、勇者の腰にあった「伝説の聖剣」が、鞘との摩擦を失って『するんっ』と自重だけで抜け落ちた。


聖剣は床をホッケーのパックのように超高速で滑っていき、ベッドの下の数センチしかない超狭い隙間へと「シューーーッ」と吸い込まれて消えた。


しかし、二人は聖剣どころではない。唇を完璧に重ね合い、ガシッと恋人のように抱き合った姿勢のまま、床の上をノンストップで滑り続けている。


バガァァァン!!!二人は抱き合ったまま部屋の木製のドアを突き破り、そのまま宿屋の長い廊下へと躍り出た。


摩擦ゼロの慣性は恐ろしい。廊下に出ても速度は一切落ちず、むしろ加速している。「「んんーーー!?!?(止まらん!!!)」」唇がくっついているため、悲鳴すらまともに出ない。


廊下にいた他の冒険者や宿泊客たちが、「えっ、何あの二人……」「昼間から廊下で抱き合って激しいキスをしながら爆走してる……」「特殊なプレイか?」と、ドン引きの目で見守る。


その冷たい視線を浴びながら、勇者と暗殺者は廊下の果てまで「シューーーーッ!!!」と高速スライディングし――。


ドッシャァァァン!!!!!突き当たりの壁に激しく激突し、ようやく停止した。


二人は唇をくっつけたまま、白目を剥いて綺麗に気絶するのだった。


◇その頃。宿屋の外へ出て、どこまでも広がる美しい青空を見上げる男がいた。


黒髪をなびかせ、相変わらず冷徹で鋭い三白眼を輝かせているゼクスである。


すれ違う人々が、その圧倒的な「凄腕の暗殺者感」に恐れをなして道を譲る中、ゼクスは真顔で、とても晴れやかなことを考えていた。


「……よし、お世話になったお部屋もピカピカに磨けたし、これからは新しいお掃除の仕事を探そう。」


元・荷物持ちの、クール(?)なプロ掃除人ゼクス。彼の、世界を巻き込むツルピカお掃除ライフが、今ここに幕を開けたのだった。

更新速度は高校生活の合間にしてるので遅いと思いますがどうかご了承お願いします。

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