あとがき
SST?何それ?
海上保安庁特殊警備隊?何それ?
それが普通の日本人の感覚だろう。勿論、知らなくても何の差し支えも無い。だが、それで良いとしてしまうのはまずいんじゃないか?それが本作を書くに至った原点である。
恥ずかしながら、本作を書くまでは海上保安官の階級すら知らなかった。ボケーとして、ああSSTってこう言う装備でこう言う作戦に従事するのか。と実際のSSTとは解離したフィクションの世界の中で物語を展開してしまったが、物語を進めていく内に海上保安庁特殊警備隊と海上保安庁特別警備隊の違いまで理解するに至った。
SSTが自衛隊の武器を使っている事には驚いた。まぁ、確かに海保の規模からすれば、単独武器開発をする余裕はない。自衛隊の武器を共同使用する方が有事の際に都合も良い。だがSSTの装備は全くアップデートされておらず、それは何かといけない事だが、まぁ、新しければ何でも良いと言うのも何かと違う。
それにSSTの活動範囲が広い事に目をつけアフリカ大陸に話を持って行ったのは失敗だった。現実味の高い中国を念頭に、ストーリー展開するべきだったと反省している。
なぁんだ、SSTって海上自衛隊っぽいじゃん。と思われた読者もいただろう。だが実際には爆弾処理もNBCテロ対策もするし、救命もする。言うなれば海の何でも屋なのである。海保一万人の内の56人の超少数精鋭部隊であるSSTは、自衛隊と同じかそれ以上の物を持っている。自衛隊との違いや海上保安庁特殊警備隊の海保内における立場などは分かりやすく書いたつもりだ。
主人公の神海人は海上保安大学校、通称保大卒業のエリートとして本来なら順調に出世するはずであった。しかし、SSTに配属された神のエリート街道に待ったがかかる。それでも神海人は、セカンドユニット(第2特殊警備隊)の仲間を中心に、人間として成長していく。
米国と共同作戦をとるシーンなんかもあった。我なりに日米同盟と海上保安庁の関わりを意識したものだが、海保は非軍事組織でありながらやはり米軍とのコネクションは日本が島国である以上限りなく黒に近いグレーゾーンである事も書かぬ訳には行かなかった。
物語の最終番からは神海人の孫らを軸に今作が小説である事を強く印象付けた事を意識したものだ。本来なら主人公の神海人を作中で死なすのは一番躊躇った。結果として最終番の5ページはエピローグに近い。
書くネタが無かったと言えばそれは嘘ではないが、諸事情が重なり今作の構成に落ち着くことになった。保大や海上保安庁の事をもっと取材すべきだったと反省している。とは言え、作中で描いた神海人やその他愛すべきキャラの面々は頑張って?くれたと思う。女性初の海上保安庁長官山名愛。その孫の洋子。男女平等の現代では最早そうなる日が来るのも時間の問題だろう。