13 学園見学だよ
夕食から帰ってくると、転写書に返信が来ていた。
嬉々として読んでみると、ダンジョンの下層まで潜っていたので返信が遅くなったとの謝罪。後はレティシアみたいな子がいるのかと驚いた様な内容だった。
(いや、まあ。『私』なんだけどね……ん? 『レティシアみたいな子』ってどういう意味よお兄様!?)
内心憤りを感じつつ、適当にはぐらかす内容を書き留め転写書をしまった。
「よし。歯を磨いて、お風呂入ってさっさと寝よう!!」
明日からいよいよ本格的に学業がスタートする。
明日の予定表を確認したソレイユは、明日に備えて早めに就寝する事にした。
翌朝。
「朝だ!」
セットしておいた目覚まし時計より、ソレイユは早く目を覚ました。
窓を見ると、カーテンの隙間から既に明るい朝日が差し込んでいた。
ベッドから勢いよく飛び起きると、カーテンを勢いよく開け放つ。
朝日を浴びながら快晴の空を見上げて、思いっきり伸びをした。
「うーん良い天気! 絶好の学園見学日和ー!」
その場で軽くラジオ体操をしてから、昨日も着ていた制服に早速着替えた。
制服は自動的にクリーニングされており、シワ一つない。
(この学園の制服もすごいハイスペック。これ売ったらいくらするんだろ?)
脳内でそろばんを弾きながら身支度を済ませると、朝食を食べに食堂へと出発した。
朝食は昨日の夕食と同じビュッフェスタイル。だが毎日メニューが違うらしい。本当にセレブな学園だ。
食堂でちょうどレテアに会ったので一緒に朝食を済ませた。共に登校する約束をしてから、一旦自室に戻り、持ち物を再確認して急いで部屋を出て玄関フロアに向かった。
レテアは居なかったので待っているとすぐにレテアが転移魔法陣から出てきた。
「お待たせしてごめんなさいソレイユ」
「ううん、全然待ってないよ。さあ行こっか!」
「はいっ」
笑顔で連れ立って寮を出発した。
「今日の学園見学、気になっている教科があるのでとても楽しみなんです」
「私も結構楽しみにしてるんだ! いったいどんな見学が出来るんだろうね?」
他愛のない会話を交わしながら、本館の入口を通る。
Sクラスの見学集合場所は、昨日の教室ではなく視聴覚室だ。そちらへ向かおうとしたが、レテアが教室の方向に歩き出したので慌てて止めた。
「あ、レテア。今日の集合場所の視聴覚室はあっちだよ」
「え? 視聴覚室はこちらではなかったですか?」
「んー。行けなくはないけど、遠回りになるよ。こっちのルートが最短で着くよ! こっちこっち!!」
入り組んだ廊下を暫く歩くと、視聴覚室とプレートがかかった教室にたどり着いた。
「よし着いた。ここが視聴覚室だね」
「校内は入り組んでいて分かりづらいですね……。でも、ソレイユのお陰で迷わずに辿り着けました! すごいですソレイユ。私一人では迷っていたかもしれません……」
「あはは。校内地図を丸暗記してただけだよ。今日の見学で、一通り学園探索出来ると良いんだけどね」
扉を開けると、一番前の席に座っているセレーネとミモザが談笑していた。他にはナハトが自分の席に座っているのが見えた。
ソレイユ達に気付いたセレーネとミモザは笑顔を浮かべた。
「ソレイユ、レテア。おはようございます」
「お二人共、おはようございます」
「おはよう! 二人共早いね!」
「おはようございます。セレーネさん、ミモザさん」
挨拶ついでに四人でたわいもない雑談をしていると、次々とクラスメイト達が視聴覚室に入室してくる。
予鈴が鳴ると同時に、最後はアナスタシアが入室してきた。
「あ、おはようアナスタシア!」
「ご機嫌よう。……貴女は朝から、意味もなく元気ね」
「あれ? そう言うアナスタシアは、なんだか少し元気が無くない?」
「……フン。ちょっと朝が苦手なだけよ」
アナスタシアはそういうと、さっさと自分の席に向かって歩いていった。
(あー…。学園だと侍女とかいないから、誰かに起こしてもらえないもんね。自分で起きるのって、貴族令嬢だったらキツいのかも)
予鈴が鳴ったので、ソレイユ達も自分の席へ移動することにした。
着席して荷物を整理しているうちに本鈴が鳴り、暫くしてレグルスが入って来た。
レグルスは教壇に立つと、Sクラスの生徒たちを見渡して穏やかに微笑んだ。
「皆さんおはようございます。全員揃っていますね。では、今日の学園見学を説明します。
まず。Sクラスは通常のクラスとは違い、皆さんの得意分野に焦点を当てた少人数制の特別専攻コースとなります」
レグルスは教卓に設置してある投影魔道具に手を触れると、背後の黒板に三つの見学コースが浮かび上がった。
『Sクラス 専攻見学コース』
1. 実技・鍛錬コース: 鍛錬場、対戦フィールド、魔導研究室
(戦士・魔導士科)
2. 知識・理論コース:古典籍閉架図書館、文献解析室、歴史資料館
(実務科、考古学魔法研究科)
3. 応用・生成コース: 錬金術研究棟、魔導具開発室、薬草園
(魔導具技能科、薬師科)
「先日お配りした資料にも記載されている内容です。自分の得意属性、あるいは今後極めたいと思う分野に合わせ、この三つのコースを優先順に選択して下さい。一番に優先したコースでは、実際に体験授業を受ける事が出来ます。他のコースは案内と説明のみとなります。
見学後に、改めて専攻科目を選んで下さい。専攻授業は通常授業とは異なります。Sクラスの特徴としては、他のクラスより実践的でワンランク上の講義となります。
即ち。今回の選択が、今後一年間の学習計画に大きく関わる事になります」
レグルスの最後の言葉には『しっかりと考えてから選べよ?』の内なる声が含まれている気がして、ソレイユは昨日受け取っていた、手元にある資料を改めて見てみる。
通常授業は午前。専攻授業は午後の時間構成が基本のようだ。自分にとって有意義となる科目を選ばないと、確かに今後の進路に支障が出るだろう。
「ですが。週に一度、特別授業として他の専攻授業を受講する事ができます。特別授業は自習時間としても構いません。一年生の内に自分の進むべき道を模索してみて下さい。
なお、進級毎に専攻を変える事も可能です。……しかし。私一個人としては、専攻を変える事は基本的におすすめしません。何故ならリスクが多く、大きいからです。どの科目も容易に単位を修得出来るものではありません。よく考慮してから決める事を推奨します。
説明は以上です。何か質問はありますか?
……ないようですね。では早速ですが、第一希望を皆さんにお聞きします。まず、実技・鍛錬コースを希望する生徒は、挙手して下さい」
レグルスの声に手を挙げたのは、ステイルにアナスタシアの二人。
「ステイルさんにアナスタシアさんの二人ですね。では、二人とも前に出てきて下さい。見学の際、筆記用具など必要であれば持参して下さい」
二人が教壇の前にやって来ると、レグルスは二人に微笑んだ。
「今から担当顧問の先生と移動してもらいます。……ゼプルス先生、お入り下さい」
レグルスが視聴会室の扉に向かってそう声掛けすると、ゆっくり扉が開いて、一人の男性が入ってきた。
やや癖のある黒髪で肩まである長髪の前髪を左右に分けている。鋭い眼光の茶色の瞳。
黒いローブ姿の長身男性は、大股でしっかりとした足取りでステイルとアナスタシアに近づいた。
「……二人だけか。まあ良い。私の名はゼプルス。戦士・魔導士科の顧問を務めている。これからまず鍛錬場に向かい、説明は現地で行う。時間が惜しい。お前たちの自己紹介は後だ。二人共、遅れずついて来なさい」
淡々とした口調で言うと、すぐに踵を返して扉へと歩き出す。
(……あ! 聞き覚えのある声だと思ったら、魔力測定の時の偉そうな人の声と同じだ!)
ソレイユがそれに気が付いて、ゼプルスをまじまじと眺めていたら。
(うん?)
ゼプルスが部屋を出る一瞬、ゼプルスと目が合った気がした。




