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魔王城を攻略せよ 下

「この部屋、やけにでかいな……」


 門を開いて魔王城の最上階にある巨大な部屋へと入ると、俺たちはあたりを見渡した。だだっ広い部屋は全体的に薄暗いが、よく目を凝らすと凝った装飾品がたくさん見える。


 俺が最初にこの世界に来た時の、王城にあった召喚の間のような荘厳な雰囲気を醸し出す部屋の中で、俺たちを見下ろす巨大な存在が一つ。


「あの方が、このダンジョンのボスである魔王のようですね」


 ビオラの言葉に俺は黙って頷いた。軽く四メートルほどある巨大な肉体に、とってつけたような角。禍々しいオーラを放ちながら剣を構えるこいつは、間違いなく魔王だろう。


 俺たちがそう察して息をのんでいると、魔王は一言だけつぶやいた。


「運命を変えたければ、力を示せ。自由が欲しくば、我が屍を超えて行け」


 瞬間、部屋の壁にでかでかと180という数字が浮かび上がり、それが一秒に一つずつ減っていく。それが表すことは一つだった。


「……このボス、耐久戦か」


 ダンジョンボスが三分間耐えるだけで勝てるなど前代未聞だが、いったいどれだけ強いのだろうかと思いステータスを見る。

 しかし、それは愚行だった。


魔王(ダンジョンボス個体)

レベル 85

種族 ××


「レベルが高すぎるだろ……」


 思わず戦意が喪失しそうになるほどのレベル差。今までこの魔王城で出てきたモンスターの約二倍ほどはある。

 ただ、こっちが攻めないと逆に攻められるだけだと思った俺はすぐさま攻めの指示を飛ばす。


「俺があいつの注意を引きながら接近するから、ビオラはいきなり特大の魔術を頼む。できれば、相手に深くダメージを負わせて動けなくさせたい! ゲイルは俺とビオラのサポートを頼む!」


「了解しました」

「あいよ。わかったぜ」


 俺の言葉に二人とも頷いてくれた。それを見終えてから、俺は魔王に突撃する。正直まともにダメージを与えられるとは思っていないが、少しでも魔王の気を引いてビオラの魔術の通りをよくしたい。


 赤いオーラを放ち自分自身に注目が集まるスキル《β》を発動しながら、俺は一直線に魔王の元へ向かい足元を剣で切り裂く――はずだった。


「嘘だろ……」


 ダメージがまともに入るはずないとは予想していたが、まさか鋼鉄な皮膚が切り裂くことそのものを拒むとは思わなかった。


 つまり、白虎βの素材で作られたこの剣よりも魔王の足の皮膚のほうが固いというのだ。


「ただ……それでも!」


 俺は魔王からの反撃の一閃をかろうじて避けると、一瞬のスキをついてビオラに合図を送る。それをビオラは分かってくれたようだ。


 魔王の周りに突如として巨大な魔方陣が生まれる。それと同時に、ビオラは囁くような小さな声で唱える。


「魔力充填――過剰。被害想定――完了。龍星群(メテオドライブ)、投下します」


 瞬間、部屋を埋めつくほど無数に龍の形をした光が現れる。その龍は、標的である魔王をロックオンすると次々に襲い掛かった。


「やったか!」


 延々と続く轟音。部屋の中には爆発に伴う煙幕が立ちこみ、静寂が支配した。オレもゲイルも、ビオラさえも確かな手ごたえを感じていた。

 これで十分に時間を稼げると、そう思っていた。


――思っていたのだ。


「おい……」

「まさかそんなはずねぇよな。あの一撃を受けておいてよぉ!」

「……さすがに、想定外です」


 立ち込める煙を剣でひと払いする魔王に、傷と呼べるものなど()()()()()()()。平然とした顔で、魔王は俺たちを見下ろしている。


 その程度か? と言いたげな瞳で。


「今の魔術は、邪龍を倒した最強の一撃だぞ……」


 いやな汗が首筋に流れる。焦って壁に表示された時間を見るが、そこには無慈悲に100と書かれていた。つまり、まだ半分も経過していないということだ。


 俺が驚愕している間も時間は刻々と進む。魔王が攻撃に転じるのに、さして時間はいらなかった。

 重く鋭い剣が構えられる。その剣が向かう先は――俺ではなくビオラだった。


「マジかよ!」


 ヘイトを買うスキルはしっかり使っているにもかかわらず、魔王は俺でなくビオラに攻撃しようとしている。これはおそらくレベル差がありすぎるせいでスキルが効いていないからだろう。


 頭では理解したが、状況が好転することはない。突如として、ビオラは死の間際に追いやられたのだ。


「逃げろビオラぁあああああ!」


 俺はそう叫びながら、全力で魔王とビオラの間に入って盾を展開しようとするが間に合わない。魔王の図体に似合わぬ機敏な動きによって、ビオラを剣が貫く――寸前。


「範囲指定――完了。反動想定――完了(クリア)世界停止(ワールドエンド)、開始」


 この世界から、突如として色が消えた。この体験はかつて一度したことがあった。自分たち以外すべての時間が止まるこの現象。起こした正体は一人しかいない。


「本当に助かった。ありがとう、ゲイル」

「感謝します。ゲイルさん」


 時間を止めたゲイルは少し照れているのか、そっぽを向きながらぶっきらぼうに答えた。


「……うるせぇ。それより、急ピッチで使ったから長く持たない。後、今日はもうこの魔術は使えないから忘れるなよ」


「あぁ。わかった」


 俺たちができる限り魔王から遠ざかって陣形を組んだところで、世界に色彩が戻った。刹那、まるで鎖から解き放たれた獣のように、方向転換して俺たちのほうを向くと一目散に襲ってきた。


 しかし、今回は予想できていたこと。


「さぁ来い!」


 可能な限りすべてのスキルを開放して、俺は極限まで防御力を高める。背中側にビオラとゲイルをおいて守るような陣形で、俺は魔王の一撃を待った。


 まるで永遠のように感じる時間を経て、魔王は目の前までやってきてその剣をふるった。それに合わせて、俺も盾を構えた。


 今回は、躱さずに受け止める。なぜなら、躱した瞬間に攻撃対象が俺ではなくなってしまう恐れがあるからだ。


「うおおぉぉぉぉおおおおおあ!」


 剣と盾が交錯した刹那、床が割れんばかりの重圧が体全体に重くのしかかる。ビオラとゲイルが俺に補助魔術をかけてくれていても尚、立つこともままならないほどの圧力。


 圧倒的なまでに、格が違った。


「それでも……ここで負けるわけにはいかないんだ!」


 ただひたすらに足腰に力を加える。負けた自分を想像する時間すら惜しかった。すべての力を込めて、俺は眼前の魔王をにらみつけた。


 メキメキ、と。純白の盾にひびが入っていく音が聞こえる。それでも決して諦めてはならない。


 諦めた瞬間に、余波で全滅するのは目に見えていた。


「耐えろぉぉおおおお!」


 祈るような声で俺は叫ぶ。しかし、現実は非情だった。

 バリンと無情な音が鳴り響き、盾が崩れたのと同時に俺たちは全員壁際まで吹き飛ばされる。


「グハっ……」


 口の中に血の味が広がると同時に、俺は死を覚悟した。

 魔王はすぐさま追いかけてきて再び剣を振り上げる。それを受け止められるだけの余力がある者はもういなかった。


 剣が空気を斬り近づいてくる。そして俺の目の前に来たところで――止まった。


「……え?」


 俺は意味が分からず呆けた声を上げてしまったが、次の瞬間にすぐこの状況を理解した。


「……どうやら、耐えきれたようです」


 壁に書かれた数字を見ると、そこには0という文字が燦然(さんぜん)と輝いていた。


「へへ、やったぜ! オレ達はついにやり遂げたんだ!」


 ゲイルが天に拳を突き上げて笑顔を浮かべていた。それに合わせて、俺とビオラも笑顔を浮かべる。


 そんな俺たちに向かって魔王は起き上がって言葉を告げた。


「汝らの力、しかと見届けた。汝らであれば、きっと――。さぁ、奥にあるスイッチを押すがよい。覚悟ができたらな」


 よし。これであとはスイッチを押せば悪魔たちはこの狭い魔界から解放される。俺はそう思いながら、スイッチに向かった。


「それじゃあ押すぞ!」


 二人が同意を表すように頷くと、俺はゆっくりとスイッチを押した。


――瞬間、訪れたのは希望ではなく絶望だった。


「ビオラ! それにゲイルも! どうしたんだよ二人とも!」



 悲鳴を上げながら、突然頭を抱えて苦しみだした二人。

 クエスト達成を告げる電子メッセージは……まだない。

 次回より、《悪魔の契約編》の根幹に迫ります。

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