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壁の外への渇望

 見えない壁を壊してほしい、と言われても正直何をどうすればいいのか全く分からない。そもそもそんなに簡単に壊せるようなものでないことは、ぶつかった段階で察していた。


 ゲイルは俺の顔を見ると少し笑ってから口を開いた。


「わるいな。少し説明が足りなかったか。それにしてもいいアホずらだったぜ。写真に収めたいくらいだ」


「……うるさい。いいから、詳細を教えてくれ」


 先に助けてもらっている以上、契約者である俺のほうから契約を解除することはご法度だ。そのため、少しイラっと来ても受け流すしかない。


「まぁそう怒るなって。ほら、あそこにでかい城が見えるだろ」


 ゲイルはそう言ってとある場所を指さした。そこは巨大な城だ。たとえて言うなら、ゲームに出てくる魔王城のような外観。

 紫を基調としていてトゲトゲとした風貌は、まさしく魔界にそびえたつのにふさわしい形をしている。


「あそこは魔界が生まれた時からあったらしくてな。そして、あの最上階にはスイッチがあってそれを押すことでこの不可視の壁がすべて壊れるらしい」


「なるほどな。要するに、あそこの城の最上階に行ってほしいっていうのが、ゲイルの望みなんだな」


 正直、腑に落ちない点が多い。まず、なぜそんなものが存在しているのか。スイッチがあるということは、この壁を誰かが作ったということだ。

 だれが何のために作ったのかが、点で分からない。それに、このことを何故ゲイルが知っているのかもわからない。


 しかし今それを考えていても仕方がないので、一度頭の片隅に置いておこう。


「別にあの城の最上階に行くだけならば、わざわざ私たちを助けて契約を結んでまでやらせる必要はないのではないですか? それに、この壁があっても《転移》で行けばいいのではないのですか?」


 俺の抱えていた疑問を、ビオラが言ってくれた。ゲイルはこの疑問を順々に解消していく。


「あの城はいわゆるダンジョンで、強いモンスターがたくさん襲ってくるんだ。たまたまあの村での活躍を俺が見たから、お前さんたちをスカウトしたわけだな。あと、転移を使えるのはこの魔界で俺だけなんだ。だから、他のやつらはみんな生まれた時からここに縛り付けられている」


 ゲイルはそう言うと悔しそうな表情を浮かべた。


 そこまで聞いて、俺は大体理解する。要するにゲイルだけが唯一転移を使えるから、この事態を解決できそうな人間を探していたのか。


 そして、契約チャンスの場面に遭遇したわけだ。


「よし、わかった。それじゃあ二日後にあの城に挑戦するから、二日後にあの城の前で集合しよう」


 俺がそう言うと、ゲイルはありがとよと言ってどこかに飛んで行ってしまった。


 瞬間、一通の電子メッセージが届く。


《緊急クエスト 囚われた悪魔を開放せよ》推奨レベル??


魔界に住む悪魔たちを救出し、そこに隠された真実へたどり着きなさい。


発生条件:魔界を訪ねる

達成条件:悪魔達を救出する


達成報酬:経験値1000

    :アイテム《邪悪なる剣》


「……なんか、凄い話に巻き込まれたな」


「そうですね。ですが私たちもできる限り頑張りましょう」


「そうだな」


 ゲイルは少し気に食わない部分もあるが、他の悪魔たちを自由にしてあげてほしいという思いはしっかり伝わってきた。

 

 ここはひとつ、頑張ろうではないか。


「とりあえず二日間の空きができたし、今から魔界の観光でもしないか? こんな場所めったに来れるものでもないし」


「いいですね。それではとりあえず、まずは街に戻りましょうか」


 懸賞金目当ての追手が来ない場所にいるということもあり、完全に肩の力が抜け切った状態で俺たちは街へ向かった。



●●●



「……もう少し、右の方をお願いします」


「ここらへんか?」


「そ、そのあたりです。ありがとうございます……」


 悪魔たちの住むこの魔界を観光していた俺たちが今していること。それは、ビオラのブラッシングだった。


 魔界の露店で売っていた悪魔用のブラシをビオラが興味津々に眺めていたので、買って使ってみたところとても気持ち良いようだ。

 同じ幻想種だから合うのだろうか。わからないが。

 

 広場にある木の下で横になっているビオラは、まるで至福のひと時とでも言いたげな顔をしていた。


「思い返せば、ここまでビオラにはずっと頑張ってもらっていたからな。邪龍と戦った時も研究所での戦闘の時も、いつも助けてもらっていたよ。ありがとう」


「……いえ」


 ビオラは恥ずかしいからか気持ちがよいからか分からないが、顔を赤らめてうつぶせになっていた。

 そんな姿を愛らしく思いながら俺がブラッシングを続けていると、そこに一匹の悪魔がやってきた。


「おじさんは、外の世界から来たんでしょ?」


 子供の悪魔らしきその子は、勇気をもって俺に話しかけてきたのか少し緊張している。まぁ、今まで一度も同族以外と喋ったことが無いなら当然か。


「おう、そうだぞ。それでどうしたんだ?」


 俺がそう答えた途端、その悪魔は目をキラキラと輝かせた。


「外の世界ってどんな場所なの⁈ 太陽ってどのくらい眩しいの? 教えて教えて!」


 悪魔の子供は、そう言ってどんどん距離を近づけてくる。さらに俺の話に余程興味があったのか、気が付けば俺とビオラの周りをぐるっと悪魔たちが囲んでいた。

 みんな一言も聞き逃すまいと真剣に俺のほうを向きながら、発せられる言葉を待っている。


「えぇ……と、そうだな……」


 流石にこんなに真剣に聞かれたらこっちも緊張してしまう。まるで社内プレゼンみたいだな……と思うと気が滅入ってしまったのでその考えはすぐさま捨てる。


「まず、太陽はとても眩しい。直接見たら失明するくらいだな。それと――」


 最初は緊張していたものの、俺の言葉一つ一つにリアクションをとってくれるので俺は調子に乗ってたくさん喋ってしまった。


 気が付くと二時間ほど喋ってしまっていたようで、視界の端に映る電子時計を見て驚愕した。しかし、こんなに長くしゃべっていてもずっと楽しそうに聞いてくれるなんて――。


「こんな感じかな。それじゃあまたな!」


 俺はそう言うと、ビオラと一緒に混雑している広場をかき分けて出ていった。

 ようやく二人だけになると、ビオラが話しかけてきた。


「それにしても、皆さんずいぶんと魔界の外の世界に興味がありましたね」


「そうだな。生まれた時からこの光景しか知らないからこそ、気になるんだろうな」


「……そうですね」


 おそらくゲイルも普段からこんな感じに囲まれていたのだろう。だからこそ、他の悪魔にも外の世界を見せたいと思っているに違いない。


 そう思った瞬間、街の外れにあるベンチに見覚えのある姿が見えた。その悪魔はもう一匹の悪魔に熱心に話しかけている。


「でな、オレは颯爽とピンチに現れて決め台詞を吐くわけよ! 『オレと契約しないか?』って!」


「ホホ、外の世界には面白いことがたくさんあるのじゃな。顔を見ればわかるよ」


「そうなんだよ! 広大な自然にたくさんの種族の生き物。刺激が盛沢山なんだ! だから、オレがいつか爺ちゃんに外の世界を見せてやるから、待っていてくれ! ようやくそのめどが立ったんだ」


「それはうれしいのう。気長に待っておるぞ」


 どうやら、そこにいたのはゲイルとそのお爺ちゃんのようだ。ゲイルが外の世界の話をして、それをお爺ちゃんが楽しそうに聞いている構図は微笑ましかった。


「二人を邪魔するのも悪いし、俺たちは他の道にある適当な宿屋を探そうか」


「はい。それがよいでしょう」


 ビオラとそんな会話をしながら、俺たちは来た道を引き返す。

 魔界に来た時よりも、不可視の壁を壊そうという意志は強固になっていた。

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