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慢心創痍

「プリム様!」

 副官達が悲鳴を上げる。


「ああ、うん、大丈夫……でも、最悪……」

 プリムは叩き付けられた壁から中央まで戻ってくると襲撃者達を睨みつけた。


「やってくれたね」

「ふむ、存分と威勢がいいな。まあ、すぐに嘆く事になるだろうがな……ここで我等に遭遇した不幸を!」

 山羊頭が嘲笑すれば追従するように翼を生やした鬼達も笑う。


 山羊頭はその存在感から<上級悪魔グレータデーモン>と見て間違いないだろう。付き従う四体は<下級悪魔レッサーデーモン>だ。


 悪魔というよりはむしろ魔族と呼ぶべきだろうか、彼等は地上世界ガイアの裏にあると呼ばれる<魔界>の住人なのだ。天界に住まう天使達と敵対関係にあるようで時折、地上に出て来ては戦っていたりする。


 それだけに悪魔の戦闘能力は高い。上級にあたる山羊頭の戦闘能力は五ツ星級は下らないであろう。下級のそれも四ツ星級に届いている。


「まったく割に合わないよ」

 プリムは肩を竦めて口をこぼす。


「ふはは、我等の存在を臆したか、存分に恐れ慄くがいいぞ」

 どうやらプリムが怯えてみえるのが愉しいらしい。中々にいい性格をしている。元々地上に上ってくる悪魔には残酷な者が多いという。


 死霊王はふぅと小さくため息を付いた。


「いや、君達については全然……」

「何?」

「問題はね、君等とどれだけ戦っても、スコアが全然稼げない事なんだよ!」

 先ほど<地獄の業火>を使って百を超える魔物達を一蹴したというのにポイントに変化はなかった。


 それはつまり、この魔法生物達がダンジョンシステムによって作られた存在ではなく、ギルドダンジョン内で生成された事を意味していた。


 ダンジョン内に持ち寄った素材から武器を作っても配置コストはかからない。それと同じくダンジョン内にある素材を使って魔物を作り出しても配置コストはかからないのだ。


 スコアは配置コストを使って算出される。配置コストがゼロならどれだけ倒したところでスコアはゼロのままなのである。


 もちろん、その気になれば<闇の軍勢>でも似たような事は出来るかも知れない。例えば巨人族の死体をアンデットとして蘇らせるくらいなら<死霊王>であるプリムにも充分に可能だ。


 しかしアンデット化は死体を動かせるようにするだけで、生前と同じような振る舞いが出来るわけではない。知性が著しく衰えてしまうため戦闘能力は半分以下にまで目減りする。


 素体となる死骸を用意しようにも高位の素材となれば配置コストがかかる。結局は等級の低い初期モンスターを育成したほうが費用対効果は高いのだ。


 プリムが出来そうな事といえば、せいぜいがこの戦いで亡くなった部下の死体を低位のアンデットとして蘇らせ、使役するくらいだろう。


 数千数万という魔物達を同時に練成し、使役する事は不可能に近い。膨大な魔力を持ち、死霊術、錬金術、召喚術といった様々な古代魔法を使いこなせる魔術師でもなければこんな事は不可能であった。


「ふ、言うではないか、悪霊の小娘よ。しかしこの戦い、我等だけと思ったか?」

 山羊頭の後ろからは次々に増援が現れていた。通路を埋め尽くさんばかりの<骸骨騎士>、そして彼等を守るように立つ<ストーンゴーレム>。その数は万を超えるだろう。


 五ツ星や四ツ星といった強者を倒すには数の暴力によって囲むのがセオリーだ。強力な五柱の悪魔を相手にしてしかし数の優位性すら持ち得ない。


「勝ち目なぞない。大人しく降伏せよ、さすれば苦しめずに殺してやろう」

「貴方、つまらないね……。敵の前で油断するとか思ってるのかな? まあ、いいか。おかげで時間は稼げたし。行くよ、準備はいい?」

「はい! プリム様!」

「もちろんです!」


「ほう、それでもなお抗うか。中々興味深い。しかし、もう飽いたわ! その不遜、死んで詫びるがいい!」

 山羊頭が飛び込み、鍵爪を振るい――、


「聖光灯射出!」

 金色の光を広場が包んだ。








「これは! 忌々しき奴等の光!」

 強烈な聖なる光を前に悪魔は思わず手をかざした。位階の低い配下、<下級悪魔>が全身から煙を出しながら苦しみ始める。更に一ツ星級のアンデットである<骸骨騎士>に至っては端から浄化されていく始末だ。


 魔導具<聖光灯ホーリーライト>。聖なる光を放つ魔導具であり、この光に包まれた空間は問答無用で光属性――悪魔達が苦手とする――のフィールドに書き換わってしまうという代物だった。


「しかし、貴様も闇の種族であろう! 自殺行為だぞ!」

 死霊族を始めとして人狼や吸血鬼といったアンデットはこの光を受けると弱体化する。その強度によっては<骸骨騎士>のように浄化させられかねない。


「確かに僕等も光属性を苦手としているよ、けどね。そんな分かりやすい弱点に何の対策も取らないとでも思っているの?」

 プリムは言いながらいつの間にか身につけていた外套の裾を翻した。


「それは――」

「<闇夜外套ナイトマント>。効果は装備者への光属性耐性付与」

 ダンジョン<魔王城>ではこれまでの幾度となくダンジョンバトルを戦い、その総てに勝利している。


 その中にはナンバーズ級の猛者もいた。単独で軍を相手に出来るような化物とだって戦った事がある。そして、その大半が闇の眷属に対して特攻効果のある光属性を主軸にして挑んできた。


 苦労したし、痛撃を受けたこともあった。自らの属性が敬愛する主人を苦しめている事実に涙した事だってあったのだ。


 ――光属性だけに対策すればいいんだからむしろ楽だわ。


 しかしプリムの主人はそんな風に言って笑ったのだ。


 魔王は卓越した知性によって<闇夜外套>や<封光石の指輪>を始めとする対光属性の魔導具を開発する事で対抗した。弱点属性さえ克服できれば後は自力で勝る<魔王城>が確実に勝利出来る。


 ――けどまあ、大抵の場合はティティちゃんの大活躍で終わっちゃうんだけどもね。


 プリムはそう自嘲する。魔王の配下には太陽神の末裔にして光の巫女たる<巨いなる暴君タイラントタイタン>が居る。


 ティティはそもそもからして強力無比な四ツ星級モンスターだ。そして度重なる戦闘経験を経て卓越した技量を持つに至った彼女を弱点攻めの事ばかりを考える弱者がどうにか出来ようはずがなかった。


「それでもまだ我等の優位は変わらぬ」

 多少弱体化したとはいえ悪魔達は元の等級のままである。せいぜい五ツ星中位から下位に落ちたぐらいだ。そもそもの力量差があるため問題があるとは思えなかった。それに配下のストーンゴーレムだって健在だ。


「じゃあ、みんなはゴーレムの方を宜しくね。ボクはこの悪魔さん達をるから」

「抜かしたな小娘! その不遜、死して償うがいい!!」

 再び鍵爪を振るうべく山羊頭は近づき――


「その台詞、全部そっくりお返しするよ」


 ――全身を串刺しにされた。






「な、ガハッ……」

 <上級悪魔>が吐血する。


 ――どうして……それよりも、なぜ力が入らぬ……。


 どうやら全身を剣や槍で貫かれたらしい。


 しかし解せない。悪魔の体は強靭だ。その皮膚は鉄よりも硬く、筋肉は鋼よりも強固であり、骨に至ってはミスリルでさえ凌いでいる。並みの武器ではその表皮に傷を付ける事さえ不可能だ。


 絶対的な防御力を保持しているからこそ<上級悪魔>は堂々と真正面からの近接戦闘を挑んだのだ。


 よしんばダメージを与えられたとしても、その生命力も人間のそれとは異なる。臓腑の一つ二つ傷付けられた所で意にも介さないのだ。


 更に再生能力だって凄まじい。通常の傷など一瞬で完治するし、手足を切断されたところで魔力さえあればすぐさま生やすことが可能だった。死にさえしなければどうとでもなる。


「ウチに挑んでくるダンジョンや冒険者ってね、聖剣みたいな光属性特化の武器を持ってくる事が多かったんだよ。あとは何を勘違いしたのか<悪魔殺し(デーモンスレイヤー)>を持ってきたりね」

「ナ、ニ……」

 山羊頭は視線を上げる。プリムの周囲には毒々しく白銀色に輝く剣や槍が浮かんでいた。


 スキル<ポルターガイスト>。霊体である死霊族が物を運んだりするのに使うスキルである。<死霊王>たる彼女であればそれ等を手足のように操る事が可能だった。武具数十本を高速移動させることなど造作もない。


「せっかく手に入れた属性武器だからって、ずっとアイテムボックスの肥やしになってたんだけどね。折角だから使ってみたんだけど、うん、まあ、悪くないね」

 圧倒的な防御力があろうと悪魔を殺すために作られた武器が通用しないはずがない。聖剣の多くには傷の回復を抑える特攻効果まで付いている。


 山羊頭の体が地面に落ちる。プリムはその様を冷たい瞳で睥睨すると手をかざした。鋭い刃が次々に悪魔の体に埋め込まれていく。


「ウギャアァァァ――ッ!!」

 悪魔はしぶとい。プリムは埋め込んだ武具で臓腑をぐるぐると攪拌する。さしもの高位魔族も全身を滅多刺しにされた上、内部を完全破壊されればいずれ絶命する。


 プリムは山羊頭の悲鳴を聞きながら、残った四体の下位悪魔達に近づいた。


「ま、待ってくれ!」「降参する」「命だけは……」「俺達は命令されただけで」

 すぐさま命乞いを始める悪魔。状況は最悪に過ぎた。弱体化した自分、相対するは三〇を超える特攻武器を携える上位者だ。


 プリムは半透明の貌に壮絶な笑みを貼り付けた。


「無理だよ、だって君達、ボクの部下殺したじゃん?」


 殺戮が始まった。

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