光の巫女
「ふんッ!」
身の丈を超える巨大な戦鎚が振り回される。周囲を飛び回る羽虫――<混血天使>――が吹き飛ばされた。
「凄まじい威力ね」
一撃。それだけでアルファエルの子供達が戦闘不能に陥っていた。
<聖なるかな>は光属性のダンジョンだ。この神殿内を照らすのは<聖光灯>――光属性を高めるマジックアイテム――である事に加え、並び立つ石柱に刻まれたルーンにもその聖光の効果を高める機能が備わっていた。それ以外にも数え切れないほどのギミックが仕掛けられていた。
その属性の強度たるや闇の眷属では立ち入る事さえ許されない。
当然、光属性である天使族のステータスは軒並み上昇していた。
その有利を覆すだけの破壊を彼女は繰り出しているのである。
「癒しを」
アルファエルは回復魔法を飛ばす。全身の骨を砕かれ、臓腑を潰された子供達が瞬時に完治した。
純血の天使族であり、卓越した魔力を持つ<大天使>による癒しだ。この空間に施された属性強化も相まって生きてさえいれば確実に完治させるほどの回復力を持っていた。
「しぶとい……さすがゴブリン混じり」
「ふふ、褒め言葉と受け取っておくわ」
ティティは眉を潜めながらも敵を迎撃する。片手で戦鎚を振り回し、落ちていた石を投げつけ打ち落とす。
そのまま戦い続けること三〇分。愛しき子供達は未だに有効打を与えられていない。
「しぶといわね……いいわ、下がりなさい!」
業を煮やしたアルファエルが突貫する。手にした槍で刺突を繰り出した。
「ん? ぬるい」
しかしそれはティティの手甲によって簡単に弾かれてしまう。そしてバランスを崩したところに戦鎚が迫って来る。
「お母様!」
混血天使の一人が身を挺して彼女を庇った。
「きゃああぁぁ――!」
叩き落され、地面を這い蹲るそれをティティは鉄靴の踵で踏み潰した。
「まずはひとつ」
足裏に付いた脳漿を地面に落としながらティティは言った。
「く……よくも、よくもよくもよくも!!」
怒りに任せて大天使が槍を振るう。目にも止まらぬ速さ、というよりも光のような速度で飛び交うそれをティティは危なげなく防いだ。
「大天使、意外と弱い」
確かに邪神を信奉するゴブリンと何度となく交わり、ましてやその身に子を宿す事で彼女の神性を曇らせた。何より本来仕えるべき太陽神を忘れ、ダンジョンマスター――迷宮神の配下へ傾倒した事でその力を失ったのだ。
アルファエルの戦闘能力は現在、四ツ星級上位にまで低下している。しかしそれでも天使族の首領である。この神殿内に居る限りは五ツ星級の戦闘能力を保持できているはずなのだ。
それなのに何故、こうも容易くあしらわれるのか。
――おかしいわ! たかが巨人族の娘が何故これほどの力を!?
「一斉掃射!」
アルファエルが命令を下せば、空中で待機していた混血天使から一斉に<光弾>が放たれる。連鎖により破壊力をましたそれはさながら光の瀑布だ。
閃光が白亜の神殿を蹂躙する。
「やった、これなら――ッ!?」
小さな光の粒が舞うように落ちる。そのど真ん中に褐色の少女が立っている。
「無駄」
「な……どう、して……」
「ティティは純血の巨人……古の神々の末裔にして巫女」
<巨いなる暴君>。彼女の本来の姿は体長一五メートルを超える巨人だ。その起源は旧く、ガイア神族よりも前であったとされる。
神々がまだ普通に地上に降りてきた時代、巨人族とガイア神族は地上の覇権を幾度となく争ってきた。そして時代と共に和解し、結び、婚姻を繰り返した。
「まさか、貴女は……そんな、馬鹿な……」
当然ながらその中には太陽神も含まれている。天使族が信奉し、その力の根源としている上級神である。
ティティはそんな太陽神の巫女なのだ。太陽神の血を色濃く残す古の巨人族の末裔であり、その恩恵を最も受ける存在だった。
故に光は利かない。それどころかこの場において誰よりもその恩恵を最も強く受けられる立場にあるのだ。
「魔王は言った。闇夜の中にも光は必要だと」
ティティがその身に刻まれた封印を解く。
魔王はいくら闇の種族が強いからといってそれだけに偏重するような事はしない。敵は間違いなく弱点を突いてくる。
「ティティはそうなれるように努力してきた」
そんな光属性への迎撃装置。
それこそが光の巫女ティティなのであった。
「様子見は、終わり……」
ティティが言うと、小さな身体が徐々に盛り上がり始めた。膨らみ、伸びる。確かな質量を持って存在感を高めていく。
物理的に。
「ウゴゴオォォゴォォ――ッ!」
吼える。巨きな身体。しかしてその身には荘厳なまでの神性が宿っていた。
ティティの肢体から極光が放たれる。
黄金色の拳が迫る。それはアルファエルが失った光の力――
神通力。それは瞬時にアルファエルの命を奪ったのだった。




