表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/129

奴隷の奴隷

「相変わらず、すげえなここは!」

「シルスラいっぱい! すごいすごい!」

 戦闘奴隷二人を見送り、クローゼットを閉める。ダンジョンの入り口から奇声やら歓声やらが聞こえていたが遮音性の高い素材なのかそれからは一切声は聞こえなくなった。


「じゃあ、ルーク君は夕方までに屋敷の掃除と洗濯物をお願いね。あとお風呂の準備も終わらせておいて」

「はい、わかりました」





 ヒロトはそう言うとリビングに向かい、担当官たるディアにお茶を用意する。


「ダンジョン開通から一週間も経たずに二ツ星冒険者を撃退。中々の好スタートですね」

「これもディアさんのおかげです」

 玉座でステータス画面を眺めながらヒロトは言う。


 ダンジョン<迷路の迷宮メイズ・メイズ>のレベルが上がった。昨日から延べ一〇人もの中級冒険者を撃退しているのだから当然の結果といえよう。


 ダンジョンでは侵入者を撤退させた場合、相手の強さに応じたDPと経験値が手に入る。そして経験値が一定量溜まるとレベルアップする仕様となっていた。


 撃退された冒険者とは元帝国軍人キールと元暗殺者クロエの二人であった。彼らには朝昼晩と何回かに分けてダンジョンに潜ってもらっている。


 侵入者の強さは侵入時に自動判定され、星の数で表される。無印いっぱんじんから始まり、一ツ星が一般冒険者、二ツ星でベテラン冒険者、三ツ星で一流冒険者、四ツ星だと国を代表する戦士、勇者とか英雄と呼ばれる類の化物であるそうだ。ちなみに五ツ星は人間や魔物なんて括りじゃなくて神の領域だそうである。


 この星の数は概ね魔物のレア度に比例している――シルバースライムみたいな例外はあるが――ようで、二ツ星のベテラン冒険者へ二ツ星の鬼モンスター<オーガ>をぶつけるといい勝負になるそうだ。もちろん相性もあるし、冒険者は基本的にパーティで行動する。互いに連携し合い、1+1が3にも4にもなる事があるようだから実際にはそう単純にはいかないようである。


「二人のレベルも上がって、明日からは毎日上級冒険者を撃退できるようになるよ」

 ホクホク顔のヒロトが言う。連日、シルバースライムと戦わせているため二人は恐ろしい速度でレベルアップをした。おかげで今では三ツ星級侵入者と判定されるまでに成長したのだ。


「まさか、自分の奴隷に奴隷などという概念があるとは思いもよりませんでした」

 ディアはダンジョンマスターが所有する奴隷をダンジョン内で戦わせても経験値やDPは手に入らないと教えていた。過去にそういう事をやったダンジョンマスターが居たから、その対策を打ったという訳だ。


 どうやって判別しているのかと尋ねた所、ダンジョンを所有するダンジョンマスター自身との従属関係を見ていると答えたのだ。


 そこでヒロトは自らの奴隷であるルークに対して戦闘奴隷二人の所有権を譲った。これでヒロトはシステム上、奴隷をルークしか保有していない事になった。ルークがどれだけダンジョンに潜ったところで撤退ポイントは得られない。しかし、ルークに所有されているキールとクロエは、ヒロトとは無関係の人物、単なる侵入者と判断されてしまったわけである。


 実際にはルークはヒロトの命令を効かなければならず、キールとクロエはルークの命令を効かなければならない。ルークを介しているだけで実際には二人を支配下に置いているのだ。


 ダンジョンマスターが保有する奴隷を調べるだけでなく、その奴隷、更にその奴隷みたいに主従関係を数珠繋ぎにして判別すべきだったのだ。


 要するにシステムバグである。ダンジョンのシステム設計者は奴隷を保有する奴隷などいるはずがない、というガイアの常識、固定観念に囚われてダンジョンマスター本人との主従関係しかチェックしない作りにしてしまっていたのだ。


 今、戦闘奴隷達が入っている魔物部屋には<シルバースライムの渦>を設置している。攻撃力はほぼ皆無、ダメージこそ通り難いが、実質ただ素早いだけのモンスターである。魔物部屋に配置されたモンスターは部屋から出られないため得意の逃げ足さえ封じられている状態なのである。


 ちなみに魔物部屋の特性は<渦>にも適用されるようだ。魔物部屋は配置するモンスターの召喚コストを半分にしてくれる特長を持っている。元々召喚コストのかからない<渦>が設置された場合、通常だと一時間に一匹の頻度でモンスターを生み出すところを三〇分に一匹のペースで吐き出してくれるようになる。


 渦一つで一日四八匹、一匹倒せば通常の魔物数十匹分という経験値を侵入者へ与えてくれるレアモンスターを日常的に狩り続けているのだから奴隷達の急速なレベルアップも当然の事と言えた。


「あまり派手にやりすぎると勘付かれますよ?」

「うん、分かってる。細々とやっていくつもりだし、これからも奴隷は買うつもりだから、人を入れ替えたり、上下関係を動かしたり、踏み台を増やしたりしていくつもり」

「では、私は何も聞かなかった事にします」

 ディアにはダンジョン内での出来事を報告する義務がある。逆に言うとダンジョン外でダンジョンマスターが何を言おうが報告する義務はない。


 まあ、バレたらDPが得られなくなるだけなのでせいぜい今のうちに経験値とDPをがっぽり稼いでしまおうとヒロトは開き直る事にした。


 今回見つけた裏技<奴隷の奴隷バグ>を使って更にDPを稼ぐには更なる奴隷が必要だった。単純に頭数を増やすだけで収益が上がり、シルバースライムを狩らせる事でレベリングを敢行、奴隷一人当りの収益があがる。


「ディアさん、申し訳ないんだけどジャックさんの店、ついて来てくれないかな」

 そうしてヒロトは奴隷商ジャックのお得意様に名を列ねる事になるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 連座制をたどって持ち主判定すればいいのだから、すぐに修正されそうだけど、稼いだ分が没収されないなら仕様の穴を利用するのはまあうん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ