09:『パイルバンカー IN 武闘大会』
さてその武闘大会だけど、どうしようか。
参加申し込みはしてあるし、今から予選選考会なのだけど・・・。
悩んでいるのには理由がある。
目的である竜との戦いを既に経験してしまった事。
ゴーレムの情報を知ってしまった事。
お金には困っていない事。
武闘大会の観戦席が確保されている事。
トウキとサイカの応援をしたいとも思っているので、観戦できるとなった今わざわざ予選を通過しなくても問題ない。
ちなみに、観戦席は竜王国の空いているスペースを自由にしていいとのことだ。20人くらい入れるスペースに三人しかいないので、良かったらと声をかけてくれた。
「どうしようかな・・。」
悩んでいる間にも順番が進む。
予選会はグループ事に分けられてバトルロワイヤル。戦意喪失、場外、気絶、降参した者が除外されていき、最後に残った一人が本戦出場である。
僕とトウキが違うグループなので、登録順という訳ではなさそうだ。
「始め!」
開始の合図と共に各々が動き出す。
殺してしまった場合は負けになるので、殆どの人間は刃引きした武器か木刀等を使っている。
当然僕にも襲いかかって来るけど効かない。
パイルバンカーの威力を押さえ込む事ができる僕の防御力は高いのだ。
その様子を見てか、僕に襲いかかってくる人間が徐々に増えて来た。
「うるさいなぁ。」
考え事が纏まらない。
「んもう。『オートマチック』」
唱えた単語は呪文の様なもの。
自分の魔法のスイッチを入れるキーワード。
『オートマチック』で作ったイメージはエアパイルバンカーの機関銃。
左右の拳を腰だめに構えて発射。
パパパパパパパパッ
威力は普通のパンチと変わらないかもしれないけれど、それが何百発と繰り返されれば沈む人間も増えて来る。
とりあえず僕に向かって来た敵はいなくなった。
「さてどうするか。」
敵は十人程残って居るけれど、ここで棄権するのも変な話しだろう。
おっと。隣のリングにはトウキが居る。
(いい事思いついた。)
「左右装着。」
僕の生み出したパイルバンカーを見て残っていた人間が一歩下がる。
「『エアハンマー』。」
『エアハンマー』はエアパイルバンカーに近い。
ただ拳であったエアパイルバンカーとは異なり、パイルバンカー装着して二発同時に発射するもの。
当然威力は桁違い。
発射するのは三発。
狙いを外して一発。
十人程の塊の手前に一発。
もう一度狙いを外して一発。
結果は、抉れたリングと倒れる敵。
残った二人も降参する模様。
ついでに隣のリングも半壊。
狙いを外した二発はトウキへの援護。
数人は残っているみたいだけど、そこはまぁ頑張って欲しい。
そして本戦。
無事トウキは出場できた。
現在リングにて他の選手と開会式に出ている。
僕?
観覧席から応援しています。
いやー
貴賓席だけあって見やすいし、飲食無料だし、美少女は隣に居るし言う事ありません。
他の三人もタイプの違う美女だし。
アカリさんは運動部系の先輩にいそうな活発美女。なにげに世話焼き。
セイカさんは文化部系、イメージは図書館の君。結構きびきびと動くので秘書っぽくもある。
クリスティーナさんは名実共にお姫様。ゴージャス系でないのは高得点だ。それにいつも微笑みを絶やさない。
「カンイチさんは棄権なさるのでしょ?」
「はい。目的は達しましたし。」
クリスティーナさんは既に聞いているのかな?
正式発表はまだだけど、不戦敗になる予定だ。
「目的とはなんだったんだ?」
あの日以降アカリさんは結構気安く話しかけてくれるようになった。
「えっと、言いにくいのですけど・・。」
「なんだ?」
「竜の鱗に僕の魔法が効くかなって。その情報が欲しくてですね・・・。」
「はぁ?なんだ?竜を倒して素材が欲しいとかでなく効くかどうか試してみたかったと?」
「まぁそういうことです。」
呆れられたか。
怒られるよりはいいかな?
「じゃあ次は金剛鉄か?」
「一応ゴーレムを探してみようかと。」
「ゴーレムは意外と脆いぞ。希少種ならわからんが、岩や砂といった素材が多いしな。私の尻尾の一撃で壊れる。」
戦った事があるらしい。
「竜の鱗の上は金剛鉄やオリハルコンだろうな。魔力を通せばミスリルなんかもいい。もっともサイカの鱗はまだ柔らかいから他の竜の鱗でも良いのかもしれんが・・・。」
「人によって違うのですか?」
「ああ。長く生きれば生きただけ鱗に魔力が籠り、丈夫になる。」
じゃあアカリさん達の鱗の方が・・・。
「私は嫌だぞ。お前のあれは痛そうだ。」
「私も嫌です。」
「同じく。」
話しの中でパイルバンカーを見せた事があったけど、見た目が凶悪だとか言われた。
それでも一発くらいやらせてくれないかな。
いや、エロい意味ではないですよ?
「物好きな竜は何処かにいませんかね。」
「あー。」
居るらしい。
「そのうちカンイチの所に尋ねていくかもしれん。その時は遠慮なく試してみてくれ。」
詳しい事は内緒らしいけど、楽しみにしておこう。
「あっ。」
「どうしたの?」
シェスタが声を上げた。
「組み合わせ。」
会場では対戦組み合わせが発表されている。
トウキの相手はマサノシン・タカスギとなっている。
日本人?
「あー。ヤマトのに当ったか。ご愁傷様だな。」
「ヤマトですか?」
「知らないのか?東の大陸に存在する国だよ。毎年三人出て来るが、いずれも上位入賞。一、二、三位を総取っていった事もある。タカスギは昨年三位だったな。ちなみに一位は同じヤマトのミフユ・キトウ。カンイチの対戦相手だな。」
アカリさんの指差す方には、周りとは違う格好をした三人が居る。
日本人?
東の国のヤマトの国。
さらに黒髪、袴に刀と来たら疑わない方がおかしい。
日本人だよね?
「名前からしてカンイチもヤマトの出かと思ったが違う様だな。」
「はい。でもご先祖様がそうだったのかも知れません。」
まぁ違うけど、ルーツは一緒かもしれない。
「そうかもな。」
組み合わせの発表が終わると早速一回戦が始まった。
ルールは予選と殆ど変わらない。
違うのは一対一であるということと、場外でも十秒以内に復帰すれば良いという事。
トウキは四戦目だった。
「まぁ善戦したんじゃないか?」
アカリさんがそう評価してくれたが、実際は開始と同時に仕掛けられた攻撃をなんとか剣で受ける事に成功。その後も剣と盾を使って受けるので精一杯。最後に足を払って刀を突きつけられて終わり。
一度も攻撃できなかった。
本人も実力差がわかったのか悔しそうな反面、どこかさっぱりとしているみたいだ。
お互いに礼をしたあとに握手をしている。
あれ?こっちを見た?
「ああ。あれはカンイチの事を聞かれたんだけど、知り合いだったのか?」
「いた、ヤマトの国のこともさっき知ったばかりだし・・。」
「残念だった。」
「まぁ昨年三位の実力を受けさせてもらっただけでも良かったさ。また来年に向かって鍛錬するよ。」
「衛兵にはなれるんだろ?」
「ああ。予選を通過したからな。そこで対人戦に付いて学ぼうと思う。」
「トウキならできる。」
「ありがとうよ。シェスタ。お前も頑張れよ。」
「うん。」
現在トウキも含めて大会を観戦中である。
クリスティーナさんはアカリさん達を連れて何処かに挨拶に行った。
何人か挨拶に来てもいたようだし、王族というのは面倒そうだ。
「ヤマトの三人は勝ち上がったね。」
「サイカちゃんも」
本日は一回戦のみ。明日が二回戦、三回戦。明後日が四回戦から決勝までである。
「トウキの残念会でもするか。」
「奢れよ。」
「しょうがない。」
「ヤマト料理でも食べにいくか。王都なんだしあるよな?」
「あると思うぞ。」
トウキによると、数少ないけどあるらしい。
和食だと良いなぁ。




