11:『パイルバンカーVSミフユ・キトウ』
「はっ」
気合いを発しエアパイルバンカーの百連撃を見事に避けるキトウさん。
一部刀に当てて受け流しているみたいだけど、どうやって飛んでくる空気を見極めているのか・・・。
後で聞いてみよう。
「左右装着。」
続いて撃つのはエアハンマー。
「イヤァ!」
「はい?」
驚いた。
恐らく斬ったのだと思う。
空気の塊を。正確には圧力のかかった空気かな?
「ふふふ。どうだ?」
「お見事です。そんな防ぎ方をされるとは思っていませんでした。」
「我が流派には”形無きものを断つ”技がある。」
魔法対策といったところか。
地球では漫画の中の話だったけれど、魔法のある世界ならあり得るだろう。
「では始めますか。」
「うむ。」
この立ち会いにおける僕の勝利条件は、僕が彼女を捕まえること。
彼女の勝利条件は特にない。彼女が満足したら終わりである。
これは僕の立ち会ってみたいと言う彼女の希望と、勝てる気がしない僕の意見をクリスティーナさんが聞いて決めてくれた。
パイルバンカーは一撃必殺の威力をもっているので、僕は基本的に直接攻撃をしない。それに不満があった様だけど、地面相手に威力を見せた所納得してくれた。その分エアパイルバンカーとエアハンマーは使う。エアハンマーは当ったら危険だけど大丈夫だというので試す事になった。結果はさっきの通りである。
捕まえたら終わりなのは、確実にパイルバンカーが当る距離に僕が辿り着いたら終わりということである。
「行きます。」
「来い。」
まずパイルバンカーを解除して撃つのはエアパイルバンカー。
いくら僕の移動が早いといっても直線的な動きで彼女を捕まえられるとは思っていない。まずは撹乱からだ。
「それは躱したぞ。」
その言葉通り先程と同じ様に避け続け、少しずつ前進して来る。
「むっ。」
彼女の間合いになる前に数発被弾させる事ができた。
そのまま後ろや横に移動しつつ打ち続ける。
ダメージはあまり無いと思うけど、被弾数は増えてきた。
「拳の先からでなくても撃てるのか。」
もうバレた。
先程までは拳からしか撃たなかったけれど、本当は拳の位置は関係ない。
これは腕以外にもパイルバンカーを装着する事ができたことから、練習してできる様になった技である。それでもバレない様にまぎれさしていたつもりだけど、彼女程の腕を持つ人ならバレるものらしい。
「ふふ。」
何か楽しいらしいが、僕がやる事は変わらない。
ひたすらに撃つ。ただし、今度は拳にまぎれさせるのではなくランダムに量を増す。
「矢雨に比べたらどうとでもなる。」
どうやって察知しているのかわからないけど、避けるだけでなく刀でも弾いているので見切られているのだろう。
「右手装着。」
エアパイルバンカーにエアハンマーも混ぜる。
エアパイルバンカーとエアハンマーの違いは、その大きさと威力。何処からでも撃てるのは同じなので、エアハンマーの条件であるパイルバンカーの装着を何処かにすれば混ぜる事もできる。二発同時の大きさを生み出す事はできないけれど、混ざっているのを避けるのは難しいだろう。
言うなればジャブに混ざったストレートだ。
「むっ。」
さすがにエアパイルバンカーとエアハンマーを同じ様に弾く事はできない様で、エアハンマーが刀に当ると大きく弾く。
それでも確実にエアハンマーを弾いて来る。
エアパイルバンカーは殆ど無視され始めた。効かないのかな?
この状況を繰り返したい所だけど、そうも言ってられない様だ。昨日に彼女の前進速度が上がって来ている。
「どうする?」
そう聞かれてもやる事は大して変わらない。
そもそも僕がやれる事はそう多く無いのだ。
「両足装着。」
先程よりも弾幕を増やしつつエアハンマーで狙い撃つのは、彼女にほど近い地面。そこにエアパイルバンカーも打ち込む。
立ち上がる砂埃。これは煙幕、若しくは目つぶしを狙った攻撃。
そこに突撃する。
「シッ」
キトウさんの居た所に着く前に迎撃された。
向こうも予想できたのだろうけど、僕も迎撃されるのは予想通り。右手のパイルバンカーで刀を受ける。
ガキンッ
完全に防ぐ事はできずに、三分の一程の所で刀が止まった。
怖い怖い。
ガシュッ
右足のパイルバンカを―地面に打ち込み、無理矢理止まると、その場で再び突進する。
直線でしか発動できない僕の苦肉の策だ。
その為、体の向きは整っていない。着地はまともにできないだろう。
地面の一はいまいちわからないけれど、彼女の居る位置は何となくわかる。
未だに力がかかっている刀の先だろう。
右手を捻り刀を抜きにくくしつつ左手を向ける。
「よしっ。」
何かに触れた感触を元にそれを掴む。
後は止まるだけだ。
両足のパイルバンカーを地面であろう方向へ向けて打ち込む。
ビリリ・・。
服の破けた音がしたけれど気にしないでおく。むしろ、これくらいの被害で済んだ上に一応の勝利を得れたのだから上々だろう。
腕の先ではキトウさんが動いているけれど放さない。「どんな敵を逃がさない」その僕のイメージを実現する為の握力はそんな柔なものではない。
ビリ・・・。
さらに破ける音がしたのでそちらを見ると、白い布とその先あるきめ細やかな白い山。山の先には桃色のぽっちが一つ。
「あっ。」
どうやら破けたのは僕の服ではなく、キトウさんの道着。
胸元から顔を上げて見ると、彼女の顔は真っ赤だ。
「ご、ごめん。」
慌てて手を離すと、何も言わずに脱兎の如く走り去っていった。
「・・・・。」
それにしても綺麗だった。
そして可愛かった。
「カンイチさん?」
「はい。」
その声に振り向くと見学していたクリスティーナさんやシェスタ、それにアカリさんセイカさんサイカもいるし、ヤマトの二人もいた。
「ミフユに勝つとは・・。」
「変則でしたし、偶然です。」
「ミフユを捕える事ができるというだけでも中々に凄いことだぞ。」
「そうだ。誇るべきことだと思うぞ。」
「それにミフユのあの様な顔は初めてみたしな。」
「うむ。良いも物を見せてもらったな。」
「わざとじゃないですよ。」
そこだけはちゃんと言っておかなければならない。
「うむ。」
「だがな・・。」
その話しはしない方が良いと思う。
後ろに控えている女性陣の目つきが恐い。
「お二人とも。」
「「はい。」」
絶対零度の声色でクリスティーナさんが声をかけると、二人共直立不動で向き直った。
「正座。」
「は?」
「正座です。」
「はっ。」
圧力に負けた二人がその場に座る。
それを取り囲む女性陣。
僕も正座した方がいいのだろうか。
「カンイチ。」
「はい。」
シェスタがこちらを向いた。
「わざとじゃないと思うけど?」
「勿論です。」
「では謝って来なさい。」
「はい。」
「私達はこの二人とお話がありますから。」
「はっ。」
母親に叱られる悪ガキの様な二人とは目線を合わせずに控え室へと駆け足で向かう。
そんな目で見るな。
僕も恐いのです。逆らうべきじゃないと本能が告げているのです。
ごめんよ・・・。
コンコン。
「・・・。どうぞ。」
少し間が開いて返事があったのでノブを回す。
「ごめんなさい。」
入るなり頭を下げる。
「わざとではないのですけど、本当にごめんなさい。」
「いえ、お顔を上げて下さい。私こそ取り乱してしまいました。」
顔をゆっくり上げるとキトウさんと目が合う。
「稽古をしていればあり得ない事ではないのですけど、私にとっては初めてでしたので。」
そう言ってくれる顔はまだ赤い。
「それに掴まれた後に動かなければああはなりませんでした。私の未熟と致す所です。」
「僕も偶然摘む事ができただけですし・・。」
「それにしてもお見苦しい所を見せてしまいましたね。」
「いえ、とても素敵でした。」
「えっ。」
(しまった。)
つい口からこぼれてしまった。僕としては洗練された動き的なことだったのだけど、この文脈ではそうは思ってもらえないだろう。
実際、彼女の顔は再び赤く染まっている。
「あ、あの。動きが綺麗で凄いなと思ったのです。やっぱり僕も武術を学んだ方が良いのかなぁ・・。あはは。」
そうしても乾いた笑いになってしまう。
もしこの場に他の女性が居たら先程の二人と同じ目にあっていたかも・・・・。
「そ、そうですよね。私の体は傷だらけですし、自意識過剰でしよね。こんなんだから行遅れとか親には言われるし、お見合いなんてやる前に断られるし、女としては醜いだけですよね。ごめんなさい。調子に乗ってごめんなさい・・・。」
なにか触れては行けない部分に触れてしまったのか、ぶつぶつと呟き続けている。
「あの・・。」
「はっ。そう、そうです!武術に興味があるのでしたら、ヤマトにいらしたときにいくつかの道場を紹介します。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、武術に関してでしたら顔も効きますから。」
「助かります。」
本当に武術漬けの生活をして来たのだと思う。
僕が気になっていた料理の話しなんかは名前こそ知ってはいたけれど、作り方は全く知らなかった様だし・・・。
「こちらこそ無理をいっての立ち会いありがとうございました。」
「僕こそ実力が上の人と立ちあうことができたので嬉しかったです。パイルバンカーが斬られることは予想していましたけど、エアまで斬り裂かれるとは思っていませんでしたし。」
「私としてはあの魔法、パイルバンカーを切り落すつもりでしたので、その硬さに驚きましたけどね。」
「そういえば、あの斬った技なんですけど・・・。」
武術の話しを始めると先程までの雰囲気はなくなり、むしろ楽しそうな顔つきに変わってきた。
やっぱり武術が好きなんだと思う。
戦闘中毒なんて言ってごめんよ。
話しが進むに連れてキトウさんが立ち上がり身振りもつけ始めた。
それは良いのだけど、動く度に羽織りも動くので、折角隠した胸元が見えそうだ。
見えそうで見えない。そんな状況が続いていた。
コンコンッ
「よろしいでしょうか?」
そんな状況は来客があって終わった。
来客とはセイカさんだ。
「どうぞ。」
「お二人とも和解された様ですね。」
「和解も何も私が取り乱しただけですので。」
「それはそれは。」
また思い出したのか少し顔が赤い。
「お説教も終わりましたので、そろそろ移動しようと思いますが、よろしいですか?」
「お説教ですか?」
「えぇ。お説教です」
「直に着替えますのでお待ち下さい。」
「あっ。」
慌てていたのか、その場で羽織を脱ぐキトウさん。
羽織の下は破れた道着。
目の前には僕。
「あっ。」
慌てて顔をそらしたけれど、ばっちし見てしまった。
そして、ばっちり見られてしまっただろう。
「今回もわざとではないようですし、他の皆さんには黙っといてあげましょう。キトウ殿もそれで良いですか?」
「はっはい・・。」
「ではカンイチ殿は外でお待ち下さい。」
「了解しました。」
声色が少し変わったセイカさんの声に押し出される様に控え室を後にする。
どうやらあの二人と同じ目にはあわずに済む様だ。
「それにしても・・・。」
無防備に過ぎると思う。
僕としては眼福だけど・・・。
「カンイチ殿?」
「はい!」
「参りますよ。」
「はい。」
考えが見透かされたのかと思って焦った・・・・。




