54話 NF杯⑤
準備フェーズ開始時間――
俺は手のひらの上でナイフを転がす。
試合は拮抗して5ー5までもつれ込んだ。
「みんな、本当にここまでよく頑張った。
最後は、笑って優勝インタビューに臨もう」
由里らしい激励だ。
「大丈夫だ……充は俺が倒す!」
「レイ……最初にやられてた……」
「ちょ、ユキノちゃん。1ラウンド目のことは忘れてくれよ」
「おじさん……年甲斐もなく、涙が出てきた……」
「やさぐれニキさん。これで、終わりじゃないんですから。勝っても負けても……みんなで、打ち上げしましょうね」
ミリアちゃんの柔らかい笑い声が響く。
「レイ……いや、泉とまた酒が飲めるとはな……」
「おいおい……死亡フラグみたくなってんぞ」
まったく、縁起でもない。
「最後は防衛だ! みんな――行くぞ!」
由里の掛け声とともに、Aサイトに俺と由里――
Bサイトにユキノちゃん、ミリアちゃん、
やさぐれワンカップさんが走り出す。
「Bサイトに四人います!」
ミリアちゃんの報告が飛ぶ。
ならAサイトは――射線を飛び出したところで、由里に服を引っ張られる。
ヒュン――さっきまで、俺の頭があった位置にスナイパーの弾丸が走る。
「こっちは、充一人か……。
由里……Bサイトの敵がボムを持っているだろうから、由里も向こうの――」
由里の指が俺の唇に触れる。
「充はまだ1デスもしていない。
こっちの勝利はすべてボム作動による勝利だ。
二人で充を倒そう……」
「ったく……お前もつくづくプロゲーマーだな」
§
「ミリアちゃん。ナイスウルト!」
ボイスチャットが騒がしい。
次の瞬間――ユキノちゃんのレイピアのダブルキルのログが流れる。
5VS3
「きゃあああ!」
ミリアちゃんの悲鳴――。
4VS3
ユキノちゃんと相手の相打ちのログが流れる。
3VS2
「ぎゃぁぁぁ!」
2VS2
残りは充とムラサキか……。
Bサイトは完全に取られたし、Aサイトは充か……。
ボム作動――残り30秒。
「えっ!? こっちにボムが設置されたぞ、まさか――充がボムを持っていたのか?」
アビリティ︰スキャンボール
Bサイト裏で、ムラサキがハイライトされる。
「泉……後ろからムラサキさんが来てる!」
「……由里……頼む……」
「はぁ〜わかったわよ……私が行くわ!」
§
実況席でシュガーと黒田が戦いの行く末を見届けていた。
「さぁ、2VS2のアツい展開――私のレイちゃんが、魔王――充を倒しに走り出します!」
「……シュガーちゃん。魔王って……てか、由里ちゃんとムラサキちゃんにも触れなさいよ……」
「充選手――レイの位置を読んですでに、物陰に銃を構えている。二人の距離はおよそ20m――」
「作動まで……あと、20秒ね……」
物陰からレイが飛び出した。
一直線に走り最短で充に迫る。
「あれ……充選手……なぜか撃たない?」
黒田が首を傾げていると、
充の背後に霧雨レイが着地する。
「まさか……正面のは分身で……ジャンプウルトで充の背後に飛んだのね……でも、読まれてる!」
充は振り向きざまに一発――背後に降りたレイの頭が撃ち抜かれた。
「……なるほど、充選手は目の前のレイ選手が分身と見切って、ジャンプウルトでの襲撃を読んでいた。
――だから、スナイパーをすぐに撃たなかったのね」
ムラサキの迎撃に向かった由里が落とされた。
「……チーム俺たち……負けちゃったわね……」
シュガーのため息とともに、実況席とコメントが静まり返る。
――充が撃ち抜いたはずの、レイの姿が消えた。
「えっ!?……まさか、分身!?」
充がコッキングをしつつ振り返るが、最初に迫っていたレイがナイフを投げ、充の頭に刺さる。
充が光になって消えた。
作動まで、残り10秒――。
「待って! リプレイ見ましょう!」
シュガーが機械を操作すると、数秒前に戻る。
「物陰に隠れたレイちゃんが分身を出して――
一体は充選手へ正面から走り――もう一体が物陰からウルトで大ジャンプをしているわね……」
「でも、正面のレイ選手が投げナイフを投げてたから、ウルトで飛ばした方が分身だったのか!?」
「えっ、黒田……分身をウルトで大ジャンプってできるの?」
「誰も、フロッグをちゃんと使ってないから、わからない……でも、結果だけ見ると使えるってことでしょう……」
リアルタイム画面に戻ると、レイがボム解除を開始していた。
――そこに、ムラサキが物陰から飛び出す。
「危ない!」
シュガーが叫ぶとともに、ボム解除していたレイの頭が、ムラサキのハンドガンで抜かれる。
――ムラサキの背後からレイがナイフをゼロ距離で投げる。
「な、なんと……分身でボム解除のフリをしていたとは……」
――残り5秒。
カウントダウンとともに、レイはボム解除を始める。
「あとは時間との勝負ね……ギリギリに見えたけど……」
シュガーが祈るように手を合わせる。
――残り0秒。
カウントダウン終了の前に、チーム︰俺たちの勝利画面に切り替わる。
「やった〜!」
シュガーが飛び跳ねて喜ぶ。
分身でウルトを飛ばして、分身で解除するフリとかエグすぎ
レイちゃんが完全に充とムラサキちゃんの上をいったな
読み合いがエグすぎる
充が正面のレイちゃんを撃ち抜いてたら、負けてたよな
俺……なんか、涙がでてきた
コメント欄がすごい勢いで流れ出す。
「いや〜すごい戦いでした。
ある意味、相手の行動を信頼した上での、レイ選手の読み合いでしたね」
「レイちゃん〜すごい! すごすぎる!」
シュガーが実況席の周りをぴょんぴょん跳ね回る。
この日――霧雨レイの名が、全国に刻まれた。




