45話 スクリム
「みんな、遅い時間に集まってくれてありがとう! 東雲さんは、仕事の都合で今日は参加できないそうだ」
由里の凛と張った声が響く。
東雲ミリアさん――登録者200万人の化け物VTuberだ。多忙な中、大型イベントにも参加して――本当に頭が下がる。
「レイ……眠い……」
ユキノちゃんの欠伸が、ボイスチャット全体に伝わる。
「なになに〜、ユキノちゃんってば、眠いの?
オレっちと寝落ちもちもちする?」
やさぐれワンカップさんのキャラが大体掴めてきた。
「……」
ユキノちゃんは無反応だ。
「無視かい! こりゃ、手痛いねぇ〜
仕方ない……由里ちゃんで妥協するか……」
由里相手に怖いもの知らずだな。
彼女は、怒らせると大変なんだから。
「リスナーのみんな、今のとこ切り取ってね。 ……裁判で使うから」
由里も負けてない。
「もぉ~由里ちゃんってば、冗談じゃない」
「やさぐれニキさん。
なかなかキャラが濃いですね……」
「おっ、レイちゃんは男だったっけ?
ま、ギリ大丈夫か……」
何が大丈夫なんだ……聞くのが怖いからやめとくけど。
「由里……今日の練習はどうするんだ?
ヒーロー決めか?」
「そうだな。みんなのプールも知っておきたいし……」
俺たちは練習モードでヒーローを選択する。
「ちなみに俺は“フロッグ”しか使えないから……」
「私……レイピアしか使えない……だからグレイシャル……」
グレイシャルはメインにサブマシンガンを持っている。ユキノちゃんが、レイピア以外を使っているところ――見たことないな。
……俺と同じで、何か理由があるのか?
「ユキノちゃん……理由を聞いても?」
由里がユキノちゃんの内面に踏み込む。
「うん……私……相手を刺した時……その感触が……心地よくて……」
「……ん?」
なんか、想像してた理由と違う。
もっと湿っぽいやつかと思ったけど……
発言だけ切り取るとシリアルキラーと遜色ないぞ。
「ユキノちゃん! 爽快感が大事ってことやね?」
「うん……」
なんか、やさぐれニキさんが上手くまとめてくれた。
これ以上は掘り下げない方がよさそうだ。
「私は、三人ぐらい使えるけど、一番はストーカーかな」
確かに由里のストーカーは別格だ。
探知に特化したヒーローで、こいつがいるだけで、情報戦がかなり有利になる。
正直、チームに一人は欲しいヒーローだ。
「オレっちは何でも使えるぜ!」
「えっ、すごいですね……」
やさぐれニキ……実は、ランクマッチはやっていないだけで、NFは熟練者なのか?
これは、頼もしい――。
「なんにも分からんから、どれを使っても一緒だぜ」
「――って、そういう意味ですか」
期待して損した。
「東雲さんが何を使うか分からないけど、
射線を切るヒーローが欲しいわね」
「ふむふむ……なら、歩く協調性のオレっちが使おうか」
「今日はワンカップさんの指導と、軽い連携練習にしましょっか」
「ワンカップさんって、由里ちゃん距離あるね〜おじさん……寂しいと死んじゃう」
「死んでくれたほうが静かになるからいいかもね」
由里……相変わらず言葉の切れ味が鋭いな。
§
翌日――東雲ミリアさんを交えて、他チームとの初の練習試合が組まれる。
「レイちゃん。チーム名どうしよっか?」
由里からレイちゃんって呼ばれるのは少しむず痒い。
「由里ちゃんってば、レイちゃんに対してはなんか、雰囲気が柔らかくない?」
やさぐれワンカップさんの声がニヤついている。
「はっ? も、元チームメイトだから当然じゃない!」
「私もそう思ってました〜☆
由里ちゃんってば、男にデレるタイプ?」
「も、もう! 東雲さんまでやめてくださいよ!」
「あれ……オレっち……男なんだけど……あれ?」
「ワンカップさんは、男として、みなされてないので、安心してください☆」
「ミリアちゃ〜ん、それ、何のフォローにもなってないよ〜」
東雲ミリアさん……可愛い声して、なかなかに毒舌だな。
「レイ……今日のお昼、お蕎麦食べた!」
ユキノちゃんは相変わらずマイペースだな。
「そうなんだ。美味しかった?」
「うん……でも、わさびがツーンって……」
人見知りなせいか、基本的には俺に話しかけることが多い。
「ほらほら、スクリム初の第一戦が始まるよ!」
由里の掛け声とともに、試合開始となる。




