1話 過去の栄光
銃声と爆音が鳴り響く中、
ただ一つ、音のしない軌跡が走る。
――銀閃。
敵がこちらを視認した時には、
すでに頭部にナイフが突き刺さっていた。
ここに来るまで、本当に長かった。
――銃を捨てるまでに。
§
堕ちたプロゲーマー、泉海人。
それが俺が貼られたレッテルだ。
全盛期にはeスポーツの大学生プロゲーマーとして、チームに所属していた。
覇権FPSのヒーローシューター
“NEON FRAG”。
世界総プレイヤー人口、3億という化け物タイトル。
世界一の座を取り、顔出し配信と大会の賞金で生計を立てれるようになってから――大学を中退した。
時代の流れは残酷だ。
VR・FPSが主流となった現代で、NFもVRへと移行した。
――そこからが俺の転落人生の始まりだった。
VRになったことで操作感が一新されてしまった。
マウス操作に慣れていた俺は、実銃に近い操作についてけず、弾丸を当てることすらできなくなった。
高圧的な態度とスタイリッシュなプレイ。
もともといたアンチが、VR移行をきっかけに一気に増えた。
炎上。
それは一瞬だった。
キルの取れないプロゲーマーに何の価値もなく、
契約も打ち切られた。
他のVR・FPSにも手を出したが、銃を扱えないのは変わらず、配信サイトの登録者数もみるみる減少していった。
コメントも荒らしが大半……。
耐えきれなくなった俺は――アカウントを消した。
§
どんなに落ちぶれても、人生は続く。
貯金で凌ぐ生活にもそろそろ限界が近づいてきた。
正社員になる気力も能力もない俺は、
――家賃2万円、1Kのボロアパートに引っ越し、飲食店のバイトで食いつなぎながら惰性で生きていた。
バイトして、動画を垂れ流す毎日、
あれからFPSには手を付けなくなった。
ふと配信サイトの動画を流していると、
新人VTuberらしき人物のオススメ配信が流れてきた。
「やっほー!初めまして!
ルミナスイリア所属、
みんなの愛犬――犬柴アカリだよ!」
柴犬の耳を模したヘッドセットに、明るい茶髪。
大きな瞳はよく動き、笑えばくしゃっと細くなる。
白と赤を基調にしたパーカーの袖には肉球のマーク。
首元には、小さな骨のペンダントが揺れていた。
画面越しでも分かるほど、楽しそうに笑う女の子だった。
「本日、Vとしてデビューしました!
早速ですが、最近、流行っているNFをプレイしていこうと思います!」
……彼女のプレイは、見るに堪えなかった。
――なのに、目が離せない。
……足音。背後だ。
……それ、味方だろ!
苛つく俺とは対照的に、
「ぎゃー! 後ろから敵が!」
「ごめーん、敵かと思ったら味方だった」
配信越しの彼女は屈託のない笑みで笑っていた。
気づけば彼女の生配信を二時間見ていた。
……始めた頃の俺も、下手くそだったけど、楽しかったな。
もう一度、初心に帰るか……。
NFをプレイしようと、一旦、ヘッドセットを外した。
「うわー、ぎゃー!」
……ん?
……あれ?
ヘッドセットを外したのに犬柴アカリの声が聞こえる。
俺は再びヘッドセットを付ける。
犬柴アカリが配信画面で叫んでいる。
……音漏れか?
俺は配信アプリを閉じて、再びVRの起動準備をする。
「やめてー! うわー!」
……動画を閉じたのに彼女の叫び声が聞こえる。
もしや、
――恐る恐る部屋の壁に耳を当てる。
……間違いない。
――犬柴アカリは隣人だ。




