剣のお稽古
「ふんっ、あんっ、な、奴っ、ぜっ、たいっ、ゆるっ、さっ、ないっ、からっ」
訓練場のわら人形相手に、木刀を振り続ける。
八つ当たりというか、憂さ晴らしというか。
子どもの頃から聖騎士に憧れてたっていうから、少しでも同情してたのが間違いだった。
私だって好きで聖騎士になったわけじゃないけど、それなりに受け入れて努力してる。
誰がなんと言おうが、あんたじゃなくて私が聖騎士なんだよ!
絶対あんなやつに負けるもんか。
「あーあ。訓練用の人形がボロボロじゃねえか」
「マルクっ! 練習相手になって!」
「いいぜ、かかってこいよ」
マルクがニヤリと笑って、木刀を構えた。
いつも大剣を振り回しているマルクが片手剣を持つと、剣が小さく見える。
マルクを敵として見たら、ずいぶんと大きくて迫力があるんだな。
ダッシュして斬りかかる。
マルクの剣さばきには、無駄がない。
大剣を振り回すだけあって、一撃必殺の剣筋だ。
いくら斬りこんでも、かすりもせずに簡単に跳ね返されてしまう。
まるで壁を相手に戦っているみたい。
子どもを相手にしているように、マルクは笑っている。
「お前の剣は、軽いんだよっ」
「そん、なっ、こと、いって、もっ…」
「おい、ちょ、ちょっとストップ。あのな? スピードがあるのはお前のいいところなんだけどよぅ。俺相手で、角ラビのときと同じ戦い方してたらダメなんだぜ?」
「え?」
「自分よりデカいとか、格上の相手を倒すときの基本。真正面からいくら振り回しても、当たらねえと意味ねえだろ? そいうときどうする」
「相手に、どうにかしてバランスを崩させる」
「そうそう。思い出したか?」
そうだった。
頭に血がのぼって忘れてた。
やみくもに振り回したって、マルクには勝てない。
いや、どうしたって勝てないと思うけど。
心を落ち着けて、もう一度剣を構える。
やっぱり、私の武器はスピードだ。
それしかない。
丁寧に丁寧に、相手がよけにくそうなところを狙う。
もっと、スピードをあげて。もっと。
身体強化をかけて、さらにスピードをあげる。
本気でいかないと、マルク相手には勝負にもならない。
手数を増やして、相手がさばききれなくなるまで粘る。
マルクの顔から笑みが消えた。
少しずつ、後ろへ引いている。
一瞬体が泳いだ隙に、マルクの右腕をねらう!
パキーーン
あれ? 今、一瞬木刀が光ったような?
「おわっ! いってぇええっ! なんだよっ今の」
マルクは剣を落として、不思議そうな顔で自分の右手を見る。
手のひらをグーパーしながら、顔をしかめている。
「しびれてら…ビリビリする。お前、今、なんかしたか?」
「わかんない、うっかり剣に魔力流しちゃったかも、ごめん」
「いや、怪我はしてねえんだけど、麻痺してるというか」
もしかして…とステータス画面を開いてみる。
「雷撃剣」
あ、剣スキル、ゲットした。