蝉川は交尾をしない
「質問をしていきます。合っていたなら『そうだ』。間違っていたなら『違う』そんな感じでポンポンといきましょう」
「わかりました」
「セミィ嬢が殺された日は晴れで暑かった?」
「はい」
『まぁまぁまぁこれはジャブだとして』と呟いて質問を再開するニャームズ。
本当に『推理が当たったいて欲しくない』と彼が思っているのが私にはなんとなく分かった。
「セミィ嬢は『昼の極端に短い場所』にいた? どうですか?」
「はい。我々は暗くなると鳴くのを止めるのですが、彼女は夕方前に鳴き止むのが多かったですね……」
「容疑者はナツキを含めた数人?」
「ええ。ナツキは彼らを『センパイ』と呼んでいました」
「……『センパイ』か」
容疑者。つまり網男はナツキとそのセンパイ達の誰かというわけか。
『センパイ』とは何だろう?
そのまま『先輩』かな?
「彼女は『同じ樹ばかりの森』にいた?」
「そ……その通りです」
セミィ氏の表情に軽い恐怖が浮かんでいるのが分かった。
無理もない。
東京の雲丹伊倉から遠く離れた町に住む初対面の猫がまるでその場にいたかの様に語るのだから。
心でも読まれているかの様な気分だろう。
……もしかしたら彼は本当に心を読めるのかも知れない。
そう思うと私も少し猫背が寒くなる。
「彼女は貴方と合う日。特別な食事をした。もしくは煙の様なものを見た。どうでしょう」
「ねぇニャームズさん。貴方は何故そんなことがわかるのですか? 確かに事件当日に彼女は『可笑しな匂いのする煙を吸った』と言いました。私は特に気に止めていませんでしたが、それは重要な事なのですか?」
「大変重要です。結構! いや。失礼をしました。本来こんな質問方式でなく、貴方の口から説明して貰うべき事だったのですが、私は自分の口で事実確認することで決意を持ち、覚悟を決め、心のダメージを最小限に抑えたかったのです」
最低限聞きたいことは全て聞いたと言わんばかりにニャームズは肉球と肉球を合わせて『ポフっ!』と鳴らした。
「それでニャームズさん。網男の正体は……」
「ん? それはわかりません!」
「え?」
おいおい。何のための質問だったんだ? 網男の正体を突き止める為では……。
このオスは何を知っていて何を知らない? 全てもう分かっているのに知らないフリをしているのか?
「わかりません……が、網男を捕まえる事は出来ます。これにはある犬の協力が必要だ。問題は今が8月だと言うことと僕はハルキ少年もナツキも気に入っている……という事です」
「ハル……キ?」
ウッドランドにいたオクトの息子ハルキ。
何故ここで彼の名前が出てくるのだろう?
網男の正体をはわからないが網男を捕まえる事は出来る?
8月が問題? ああ! もう何がニャンだかわからない!
わからないことが多すぎるぞ!
「最後に事件には関係ないとてもプライベートな質問をしても」
「ええもちろん」
「この夏の交尾のご予定は?」
「こここここ……こら!」
これは流石に私が怒った。 ニャームズの尻尾を引っ張り、彼の背中に頭突きをした。
なんとエッチな事を訊くんだ!
エッチだと思う私がエッチなのか!?
いや! 私はエッチではない!
去勢している!
「ありません。私は彼女一筋です」
「後悔しませんか? 愛と子孫繁栄の気持ちは同居してもいいと思うのですが……。交尾しなければ貴方の『血』は途切れる事になるのですよ?」
そっ! そうか。
蝉川はこの夏に死ぬ。
それが一週間か数日かはわからないが、近い未来だ。
うん。やはりエッチな話ではなかった。
ふー。
「しませんね。『彼女を殺した犯人を捕まえる』それで私の蝉生は満足に終われます」
「……そうですか。まっ。僕も自分の子孫を残すつもりはないのでこれ以上は何も言いません。さあて僕とニャトソンは少し事件の調べものをしに外出します。蝉川氏とビリド氏はどうかここを自分の家だと思ってくつろいでください」
東京で起きた事件の調べものをこの町でするのか?
一体何を調べるつもりなのだろう。
「ではケーブ。犬車を出してください」
犬車……犬に乗って移動すること。
我々は玄関を出て、ミニチュアシュナウザーのケーブの犬車に乗って外に出たのだった。




