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14. どうして力を使わない?

 目が覚めたら自分の部屋のベッドだった。伊藤さんに仮眠室を案内されて、二段ベッドの布団に横になって――そのあとの記憶はない。服もリュックもそのままだったから、きっと天狗の術で家に帰してもらったんだろう。


 お父さんとお母さんは、いつもと同じように、でも「おはよう」じゃなく、「おかえり」と迎えてくれた。いろいろ聞かれると思ったけど、お父さんもお母さんもあれこれと聞いてはこなかった。


ごはんを食べながら、お母さんは「ゆっくり考えればいいのよ」と言った。「お母さんは女だし、運動が苦手だったから、天狗にならないって決めたの」。


お父さんは、「ならないって決めても、誰も責めないからな。自分の人生、決めるのはお前自身だから」って、やさしく言ってくれた。ぼくは黙ってうなずいた。

「お父さんは途中までがんばったんだけどな。結局はこうして整体師をしているってわけだ。医術は得意だったからね」


 今まで、体操教室で体にちょっとトラブルがあった時、いつもお父さんが治してくれていたことを思い出した。得意な力を生かして人間界で働く、か。ぼくはどんな力を得意としてるんだろう。どうしたいと思ってるんだろう。毎日そのことばかり考えるようになったけど、わからなかった。


 ある日、体操教室の帰り道。商店街の隅で、伊藤さんを見かけた。いじめっ子たちに囲まれ、スーパーの袋をとりあげられそうになっていた。

「いいじゃん、よこせよ」「ちょうどおなかがすいてたところなんだ」。

伊藤さんは「やめろよ、ぼくの買い物じゃないんだ」と訴えている。伊藤さんなら簡単に力でねじ伏せられるだろうに、どうしていつも抵抗しないんだろう。いじめられっぱなしになっているんだろう。ぼくはイライラした。


「伊藤さん! お母さんが早く帰ってこいって。すごく怒ってるよ!」

 ぼくは慌てたふりをして走り寄った。いじめっ子たちは舌打ちし、「じゃあな」とあきらめて走り去った。

伊藤さんはほっとした顔になり、ぼくに「ありがとう」と言い、くるりと背を向けて立ち去ろうとした。なんだよ、他人行儀だな…。


「伊藤さん……。どうしてやり返さないんですか?」

 ぼくは背中越しにたずねた。伊藤さんは黙っている。


「力があるのに。やっつけちゃえばいいじゃないですか」

 伊藤さんはまだ黙っている。ようやく、「それで片付く問題じゃないだろ」とつぶやいて、ぷっといなくなった。術を使ったのか。チェッ。


やっつけて、強いところを見せれば、あいつらはもういじめなくなるじゃないか。それで解決するじゃないか。さっきよりももっと、いらついてきた。ぼくは大股で風を切って歩いた。

 力があるんだから使えばいい。ぼくなんか、その力さえないんだ。力があれば、ぼくだって――。


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