第7話「魔剣の力ってスゲー」
少し遅くなりました。
「はぁ…また君か…」
ここは…夢の中か。
「何度言ったらわかるんだ!!」
転生前の記憶だろうか。何故だか反抗心が芽生えてくる・・・
「お前にはもう呆れたよ。何もしないお前はさっさと消えてくれ。」
心の中で黒い感情があふれ出てくる。
お前に何が分かる。何も努力をしたくなかったんじゃない。努力をしても何も結果が出なかったから努力するのを止めただけだ。
黒い部分が溢れ出てくる。
「もう何も言うことはない。自由にしてくれ。」
あぁぁ…誰か…助けてくれ…
心の全てが黒く染まりそうになる。
「トーチ…起きて…」
外の世界から呼びかける声が聞こえる。
「大丈夫だから…」
その一言に黒い心が一気に溶け、全てを白に変える。
「トーチ…起きた…?」
朝日の光が顔に当たり、意識を覚醒させていく。
「ハクか…おはよう…」
目を開けると、一緒の布団に入りこちらを心配している顔を浮かべたハクがいた。
「トーチ。うなされてた…怖い夢を見たの?」
「うん…昔の事を思い出しちゃった。」
大した年齢も行っていないのに昔を語るトーチに疑問を抱くハクだったが、
「怖くないよ…私が一生トーチの傍にいる…」
「ハク…」
「ウォッホンっ!」
わざとらし咳き込んだのは、いつから部屋に入って来たのか、レインが仁王立ちに腕を組み、明らかに怒った目でこちらを見ている。
「朝食が出来上がったのでハクちゃんにトーチ君を起こしてくるように頼んだ私がバカでした…なんで一緒に寝てるんですか!」
「トーチがうなされていたから心配だった…後可愛かったから起こしたくなかった。」
「一緒に寝ている理由になりません!ご飯が冷めてしまうので、二人とも早く起きてください!」
「「ほ~い」」
レインに両手を掴まれ、布団から強制的に出される。
「「あ。」」
トーチと、レインの声が重なる。
「ごめん。寝る時俺基本パンツ一丁なんだ・・・」
レインの顔がだんだんと赤くなっていき、耳まで赤くなった所で、
「キャーーー!!」
『バシーン!』
「うう…本当にすいませんでした…」
「いやいいんだ…今度から服を着て寝ることにするよ…」
廊下で話しているは、顔を赤くし、俯きながら謝っているレインと、頬に見事な紅葉マークを付けたトーチだった。ハクは、よっぽどお腹が空いていたのか、走って朝食を食べに行った。うぅ…殿方の裸を見てしまいました…と呟くレインは何かを決心したようにトーチへ喋りかける。
「あ、あのトーチ君!」
「ん~どした~?」
「トーチ君と、ハクちゃんってどういう関係なんですか?」
「あれ?レインには言ってなかったっけ?ハクは精霊だよ。」
「ええ!?ジーナちゃんは知ってるの?」
「うん、一緒に話したはずなんだけどな~?」
まぁ会った時は襲われていて、放心状態だったのかもしれない。
「まずは朝食だな。」
「今日は、魚を焼いたものと、お漬物ですね。」
「ふむふむ和食か。」
「わしょく…?何ですかそれは。」
「いや、気にしなくていいよ」
大広間のような場所に行くと、大勢の宿泊客が、美味しそうに食べていた。すると、レインに気が付いた老人の一人が、「おぉ!レインちゃんじゃないか。」と、言うと、周りで食べていた人たちがこちらを向き、
「レインちゃんおはよう」 「いや~今日も可愛いね」 「よっ!待ってました!シャルロット商会の看板娘!」
「皆さんおはようございます。ようこそ!シャルロット商会が経営している旅館『金狼』へ!」
「「「今日も天使!」」」
おぉ…すごい人気だな、特におじいちゃんおばあちゃん達の人気がすごい。
「すごい人気だね。」
「あはは…ここのお手伝いを小さいころからやっていたら、常連客の人に親しみをもって接してもらっています。」
なるほど、おじいちゃん達からしたら孫のような存在なのか。二人が喋っていると、何やら騒がしい。
「なぁレインちゃん…隣に居る男と、どんな関係なんだ?」「あ、それ俺も気になってた。」「付きまとわれているならぶっ飛ばすぞ~?」
物騒な…どれだけ愛されているんだ。
「この人は…昨日悪い人に絡まれている所を助けていただいたんです…」
「ど、ども」
「えぇ~!?こんなヒョロヒョロな奴が?騙されているんじゃないか?」
ヒョロヒョロって…鍛えているんだけどなぁー…
「きゃっ」
入口当たりで喋っていたからか、冒険者のような二人組とぶつかってしまった。いかにもチンピラのような雰囲気を出している。
「いってーな…謝れよ。」
「も、申し訳ありません!」
レインとぶつかった赤い髪をした男が少し苛立った口調で言う。レインが謝ると、もう一人の青い髪をした男が、
「あれ~?君レインちゃんだよね~。」
レインの事を知っているのか、こんな事を聞いてくる。レインが「はい、そうです」と、答えると、青い紙の男は「おお!やっぱりか!」と、何か両手を叩く。
「あぁ?誰だよ。」
「ここの宿を経営している商会の娘だよ!」
「ふ~ん」
赤い髪の男は、レインをじ~っと見て、にたぁ~っと笑うと、
「可愛いじゃねーか。この後俺とどっか行かないか?」
8歳(地球では10歳)の女の子を誘うとかロリコンかよ。
「すいません。この後こちらの方と用があるので。」
「あぁ!?さっきぶつかったくせに俺の言う事がきけねーってのか?俺は冒険者の間では『炎の拳』って二つ名で通ってるんだよ。」
赤い髪の二つ名をきき、あたりが騒がしくなる。
「うわ~レインちゃん災難だな~よりにもよってあの『暴走烈火』に目をつけられるとはな…」「そんなにやばいのか?」
「あぁやばいぜ~、目を付けた女は子供、熟女、問わず逃がさず、捕まったら最後…心を炭にしちゃうらしいぜ」「うわ~守備範囲広いな。」
「ド変態らしい。」
「あぁ!?外野は黙ってろよ!!」
すると、あたりはシーンとなり、誰も口を出せないようだ。
「おい、こんなガキより俺たちと遊んだ方が天に上る感覚を味合わせてやるぜぇ~」
うわ…きも。8歳相手にかなりの下の話を突っ込んできたな。
レインは何を言われているのかわからない顔をしており、はっきり告げた。
「いえ。お断りします。」
「おいおいレインちゃ~ん?素直に聞いといたほうがいいぜ~?こいつ容赦ないからよぉ」
青い髪の男が少しにやけながら話に入って来た。
「おい…あの青い髪の奴もしかして『蒼蛇』じゃないか?」「はぁ!?まじかよ」
「蒼蛇ってなんだ?」「蒼蛇って言ったらおまえあれだろ?棍棒をヌンチャクのように使う変わった戦い方の有名な奴だよ。」
自分の事を言われているのがうれしいのか、青い髪の奴は少し自慢げになる。
「とりあえず来い…あぁ?何の真似だ。」
赤い髪がレインに触ろうとするが目の前に出てきたトーチに苛立つ。
「触るなよ。お前らのような人間が触れていいかどうかもわからねぇのか。」
「あぁ!?何だとテメー!」「俺らに抵抗する奴とか久しぶりだな。」
まさに一触即発の状態だった。
「トーチ…何の騒ぎ?」
すると、ご飯をほっぺに付けたハクが現れた。もう一人の天使の登場に赤い髪の男が更ににやける。青い髪の男は口笛を『ヒュ~』とご機嫌そうに吹く。
「おい!そこの白髪の奴!お前も俺たちと遊ぼうぜ?そこにいるレインって奴も来るからよ。」
と、赤い髪の男が近づき、手を伸ばすと、
「気持ち悪い…近寄らないで…」
と、一言告げると、トーチの後ろに隠れてしまった。
「き、気持ち悪いだと…ガキが…調子に乗りやがって!おい!トーチって言ったか?お前俺と戦え、俺たちが勝ったら女二人俺たちに寄越せ!」
赤い髪の男は、二人の前で俺の無様な姿を晒すことが目的なのか、戦いを強要してきた。
まぁ俺は、ハクに触ろうとした時点で蹴とばそうと考えて居たのだがちょうどいい。
「ハッ、力の差すら分からない雑魚が。二人で来いよ。」
「あぁ!?バカにしやがって…殺しちゃっても知らないからな?」
青い髪の男も少し頭に来たのか、少し強張った顔をしている。
「ここでやると周りの人の迷惑になる。広い場所でやろう。」
「あぁ俺も賛成だ。うっかり勢い余って周りの奴らまで殺しちゃうかもしれないからなぁ?」
周囲の人間は一斉に俺らから距離を取る。
「がはは!少し脅しただけでこの反応…そうだ…おい!ここの庭でやらねぇか?」
「分かった。」
宿の広い庭に移動して、観客は宿の窓から覗き見るように観戦をしている。
二人の男は、各々の武器を取り出した。赤い髪の男はガントレット。青い髪の男は棍棒を装備している。一方トーチはマーリンに作ってもらった短剣1本のみを装備している。
「ハッ!そんな武器しかないのか!」
「トーチ君…」
赤い男は嘲笑う。流石に心配になって来たのか、レインは心配そうにトーチを見ている。するとそこに、
「トーチ…」
ハクが現れた。
「あいつらから精霊の力を感じる…こちらも精霊の力を使わないと、怪我をするかもしれない…少し剣を貸して…?」
「う、うん」
いったい何をするのかと思ったが、まさか。
「その剣は、俺の魔力しか入らないよ?」
「うん…手に取ってわかるよ…でもトーチ…この剣には魔力以外にも入るようになっている…」
ハクが体から光を出し、剣へ集中させる。
「精霊の力が入るようになっている…しかもかなりの力が入るようになっている…私が入れるくらいにっ!」
ハクが光となり、剣に移る。すると、剣は宙に浮き、サイズも短剣から片手剣サイズになっている。
「はは!白髪の奴お前の精霊かよ!その年で精霊と契約しているのはすごいと思うが、その程度の力じゃ俺達には遠く及ばないぞ!」
「調子に乗るなよ…お前たちは俺の『宝物』に触れようとしたんだ…罰は受けてもらう。」
手に取って分かる…ハクの力がどれほどの物なのか。魔精霊が国一つを潰せるほどをの力を有していると、言う事も。しかし、今のハクは契約もしていない状態。本来の力は十分に出せないだろう。
「じゃあ始めるぜっ!」
いきなりガントレットから炎を出すと、当たりを包み込む。
「お前が逃げないようにするのと、俺の名声の為だ。」
どうやら流れ弾が当たらないように壁を作ったらしい。実はトーチは風の魔法でもう既に壁を作っていた。が、その必要はなさそうだ。
トーチ…この炎から精霊を感じる…気を付けて…
赤い髪の男は懐からコインを取り出すと、
「このコインが地面に落ちたら開始の合図だ。分かったな?」
コインを上に投げる。赤い髪の男はガントレットに炎を纏わせ、青い髪の男は水で棍棒を覆っている。
俺は腰を軽く落とし、片手剣を構える。
トーチ…この剣は私が作った劣化版の魔剣。だけど、あの二人を殺せるほどの力を持っているから気を付けて使ってね。
「あぁ分かった。」
そう告げた瞬間コインが落ちる。
まず動き出したのは赤い髪の男。正面から突っ込んでくる。すると、炎の勢いを上げ、こちらに1mほどの火球を飛ばしてくる。すると、火球に向かって水が集まり、次の瞬間トーチを一瞬で水蒸気を作り、身を焼くほどの熱量を持った蒸気をトーチを襲う。さらに、炎の障壁から四方八方からトーチへ炎が襲う。
まさに短期決戦。精霊とのコンビ技。
「はは!呆気なかったな!」
「あぁ、口ほどにもない。」
男たちが未だに水蒸気の中に居るトーチはもう死んだと思っているようだ。
「ト、トーチくーん!!」
「ほいほ~い。」
身を焼くほどの水蒸気が一気に発散し、炎の障壁も壊すほどの衝撃が来る。
その衝撃を生み出したのは、魔剣を片手に、レインへ返事をしたトーチだった。
男は驚愕する。一体なぜ生きているのか。何故、という2文字が頭を埋め尽くし、同時に本能へ危険信号を送っている。
「いいコンビネーションだね。でも…弱い。」
一瞬で間合いを詰めると、魔剣を振り下ろし、ガントレットを破壊する。しかし、あまりの衝撃に、ガントレットを付けていた腕の骨は粉々になり、体を勢いよく吹き飛ばす。近くにいた青い髪の男も吹き飛ばされ、頭を打ち付けたのか、気を失っている。
少しの沈黙の後、
「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
と、建物を震わせるほどの雄たけびを観戦していた人たちはあげる。
少しやりすぎたと、思ったが。
「トーチ君!」
レインが飛びついてくる。俺は優しく魔剣を持っていない手で受け止める。
「ありがとうございます…私の為に…」
「違う…私の為…」
いつの間にか剣から姿を戻していたハクがレインにそう告げると、後ろから抱き着いてきた。
「二人の為だよ?」
うふふと、二人は笑顔になる。桃色な空間に、声が入り込む。
「レイン!いったい何の騒ぎ?」
若い美しい女性が現れる。
「あ、お母さん!」
レインがトーチの胸から離れると、ハクが代わりにトーチの胸に顔を埋める。レインは事情を説明しているのか、少し話が長引いている。
「それにしてもハク。すごい力だったな!」
「…」
「ハク?…ハク!!」
ハクの体が異常に冷たい。トーチの叫び声に気が付いたのか、レインが走ってくる。
「トーチ君!ハクちゃんがどうしたの?」
「体が異常に冷たいんだ!意識もないし…どうしたら!」
何故か服が崩れていく。
焦るトーチは収納魔法で、服を取り出すと、ハクへ纏わせる。
「ハク…ハクっ」
「トーチ君と言ったかな?その子は精霊なの?」
「は、はい…さっき力を使ったら、動かなくなって…」
「契約はしてる?」
「仮契約もまだです…」
「それは困ったわね…契約者の魔力を分け与えれば治ると思うけど…」
レインのお母さんが、指輪から4つの光を出す。
「力を貸して。この精霊に力を分け与えてあげて…」
4つの光はハクの中に入っていく。が、すぐに出てきてしまった。
「うそ…トーチ君…この子他の精霊の力を奪い取る力があるみたい。この子達が入ると、力をすべて取られて存在を保てなくなるそうよ…」
「そんな…ハク…」
「ごめんなさい…」
そして思い出す。精霊は、契約者の血を吸い取り、契約者の魔力を得て、契約するという事を。本来指輪を使わないと、血は精霊の中に馴染まないという。教会で契約しようとした時ハクが言っていた言葉、「もう馴染んじゃった」発言は、血が体内に馴染んでしまったと言っていた。トーチの高い精霊との適性が、指輪を必要とせずに馴染ませることが出来たらしい。結果として、契約はしていないが、常に魔力を吸収する状態になってしまっている。今回は、今まで貯めていた魔力をすべて使ってしまったようだ。
「あ、あの!魔力を与えるのはどうしたらいいんですか?」
「え、えーと…口付けをしてから、」
言い終わる前にトーチはハクヘキスをする。より多くの魔力をハクヘ送り続ける。
「ただ送るだけじゃダメよ。信用して。心に送るようにして。」
頼む…戻ってこい、と言葉を魔力に乗せる。
30秒近く濃密なキスをすると、ハクの目が開き、身体に温もりが戻ってくる。
「んっ…プハッ、ハク!大丈夫か!?」
すると、ハクはトーチの頰を両手で包むと、口付けをしてくる。
「ちょーっと!もう意識戻ったじゃないですか!なんでまたキスをしているんですか!」
レインが間に割って入り、ハクとトーチを引き離す。
「初めてだったから…記憶に残しておきたくて…」
「うふふ…ハクちゃん?実は魔力を送り始めて数秒で意識は戻っていたんでしょう?」
「貴方は誰…?」
「私はレインの母親よ。」
「なるほど…中々鋭い…」
あまりに突然の出来事にトーチは話に付いて行けてなかった。
「ハ、ハク?もう大丈夫なのか?」
「うん…少し調子に乗って力を使い過ぎたみたい…トーチ…?」
「どうした?」
「ありがとう…大好き…」
ハクに愛を告げられたが、魔力をハクに与え過ぎたのか、マインドダウンにより、意識が遠のいて行く。遠のいて行く意識の中でトーチは、
「お疲れ様…」
と、誰が言ったのか分からない声に甘え、意識を手放した。
魔剣の力ってすげええええ!!
だけど…まだ契約してないから…
ご愛読ありがとうございます!最近ブックマークしていただける方が出てきてとても嬉しいです!この嬉しさが爆発して、とても短い物語をこの後載せます!