第4話「微精霊」
息を潜め、狙いを定める。魔力を指先へ集め、軌道をイメージする。
ピュッ、と空気を切る音が鳴り、木々の間をすり抜けていく。
「キュー!」
よしっやっと成功した。今やっていたのは、魔法の軌道を途中で変える、と言うものだ。
「だけど、地形を把握している時や目に見える時しか使えないな。魔法自体に意識があったらなー」
トーチは、この森で狩りを続けていて、家周りの地形なら熟知していて、庭のようなものだった。
「おっ!しっかり仕留められているな。だけど苦しませちゃった…まだ生き物には使うべきではないか。」
トーチは普段狩るとき、頭や心臓を一撃で射貫くようにしている。魔法の精度を上げるためもあるのだが、なるべく動物は苦しませたくないと思っている。
「今日はウサギ1匹か。まぁまぁだな。」
今日の晩御飯はシチューがいいなぁ、だんだん寒くなってきたし。
そう思いながらウサギを空中へ投げ、その先へ魔力を集中させる。すると、異空間への扉が開きウサギを飲み込んだ。
「しかし、収納魔法っていうのは便利だな。使う人の魔力が多ければ多いほど収納できるんだし、俺にぴったりじゃーん」
収納魔法は、高位魔法で魔力を多く使い、イメージがしっかりしてないと魔力をごっそり取られる扱いの難しい魔法だ。
「収納魔法が使えてやっと一人前の魔法使い」
と、言われるほど有名な魔法だ。
一般的な人は一辺1mの立方体の空間にしか収納できないのだが、トーチは小さい頃からマインドダウンするまで魔力を酷使していたこともあり、一辺50mの空間を作り出すことができる。
本来マインドは人の生命エネルギーに似たものであり、マインドダウンのように、マインドが少なくなり過ぎると最悪の場合死に至ることがあるため、普通の人はマインドダウンするまで魔力を使わない。
そんなことは一切教えられていないトーチは危険性をあまり知らず、平気でマインドを使い果たす。その甲斐あってか子供とは思えないほどの魔力を有している。
「収納魔法があるなら、ワープもできるんじゃないか?」
イメージするのは空間を開け、繋ぐ先は異空間ではなく、家の前。
膨大な魔力を紡ぎ、空間を広げていく。
すると…
「わ~!何ですかこれ!収納魔法に似ているけど魔力の量が違いすぎます~!リザさ~ん!またトーチ君が何やらやらかしましたよ~!!」
「なんだ!また小屋を燃やしたか!」
「いえ違うんです!なんだか収納魔法みたいなんですが使われている魔力の量がおかしいんですよ〜!」
騒がしいな…とりあえず声が届くなら大丈夫か。
「よっと…おっ着いた。ただいま〜」
「「はぁ〜…おかえりなさい」」
何故ため息をつくんだろう。何かおかしな事したかな?
「ト、トーチ君?それは何ですか?」
ワープゲートを指差す。
「あ〜これ?潜ってみて。」
「いやですよぉ〜!絶対いやです〜!」
「じゃあ閉じるか。」
ワープゲートの魔力を感じ、転移先と転移元のゲートを少しずつ狭めて行く。
思ったより難しいな。慣れればスムーズに行けると思うが。
「ふぅ…少し疲れるな。今後の魔力増加訓練に使ってみるか。」
今までは短剣を伸ばしたり、風魔法を使って森全体の風の流れを変える大規模魔法で、魔力を上げていた。
しかし最近はこの程度では魔力が尽きなくなり、訓練にならなくなっていた。
毎日毎日、訓練、狩、訓練、狩の繰り返しでつまらなくなってきた。
そうだ、精霊を見に行こう。
「そう言えば僕、マーリンさん以外の精霊を見た事ないんだけど、何処に行けば会えるのかな?」
「精霊は〜、魔素が多い所に好んで住み着くんですよ〜?でも、魔素が多いので、動物が魔獣化しやすいんですよ〜」
「この森は魔素が少ないの?魔獣を全然見ないんだけど。」
「いえ〜?この森はここら一帯より格段に魔素が濃いはずです〜」
「ま、まぁ魔獣が少ないのはいい事じゃないか。あははは」
マーリンが不思議に思うとリザが焦る。
「もしかしてリザさ〜ん?トーチ君が森へ行き始めてから〜、掃除当番サボったり〜、家に居ない事が多かったのって森へ魔獣狩りに行ってたりしてました〜?」
マーリンさんが少し顔を強張らせる。
「いや!そうじゃないんだ!別に隠すつもりは無くて、当番をサボったのは謝るから!」
「はぁ〜、トーチ君思いなのはいいですけ!ど!」
まぁ思ってくれて居るのは嬉しいが、当番をサボったのは悪いなぁ〜。
「何でそんな面白い事に誘ってくれなかったんですか〜!」
「いやそっちかよ!」
ハッ!しまった思わずツッコミを入れてしまった。
「マーリンさん以外の精霊に会いに行きたいな。ダメ?」
出来ればあまり遠くないところがいい。
「微精霊にならすぐ会えますよ〜?」
「え?本当に?」
「ええ、この家の水とか灯りは微精霊達の力を借りてるんですよ〜」
「その子達に今会えるの?」
「はい!とってもいい子達なんですよ〜!」
マーリンが家の中に走って行くと、家の明かりが消える。
「この家の明かりをつけてくれる子です!」
マーリンの周りを赤い光の粒が回っている。
「はじめまして。いつもありがとう!」
すると光の粒がより一層明るくなる。
「礼には及ばないぜ、らしいです。」
「マーリンさんは精霊だから微精霊達の声が聞こえるの?」
「当然!そしてリザさんと契約している子達なので、リザさんも声が聞こえるんですよ〜」
「あれ?リザさんが居ないけど、何処行ったんだろ。」
気がつけば居ないのはいつも通りだが…
「何か思いついたんでしょう。無視でいいです無視で。」
「は、はあ…ねね!マーリンさん!僕この子達の力を見たいんだけどダメかな?」
「いいと思いますよ?リザさんはこの子達に明かりをつけてくれる代わりに自由に行動する事を許していますから。」
どんな事が出来るんだろ。
「例えば、武器に纏ったりして、威力や間合いを伸ばしたり出来ます!」
何処から出したのか、大剣を持ち、微精霊が大剣に集まる。
「さぁさぁ!トーチ君に良いところを見せる時ですよ〜!」
「せいや〜!!」
すると、離れた所にあった木が倒れた。
「え?それだけ?」
「私は魔法は得意ではないですが、魔法の威力や、狙った所に魔法が当たる様に手助けしてくれたりしますよ〜」
まじか!遂に来たぞ、
「それって俺にも出来るかな?」
「あー、この子達は私とリザさん以外には力を一部使えない様になってるんですよ〜。」
「一部?」
「例えば〜、水を出したり、傷を癒したりですね〜。」
「なるほど、また今度でいいよ。精霊の事を色々聞けてよかったよ。」
魔法に付与出来るのは大収穫だ。
「分かりました〜。もう持ち場に帰っていいですよ〜、ありがとうございました〜。」
「トーチ君を見つけたのは、森を巡回している子達なんですよ。」
「そうだったんだ…命の恩人だな〜」
早く精霊と契約したいな〜。
他の方の作品を見ると、改行を挟み、見やすくなっていたのでやってみました。時間が開けば0から3話まで、修正します。