第15話「はじめてのどらごん2」
討伐隊に降り注ぐ極光のブレス。降り注がれたブレスは広範囲に分かれ蹂躙していく。
「ハクと…防壁魔法を使える人!ここは頼んだ!」
「任せて」
ハク達ならば守り切れるだろう。辺りにはブレスに気が付き防壁魔法をギリギリで発動させたが、今にも破られそうな魔術師と、すでにブレスに身を焼かれた人たちがいた。
「やるしかない…」
範囲は全員を守れるほどの大きい防壁。強度はブレスを止めれるほど…いや、わざわざ全員を囲う必要はない。狙うは今も極光のブレスを吐き続けている竜の翼。撃ち落としてブレスを止めるしか方法はない。
土を限界まで固め、直径10cm程の石を量産していく。出来上がったら撃つ、作る、撃つ、作るを高速で行い、数百発の弾丸を撃ち出していく。竜は迫りくる石の弾丸を旋回しながら回避していく。一発も当たらなかったが、ブレスが止まった。
「ハク、アイツを撃ち落とせるか?」
「よゆー…任せろ」
ハクは素早く弓を構える。高まる魔力、圧倒的、それでいてとても鋭く綺麗なマインドに周りの魔術士達は魅入られていく。
「…◯ね「ちょハクさん!?」
追尾機能の付いた矢が竜の左翼を貫通。勢いは止まらず、右翼も撃ち抜いた。
「ん…翼に当たった…」
「いや十分です…」
翼を一部失った竜は墜落する。
先程のブレスで、7割が重傷。残りの3割は運良く魔術師か、トーチの後ろにいて防壁魔法で守られた人達だった。しかし、トーチの後ろにいたのは、回復術士や、魔法術士の後衛が大半。今は回復術士が、重傷者の移動と治療を行っている。
墜落してきた竜の威圧に圧倒されてしまう。しかし、魔法術士は少しでも時間を稼ごうとし、魔法を連発するが効果は無い。前衛を担当していた人たちは、素早くスリーマンセルを組んでおり、竜の気を引こうとしている。だが竜は尻尾や翼を使い攻撃を無力化している。
おお…あれがドラゴン!すごい!
「ハク!俺は今ファンタジーの頂を目の当たりにしているよ!!」
「…何言ってるのかよく分からない……」
「ハク?あいつ老龍だと思う?」
「…少なくともレッサーじゃない…でもエルダーの中では弱いかも…」
「理由は?」
「……?、森に来た奴より年季を感じる…」
「お、おう」
ぁあ…眠いな〜…ちゃちゃっと終わらせるか。
「ハク、剣になって一撃で終わらせるのはいい案だと思わないか?」
「…竜が粉々になってもいいならいい案だと思う」
「じぁあ俺が動きを止めるから、ハクは首を切っちゃって」
「ん…」
「あ、あのぉー…あの竜はブレスが得意な種類です。ブレスを制御しているのは口なので、まずは口周りを傷つけて、ブレスを撃たせないようにさせた方がいいですよ」
「そうなのか…」
「トーチ?口ならさっき、矢を刺したよ…?」
「え…マジで?」
よくよく見ると、確かに刺さっている。さっきからブレスを撃ってこないのは、矢が刺さってたからか。
「お手柄だハク!」
「もっと褒めるべき…」
「流石ハク!強いぞハク!可愛いぞハク!」
「おいお前ら…いちゃつくなら竜を倒してからにしな」
「おっリチャード!無事だったか!素が出てるぞ」
「おっといけないいけない。それより竜を倒せる手段を持ってるって本当かい?」
「あぁ本当だよ。でも竜の動きを止める為の魔法を使うには少し時間がかかるんだ。その間気を引いてて欲しいんだけど出来る?」
「元々竜を討伐する為のメンバーだぞ?人数が少ないが、それくらいは出来る。任せとけ」
トーチは魔力を高めていく。ハクとは違い、鋭く、綺麗では無い。しかし唯一分かるのは、本能的に震える程のマインドの量。
「この子…よく爆発しないわね…」
トーチは、その爆発的なマインドを完璧にコントロールし、土を創り出していく。硬く硬く、竜の動きを確実に止めるために。
ハクは、その時を静かに待つ。一人で竜の堅い鱗で守られた太い首を一撃で断ち切るのは、ハクとトーチしか出来ない。しかし、それは相手が若い竜だった場合だ。エルダーともなると、若い竜とは比較にならないほどの戦闘経験がある。エルダー程の竜は中々隙を見せず、誰かが隙を作らなければならない。トーチが竜の動きを止め、ハクが切る。
「この剣があれば…倒せる」
トーチから譲り受けたマーリンが作った短剣を伸ばす。トーチのマインドを前に結構貰ったので、もしやと思い、短剣にマインドを流し込んでみると伸びる事が判明。そのままハクの力を注げば十分に断ち切れる威力になる。
『ハク、俺は準備出来た』
トーチからの念話が来る。
『こっちも準備出来た…いつでも』
剣を構え、身体強化魔法を掛ける。
『いくぞ…3…2…1…』
直後、大地が割れる。立っていられない程の揺れが起き、ヒビ割れが巨大化していく。割れた大地から、石が蛇の様に現れる。土属性の上級と中級を合わせたトーチオリジナル魔法『カタストロフ』地割れを起こし、更に岩盤を使い、相手地の底へ落とす魔法。揺れが収まり、リチャード達は素早く離脱。トーチが操る岩の蛇は合計12本竜は尻尾や、ブレスを無理やり出し爆破させ蛇を破壊していくが、マインドが枯れるまで無限に襲ってくる蛇に、遂に後ろ足を掴まれる。引っ張られ体勢を崩した竜は一瞬にして拘束され、動きを止められる。竜はブレスをわざと誤爆させ、拘束を解こうとしているが、トーチのマインドを枯らせる事は出来ない。
「そろそろかな」
ハクに合図を送る。首辺りの岩を少しずらし、竜の首を露出させる。
「しかし俺の全力でも少し傷を付けただけだったな…」
岩に埋れ、首だけ出ているエルダー級の竜。拘束中にも体を傷つけようとしても鱗を数枚削り取る事しか出来なかった。レイン達が素材を欲しがるのもわかる気がした。
「ん?雨?」
雨と思っていたものは紅かった。生温かい血の雨が降り注ぐ。
「……へ?」
トーチは見ていなかった。いや、見えなかった。瞬きを終えた時にはもう首は吹き飛んでいた。誰がやったのかは分かっていた。それは血溜まりの中にいる純白とも言える程の白かった猫人の少女だった。
この時、『紅猫』と呼ばれる少女が生まれた。
ハクは血を浴び、指に付いた血を舐めると、一言発した。
「熟された味…美味しい」
「吸血鬼かハクは!今すぐ吐き出しなさい」
「血を吸うのが一番元気になれる。トーチの血が一番美味しかった。だけどエルダー級の竜は熟成した味がしていい。トーチの血はまだまだ薄い。今後に期待だね」
じょ、饒舌になってやがる・・・
「と、とりあえず解体しようか」
「力を使いすぎて疲れた。本当は疲れてないけどこの惨状を見せれば納得してくれると思うんだけどな。そもそもトーチは解体の仕方知ってるの?ここはベテランの人たちに任せたほうが素材の質も落ちな」
「わ、分かった!けど…」
ハクの意見も一理ある。森にいる動物なら大体何でも解体できるが、竜はサイズがデカすぎて、どこが使える部位なのかわからない。だけど…
「怪我人も多くいる。俺じゃないと治せない人もいるかもしれない。解体は無理でも治療だけでもやってくるよ。ハクは先に休んでていいよ」
「…」
「ハク?」
「…お腹空いた…竜の肉は美味しいと聞く…取りに行こう」
「え?さっきは解体しないって…」
「食べれるところは別…はやく」
戻ったのね…
「でも俺は怪我人の治療を手伝うからハク一人で行ってきて」
「ふっふっふ…倒したのは私だから全部私が食べる…」
「俺の分も残しておけよー」
死んだ者は出なかったが、ブレスに焼かれ手や足を失った人もいる。そういう人たちは大体冒険者をやめるのだが、お金のある人は特殊な義手や義足を付けて冒険を続けるらしい。
今回の討伐で1匹のノービス級の竜をトーチ。エルダー級をハクが手に入れた。帰り道は疲弊した人が多かった。魔除けと防壁を掛け終わった魔術師たちは、マインドが無くなりぶっ倒れた。
こうして、竜の討伐クエストは終わった。