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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第6章、貴族
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69、兄妹と旅は道連れ

 ライズが上手く止めてくれたようだ。いきなり扉が叩かれたので何事かと思えば、中年で鎧を着た男たちが三人……いや、四人も押しかけてきたのだ。


 一人はうまく隠れているつもりのようだが、シノンの死角に隠れたままこちらを窺っているのが彼にはわかっていた。


 シノンはそんな男を見張るために玄関に残っていたのだが、動きはない。そして中に入った連中は、約束通り散らかさない程度に中を見ているようだ。


 見られたくないところは、結界を張って中に入れないようにしてある。もちろん、あの兄妹の部屋も、だ。

 ライズとゆうきはあの部屋にいるので、二人しかいないと言ったのだ。



「……申し訳なかった。どうやら勘違いだったようで」

「だから言っただろうが。散らかしてないだろうな?」

「二人の人間を探すだけだったので、散らかす必要は特になかった。では、失礼する」


 すると、男たちはツリーハウスから出ていった。しかし、近くの茂みの中に匂いが残っているので、まだ見張っているだろう。


 今度はツリーハウス全体に結界を張り、カルナに話しかける。


「……魔力反応が二。できるだけ音を立てず、刺激しないように探して持ってこい」

「……わかった」


 シノンとカルナは二手に分かれ、あるモノを探し始める。

 食堂の隣の部屋をカルナが、奥のマガネスの書斎をシノンが担当した。


 ライズとゆうきは、シノンに『念話《テレパシー》』でそのまま動かないようにと言っているので、彼らはまだじっとしたままである。


「……………あった」


 囁きながら、シノンは机の裏に貼られらていた黒くて四角い物を取り出す。

 三立方センチメートルくらいの小さな道具で、周りの魔素を吸収して動いているようだ。


 シノンはそれを食堂へと持っていき、カルナが持ってきた同じ物と一緒に、まとめて結界で囲ってやる。そして、完全に魔素の供給を断ち、魔素が吸収できないようになったのを確認してから話し始めた。


「『盗聴器《ワイアタップ》』か。せこいことしやがる」

「こんなの誰が作ったの?」

「製作者はわからんが、影属性の使い手かな。腕はいい奴だ」

「すごいね。シノン、同じもの出来る?」

「俺だったらもっと誰にも見つからないような型を作る」

「ははあ……」

「ライズさん、もういいですよ」


 そう言いながら、シノンは青年と少女を寝かせていた部屋を覗く。

 彼らは偽装の腕輪をしており、白銀の髪はそれぞれ紺色と水色になっている。


「うん、お疲れ様。誰だったの?」

「然濃族の男女を探してるんだそうです。ここにはいないって言ってやりましたよ」

「へえ。まあ、間違っちゃいないか。ね?」

「えっ、あ、あの………」

「いいよいいよ、わかってるから」


 二人はまだ不安そうな顔をしているので、ライズは彼らに近づいて、落ち着かせるように言った。


「君たちのことは把握している。けれど、今はいいよ。話したくなったら話せばいいさ。ね?」

「は、はい……本当に、ご迷惑をおかけしてすみません!」

「すみませんっ!」


 兄妹は揃って頭を下げた。


「それから、遅れました。俺の名前はアルファで、この子は妹のアリュスフィアです。改めて、助けていただいてありがとうございます」

「ああ、良いから頭をあげて。あ、左にいるのがシノンで、その隣にいるのはカルナだよ」


 カルナはシノンの後ろから顔を出し、笑顔で手を振る。


「よろしくねー」

「よろしくお願いします」

「敬語やめよ?私苦手だから。ね、シノン?」

「………そうだな」


 素っ気ない返事で、シノンはカルナに返した。

 アルファは少し迷ったが、ライズ以外はみんな歳下なので、遠慮しないことにした。


「わかった。そうさせてもらうよ」

「アリュスフィアちゃんもね」

「あ、は――……う、うん!」


 アルファは笑顔で言う。そしてアリュスフィアも、ここで初めて笑みを浮かべた。


 すでにシノンの姿はなく、アルファとアリュスフィアにとっての彼の第一印象はあまり良くなかった。

 彼らの前では、たとえ話し相手がライズでも少し素っ気ない雰囲気だった。


「あ、私のことはフィアって呼んでね!」

「お、おいこら。すみません、妹が……」

「むぅ、いいじゃないの!」


 二人に笑顔が戻っていた。二度も助けたからか、彼らは打ち解けてしまったらしい。


「ああ、それと、君たちならば信頼できると判断したし、恩人に隠し事はできない。……だから、その、もう一度謝らせてほしい。申し訳ない」

「ん?何を謝っているのかな?」

「実は、俺たちは………先ほどの男たちが言っていた然濃族なんです」

「ははあ、やっぱりそうだよね。でも、君たち目は?」


 アルファとアリュスフィアはきょとんとした表情になる。然濃族と聞けば誰しもが驚くものであるが、彼らはそんな雰囲気を出さなかった。

 逆に驚かされたのは兄妹で、少しぼーっとしてしまった。


「ちょ、ちょっと?大丈夫?」

「え、あ、すみません。その……驚かないんですか……?」

「シノンがそうだろうと言っていたからね。アルファ君が目を覚ました時に目の色が赤色だったんで、違うのかなとか思ったんだけど………」

「ああ……それは、これですね」


 その時、アルファの目の色が消えて――……いや、透明色になっていった。


「俺たちは、もとより持ち合わせている能力で自分の目に色をつけられるんです。慣れないと使えないのですが……この能力が使えないと、集落の外に出させてくれないんですよ」

「へえ、つまり、才を持つ子(シャラスト)みたいなもんか」

「まあ、そんなところです」


 アルファの目が赤色に戻ると、カルナが言った。


「君たち、これからどうするの?」

「明日にはここから出ていくよ。あまり長い間ここにいては迷惑がかかるだけだから」

「いやいや、まだ早いよ。君たちが望むならずっとここにいたって構わないし、少なくともあと一日は休まないと」

「でも……もう二度も助けていただいてますし、俺たちにとってはもう充分ですよ」

「良くない。医術師としてのプライドが許さないから、あと一日は休みなさい」


 珍しくライズの表情が険しくなった。柔和な笑みを浮かべていたライズからは想像できなかったのか、アルファとアリュスフィアの頬がこわばった。


「え………で、でも……」

「でもじゃない。君たちは狙われてるんだ。周囲の人も、偶には頼りなさい」

「は、はい……すみません、お世話になります」

「よろしい。謝らなくていいよ。あくまでこれは俺たちの好意だし。ね、カルナ、ゆうき?」

「うん」

「はい!」

「あ、ありがとうございます!」


 アルファは、部屋を早々に出ていってしまったシノンが気になっていたのだが、回復したら話しかけてみようと思っていた。


 その後、カルナたちは遅めの朝食を摂り、各々自由に過ごすのだった。






「明日には出発か。今度はどこへ行くんだい?」

「自由に旅をするつもりですよ。一応、空の使い(クヤイ)の調査もしますけどね」

「君たちは、旅をしているのか?」


 振り返ると、アルファとアリュスフィアが立っていた。


「そうだよ。あ、ゆうきも今回は行く?」

「はい!ご迷惑でなければ!」

「なら、俺たちも、連れていってくれないだろうか?」

「へ?」


 カルナが、間の抜けた声を出す。シノンも少し驚いたような表情で、彼らを見ていた。


「無理なお願いなのはわかっている。ただ、俺たちは逃げなければならないんだ。集落にも帰れず、ただ二人だけで逃げるのは辛くて……恩人にこんなことを頼むのはどうかと思うが、せめて考えてはくれないだろうか?」

「いいよ?」

「いいですよ?ボクも」

「えっ、い、いいの?」

「うん。ね、シノン?」

「…………ああ………」


 少しぎこちなかったが、カルナの決定に反対する気はなかった。ただ一つ問題なのは、彼らに自分たちが白髪に青い目を持つ子《リ・ミ・レイヴァ・クラント》であることを伝えなくてはならないことだ。


 なぜなら、シノンの作った偽装の腕輪は、性能は良いのだが連続でずっと使っていることができない。

 使用者の魔力を消費するのだが、連続で使うにつれて、消費魔力が増えていくため、いつか魔力切れを起こす。


『過熱《オーバーヒート》』といって、故障や破損の原因になりかねないのである。

 この状態になると、少なくとも一時間の休憩時間が必要で、その間に何が起こるかわからないのだ。


 魔力がないとはいえ、然濃族は生き物の魔力の流れには敏感なので、魔法で髪の色を染めていることはできない。


「………なら、驚かないでね」

「「えっ?」」


 カルナは左腕につけられた金色の腕輪を外した。その瞬間、水色だった髪の色が美しい白銀に戻り、同時に、兄妹の目は見開かれていた。


「なっ………!?」

「れ、レイヴァっ!?し、しかも青目!?」


 シノンも黙って腕輪を外した。そうすると、更に兄妹は驚くことになった。


「えっ!?ちょっと!ダブル!?」

「い、いや、驚いた。ま、まさか、白髪に青い目を持つ子《リ・ミ・レイヴァ・クラント》に会えるなんて……し、しかも二人も同時に……」


 街中ではほとんど頭巾を被っているのでそこまで目立たないのだが、やはり目の前で正体を明かされると彼らが驚くのも当然である。


「これから一緒に旅をするなら、こうしないといけないと思ってね。アルファたちが自分たちの出自を語ってくれたから私達も、ね?」


 カルナはシノンに振ったが、彼は黙ってうなずくだけだった。


「…………本当に、ついて行っても良いのか?」

「うん。事情はわからないけど、なんか困ってるなら助けるよ」


 カルナは見れば誰もが惚れそうな笑みで言う。アルファも例外ではなく、少し見惚れてぼーっとしてしまった。

 それを見てシノンは少し不快そうだったが、面倒なことになりそうなので黙っていた。


「はっ!あ、ありがとう。これから、よろしく」

「よろしくっ!」

「うん、よろしくね」

「よろしくお願いします!」

「ふむ、話はまとまったみたいだね。師匠が帰ってくるまでは俺は一人かあ………」


 ライズは、寂しそうだが何故か楽しそうな声を出した。マガネスは数ヶ月も前から出かけているが、もうすぐ帰ってくるということがライズにはわかっていたからだ。


 それからもう一つ。シノンが彼らと仲良く話している将来を期待したからである。


 シノンが将来本当に仲良くなれないような相手ならば、たとえ相手がカルナであろうと声は出さず反応は相づちだけである。しかも今回はカルナと一緒に自分の正体を明かしている。


 珍しく出会って早々彼らを信頼しているようだ。


「………なんでそんなに楽しそうなんですか」

「ええー?いやー?」

「おいっお前もかよ」

「珍しいなーと思ってさーえへへー」


 気づけば、シノンの腕にカルナが抱きついていた。しかも、満面の笑みで。

 それに少しアルファが反応するが、彼らが出している雰囲気で察して口を噤んだ。





 ――――――――――――――――――――――





 外から聞こえる金属同士がぶつかるような音で、アルファは目を覚ました。隣の寝台ではアリュスフィアが熟睡していたが、彼女もまたその音で目覚めてしまったようだ。


「…………外の様子を見てくるから、お前はここで待っていなさい」

「え、でも、お兄ちゃん……」

「大丈夫。……すぐ戻る」


 アルファは寝台からゆっくりと降りて、息を潜めながら外へ出た。

 するとそこで、アルファは目を見開くことになった。


 激しくぶつかり合っていたその金属音の原因は、外套を纏って戦っていたシノンとカルナであった。

 慌てて止めに入ろうとするが、アルファでは彼らのスピードについていけなかった。


 そこで気づいた。彼らは争っているのではなく、カルナの方がシノンに指南してもらっているということに。そして、感嘆の声を上げる。


 シノンは右手を後ろに回して、左手に握る黒い剣だけで攻防をしていた。対してカルナは両手で魔力を纏った剣を握り、全力でシノンにぶつかっている。


 しばらく、アルファは二人のその戦いを見つめていた。流れるように動くふたりの動きは、高速の舞を舞っているようにも見える。


 やがて、シノンがカルナの剣を弾いたと思ったら、シノンの突いた剣がカルナの首すじにピタリとくっついた。

 シノンがにやりと笑うと、カルナが両手をあげる。


「参りました。あーあ、もうちょっとだったのに」

「何言ってんだ。まだ技術が足りてねーよ」


 シノンがアルファの方に向く。が、すぐに逸らしてしまった。


「あっ、アルファ、おはよう!」

「あ、ああ。おはよう…………………」


 アルファはその時、思った。

 シノンはまるで無愛想であるが、本当はとても優しい性格で、細かいことを気にかけているのだと。


 自分たちに向ける視線があまりに冷たかったので、第一印象は悪かった。しかし、今までカルナやライズ、ゆうきに向けていた視線は温かく、優しいものだった。


 そこで、シノンは単純に人見知りをしているだけなのだと、アルファは気付かされた。

 そう言えば、と、アルファは思い出す。


 集落の長老であるお婆に、聞いたことがあった。


 ―――レイヴァに出会ったら、まずは信頼を得ることが大事さ。裏切りでもない限り、一度絆を結べばその友情を大事にしてくれるからね。その後は付き合いやすいものさ。


 それに、彼らは戦闘能力が高いとも言っていた。シノンとカルナの戦いを見れば、それが事実であることを理解させられる。

 特にシノンに至っては、かなりのスピードを出して戦っていたであろうカルナを左手だけで軽くあしらっていたところからして、彼の実力は計り知れなかった。



 アルファはわかっていた。レイヴァは人見知りで、基本初対面の人とは友好的な態度は取らない。しかし、対してカルナは人懐っこく見える。

 だが、本人は友好的な態度をわざと見せることで、おそらく自分たちの動向を探っているのだろう。その証拠に、わずかな警戒心が垣間見える。


「朝食を食べたら出発だから、戻ろう?」

「あ、ああ。うん」


 三人ははしごを登り、中に入った。アリュスフィアが不安そうな顔で兄を迎えたが、アルファは彼女の頭を撫でながら安心させるように言った。


「シノンとカルナが手合わせをしていただけみたいだ」

「そうだったの。なら良かった」

「ほら、朝食だよ。食べようか」


 ライズの言葉にみんな返事して、それぞれ席について朝食を食べ始めた。

補足


☆属性紹介シリーズ

今日の課題:波属性とは?


シノン『さて、今回は波属性について説明しようか』

カルナ『基本的にはどんな魔法なの?』

シノン『まず例として挙げられるのは、『超音波《ウルトラソニック》』や『反響《エコー》』、『超振動《バイブレーション》』とかだな。基本的には振動に関する魔法だ。ちなみに作者のオリジナル属性だ』

カルナ『へえ。効果は?』

シノン『まあ、『超音波《ウルトラソニック》』は人には聞き取れない小さな音を出して反響させて、物の形や大きさなどを調べたりできる。『反響《エコー》』は『超音波』とは少し違う。何が違うかといえば、人や物の出す声や音を拡声できるということだな。最後に『超震動《バイブレーション》』は、基本は付与魔法だ。要するに、物を振動させる魔法だな』

カルナ『………最後のって、使い道あるの?』

シノン『あるよ。例えばさ、金属――特に剣に付与させるとするじゃん?』

カルナ『うん』

シノン『すると細かく振動するので、切れ味が良くなるわけだ。上手くやれば音も出せるから、楽器を作ることもできるだろうな』

カルナ『へえ、すごい!』

シノン『殺傷能力はほとんどないけど、相手の頭を直接刺激して混乱させることもできる。どちらかと言えば援護やフォローに適している。軽い闇魔法かな。精密なコントロールはできないけど、相手を惑わすことができる。まあ、魔力量によっては致命的なダメージにはなるかな』

カルナ『ああ……また恐ろしい属性だね』

シノン『扱いはそんなに難しいものじゃないから使い手は多いんだけどな。調節も対象を定めるのも、そんなに精密な技術は必要ないから、サポート役の魔法師には特に多い』

カルナ『私にもできるかな?』

シノン『まあ、練習すればな』

カルナ『よし、今度教えて』

シノン『はいはい、わかったよ』

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