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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第2章 森の賢者編
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第32話 いざ、バジリスク退治へ


「はぁ~ぁ…………なぁんであたしがこんな目に……」


 翌朝――――といっても、夜と大して光量の変わらない森の中。

 俺たちの先頭をふらふらと飛んでいるポルトは、後ろから見てもはっきり分かるくらい肩を落とし、深々と溜息を吐いていた。

 俺たちが躓かないように『ヘスダーレン』で足元を照らしつつ、つまり魔術を使いながらの進軍だ。疲れもあるのだろうが、それ以上に、時折こちらを振り返るポルトの顔には、色濃い絶望が刻まれていた。


「なんだよポルト。まだ俺たちのことを信用し切れないのか?」


「信用するとかしないとか、そういう問題じゃないんだってば。アルレッキーノあなた、これから会うのがどんな怪物か知らないのかい?」


「知ってるよ。でかい蛇の化物だろ」


「それだけじゃないよ! 目を合わせたら石になっちまうし、口からは常に毒の息! 牙からはどんな魔物も数滴で殺すと言われる毒液を垂らして、なにより――」


「だから、知ってるって。安心しろよ、大船に乗った気分で任せとけ」


「オーブネ? なんだいそれは、楽器かなにか?」


 いや、それはきっとオーボエだな。


「とにかく! バジリスクはおっそろしい化物なんだ! それを、あなたたちが簡単に倒すとかって言ったって、そんなの信じられる訳が――」


「おいおい、『あなたたち』って、他人事じゃないぞ? お前にも、ばっちり戦ってもらうぜ? ポルト」


「…………は? な、なに言ってるのさ」


「お前の光魔術は、バジリスクを倒す上で必要になる。っつーか、必要としないと、昨日ピクシーの巣に泊まった意味付けができないだろ」


「……い、意味分かんないし。大体! あたしの魔術なんて、こんな風にちょっと、辺りを照らすくらいしか……」


「昨日と言ってることが真逆だなぁ、ポルト。お前は魔術を使える唯一のピクシーで、最強で無敵なんじゃなかったのか?」


「っ……し、仕方ないでしょ! あぁでも言わないと、怖くて足が竦んじゃってたんだから!」


 昨日の過剰なまでの自信は、どうやら自分で自分を鼓舞していた結果だったらしい。

 その所為で墓穴を掘ってんだから、まったく世話のない奴だ。


「はぁ~ぁ……本当、なんでこんな目に遭ってんのかしら。せめてあなたたちがエイセン様と鉢合わせなければ…………いやその前に、エントたちを倒さなきゃよかったのよ……。そうすれば、あたしもこんなことに巻き込まれなかったのに……」


「ありゃエントの方が俺たちを襲ってきたから、応戦したまでだ。責められる謂われはねぇぞ」


「……あのまま食われちまってりゃよかったんだよ。そうすれば――」


「そこまでぐちぐち言うんだったら、あなたもこの森を出ればいいんじゃないの? ポルト」


 と。

 割り込んできたのは、やや語気を尖らせたハサンだった。相変わらず表情の半分は窺い知れないが、目は口程に物を言う、その目は殺気にも似た物騒な気配で鋭くなっていた。

 どうやら、随分お冠のようだ。


「そこまで私たちのことを信じてなくて、バジリスクにも勝てないと思ってるなら、とっととこの森の出口の方に案内してほしいものね。そして、あなたもそのまま森を出ればいい。うだうだ言うくらいなら、その程度の行動は見せてみたら? 昨日といい今日といい、あなたって本当に口先だけね」


「っ……あ、あたしだって、本当はこんな陰気な森、出ていきたいさ! こんな森だけじゃなくって、世界中、いろんなとこを見て回りたいよ! でも……無理なんだ、そんなこと」


 ポルトが振り返り、そのまましゅんと項垂れてしまう。

 こころなしか、身体から発される光も、『ヘスダーレン』による光も弱まっているように見える。魔術とは、イメージの積み重ねでもある。気分の浮き沈みは、魔術に容易く影響を与えてしまう。


「……あたしたちには、エイセン様の定めた掟がある。森を出ていったり、エイセン様の言うことを聞かなかったり……この森に害する者を放っておいたりすることは、許されていないんだ。もし破れば、どんな罰が待ってるか……」


「……エイセンって、実はとんでもなく強いのか? そうは見えなかったが」


「エイセン様自身に戦う力はないさ。けど、エイセン様はこの森に棲む魔物全員の長だ。この森に潜む無数のエントたちに、命令して、行動を操ることができる。森中にエイセン様の魔力が張り巡らされているから、あたしたちの行動は逐一監視されているんだ。例外は、厄介者のバジリスクくらいだよ……」


 ふぅむ、そういう訳か。

 魔物たちも案外、自由などない生活を強いられているらしい。人間と…………あの奴隷村と、大して変わらないな。

 ってか、俺たちがエントに襲われたのも、話を聴く限りエイセンの仕業じゃねぇか? あの野郎、それを隠して抜け抜けと厄介者退治を頼んできた訳か……。


「……気に入らねぇな」


「? アル、どうかしたの? なんか、怖いよ……?」


 おっと、誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが。

 背中にずっと乗っかっているノエルには、些細なことでも筒抜けか。やれやれ、相変わらず敏感なお子様だ。


「んにゃ、なんでもねぇよ。……それにしても、エイセンってのは思った以上の狸親爺だったって訳だ」


「そうね。これじゃ、バジリスクを倒したところで正しい道なんて教えてもらえるかどうか……」


「まぁ、バジリスクが厄介だっていうのは本当なんだろうな。せっかくここまで来ちまったんだし、どうせならそんな狸親爺に、約束を意地でも守らせた方が面白そうじゃねぇか?」


「……それは確かに、そそられるわね」


「? エイセン、嘘吐きだったの?」


「さぁな。けど、嘘吐きにさせないためにゃ、俺たちの行動と成果が必要ってことだ」


 と、その時だった。

 ぶぅぅぅんっ、と耳障りな羽音が、前方から響いてきたのだ。

 ポルトが慌てたように前を照らすと――――飛来してきたのは、大量のインプの群れだった。


「ひっ……! ば、バジリスクの魔力に当てられて、集まってきた奴らだよこいつらは! 元々この森に、インプなんていなかったもん!」


「ふぅん……それにしてもすごい数。今度こそ、巣が近いって証拠かしら」


「あ、あたし、今日は嘘吐いてないもん!」


「はいはい。それじゃ、駆除するわ――」


「いや、いい。俺がやる」


 外套の奥からナイフを取り出したハサンを制し、俺が一歩前に出た。

 蠅みたいな音を響かせ、襲来するインプの群れ。縄張りに近づいた人間に対する、蜂の動きにそれは近かった。

 だが、そうやって不用意に人間に近づいた虫がどうなるか、知ってるか?


「――――『巌の合掌(シュラインバースト)』!」


 目を剥くポルトの、すぐ目の前で。

 インプの群れは一匹残らず、大地でできた手の平に潰された。


 魔力を注ぐのを止めると、インプを潰した手の平はぼろぼろと崩れていき、すぐに小さな土の山に還る。インプの死骸は、一匹分たりとも残っていなかった。きっと叩き潰された蜂同様、即死だったのだろう。魔力に還っていく様は、残念ながら見えなかったが。


「す、すご……!」


「……いいの? アルレッキーノ。あなた、この後バジリスクと戦わなきゃいけないんだし、少しは魔力を温存しておいた方が……」


「いや、逆だ。俺より寧ろ、ハサン、お前の魔力こそ温存しとくべきだ」


「……? どういう――」


「昨日も言っただろ? お前にも協力してもらう。いや、お前の魔術こそ、バジリスクを倒すのに最も必要な要素かもしれないんだ。頼りにしてるぜ、ハサン」


「私の……?」


 ピンとは来てない様子で、ハサンは首を傾げている。

 まぁ、無理もないか。どうやらハサンもポルトも、俺がバジリスクを倒すイメージ自体ができてないみたいだしな。ノエルだけは、俺の勝利を疑いもしていないらしく、おとなしく蓑の中で鼻歌なんか歌っている。


 バジリスクがもし、俺の知っている通りの魔物だとするなら。


 俺の大地を操る魔術では、やや分が悪い。何度シミュレーションしてみても、鍵になるのはやはり、ハサンの魔術なのだ。

 本人がどう思っているか知らないが、ハサンの風の魔術は、非常に有用だ。腐らせておくのは勿体ない。自分のことを『役立たず』呼ばわりして、その力に蓋をしておくのは非常に勿体ない話だ。


 俺にできないことを、ハサンはできる。

 そうやって補い合うことができるのも、仲間の形の一つだろう。


 ――――と。


「っ……なんか、空気が、重い……⁉」


「ば、バジリスクだ……奴が、すぐ近くにいる……!」


「……っ、アル……!」


 前進を進めていた俺たちの脚が、急に止まった。

 と同時に感じたのは、全身を上から押さえつけられるような――――強大な魔力。


 自らを弱者と標榜するハサンや、力の弱いポルトは鋭敏にそれを感じ取り、苦しげに腰を曲げてしまっている。ノエルも、俺の身体を一層強く抱き締めていた。


 ポルトが震える腕で、辛うじて前方を照らし出す。

 そこにあったのは、石化して地面に転がる、無数のインプの死骸。


 そして――


「っ…………ば、バジリスク……‼」


 目を閉じ、しかしながら開いた口からは涎と、毒々しい色の液体を垂らしている。

 巨大な蛇の頭が――――バジリスクが、こちらを向いて佇んでいた。


 いよいよバジリスク討伐へ――――!

 次回更新は明日の22時頃! お楽しみに!

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