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私は翌日、右斜め前に座っている遠野優芽のことを何とはなしに見つめていた。
後姿からもなんだかオーラのようなものを感じる。改めて可愛い子は違うな、なんて感じる。
私は授業中も彼女から視線を逸らすことが出来ない。一つ一つの仕草が目に付いてしまう。見れば見るほど彼女の新たな面を発見することが出来る。まあそれはそうか。今まで彼女のことを何も知らなかったのだから。
「じゃあ、二人組みを作ってこのテーマについて話し合ってください」
「……あ」
授業中、突然教師がそんなことを言ってきた。さてどうするか。私が仲の良い友達はもう二人組みを作ってしまっている。完全に出遅れてしまっていた。
「――ねえ、秦野さんいい?」
「えっ。わ!」
私は思わず声を上げてしまった。目の前に遠野優芽の顔があった。
「私とじゃ話し合うのいや?」
「え、いや……じゃないけど」
「そっか。じゃあ私とやろ?」
「え、うん」
私はしどろもどろになりながら返事を返す。私が頷くと彼女はにこっと微笑みを浮かべる。可愛い笑顔だ。しかし、どうして私なのだろうか。わからない。
「ねえ、秦野さん今日は暇?」
「え、予定はないけど」
「じゃあさー放課後ファミレスでもいかない?」
「え、えと、うん」
授業が終わろうかというタイミングで彼女は唐突にそんなことを言ってきた。私はますます訳がわからなくなる。今まで接点がほとんどなかったのに、授業で二人組みを作るどころか放課後にファミレスに誘うなんて。本当にこれはどういったことだろうか。
私はさすがにどういうことか訊ねようとしたが、遠野優芽はもう一度笑みを浮かべ友達のところに行ってしまった。
「ごめんね、いきなり誘ったりなんて」
「えっと、うん」
ファミレスでジュースを飲みながら彼女は言う。その仕草に見とれてしまい私はうわごとを返す。なんでこんな当たり前の仕草がいちいち目に付くのだ。私は昨日からおかしくなっている。
「……でさー、私秦野さんに訊きたいことあるんだ」
「あ、うん。何?」
私はなんだろうと思い遠野優芽の顔を見つめ、思わず止まった。彼女は笑みをうかべていた。しかし、その笑みはいつも浮かべている笑みではなかった。それはなんというか相手を突き刺すような笑みだ。
「――今日私のこと見てたでしょ?」
「え、いや、その」
その表情のまま冷たい言葉を私に投げつける。私は遠野優芽が分からなくなった。これは、どういうことだ。
「私さ、結構いろんな人に見られてるのって結構気づくんだよね。ねえ、なんで私のこと見てたの?」
「あ、その、あの……」
「ねえ、頭に栄養行ってるの? その大きなおっぱいに栄養全部行っちゃってるのかな?」
「え、お」
「おっぱいだよ。おっぱい。しかし、秦野さんのおっぱいはほんとにおっきいねー。すごーい」
私は自分の耳を疑った。これは夢だろうか。まさかあのふわっとした雰囲気で学校でも男子生徒にモテモテな遠野優芽がそんな言葉を口にするなんて。私の中で遠野優芽に対するイメージが完全に崩れ落ちた。
固まってしまっている私に対して遠野優芽はそっと口を開く。