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「なんてね、嘘だよ」
「へ?」
「秦野さんビクビクしすぎだよー」
私はもうどう反応したらいいのかわからなかった。そんな私をみて遠野優芽は笑っている。そこには先ほどの人を突き刺すような感じはなく、またいつも浮かべているふわっとした感じもなかった。
「ごめんね、いじわるしすぎちゃったね」
「あ、その」
彼女はひとしきり笑うと私に謝ってくる。
「ほんとはね、ちょっとだけからかうつもりだったんだけど、あまりに秦野さんの反応が面白くてさ」
彼女の笑みは人懐っこさを感じる。なんだか普通の友達と話しているような感じである。
「えっと、遠野さん」
「驚いた?」
「うん…………」
「だよねー、今までこんな姿誰にも見せなかったし」
「なんで、こんなこと」
私はもう短い返事しか返せなかった。遠野優芽の変化について行けない。
「あ、秦野さんジュース無いじゃん。これあげるよ」
彼女は私のコップが空になっていることに気づき、自分の飲んでいたコップを私に差し出した。私は先ほどから喉がカラカラに乾いていたので感謝して飲んで、それから彼女が口を付けたものだと気付いた。思わず顔が赤くなってしまう。
「あー可愛いなほんと。またからかいたくなっちゃう」
そんな反応をみて彼女はまた笑う。
「ほんとはね、私も普通の女子高生みたいに友達と笑い合ったり、男の子と付き合ったりしたいんだよー?」
「――そうなんだ」
私が落ち着いたのを確認して、彼女は話し始めた。私はやっと落ち着いたはずなのに、なぜか心がざわついているのを感じた。
「でもさー、イメージってあるじゃん? この子がこんなこと言ったりやったりするはずがない……みたいな」
「そうだね、私も驚いた」
「うん。私もさ、気づいたらなんかそんな感じになっちゃって。だからみんなが持っているイメージのまま男の子と付き合っても、たぶんつまんないと思うし。それに男の子だってこんな姿の私をみてもがっかりするだけだとおもうしさ」
「……それは、わかんないけど」
「まあ、大学に行ったらさすがにやめようと思うけどね。でも、あと二年は誰にもこの姿を見せるつもりはないよ」
私はさらに心がざわつくのを感じた。この気持ちは、なんだろう。
「だから、この姿を知ってるのは秦野さんだけだよ?」
「なんで、これまで接点無かった私なんかにその秘密を打ち明けたの?」
私の口が勝手に話し出す。よくわからなくなってきた。
「んーなんでかって言うとね、私もわからないんだよね。今日なんかいつもと違う視線を感じるなーなんて思って見てみたら、秦野さんが私のことじっと見つめてるし。なんかさ、私もそれを見て秦野さんのことからかいたくなっちゃって。これで、今に至る。みたいな? ははは、ごめんね答えになってないよね」
「そうなんだ」
わからないのは私の方だ。
「まあでも、由香ちゃんなら私のこと誰にも言わないとおもうし」
ドキっとした。彼女の口から私の名前が――しかもちゃん付けで呼ばれた。
「あ、名前で呼ばれるの嫌だった?」
「えっと……いや、じゃないかな」
「じゃあさ、私のことも名前で呼んでよー」
「うん、ゆめ、ちゃん」
「うん!」
私が彼女の名前――優芽ちゃんと呼ぶと満面の笑みを浮かべられた。
「あ、そういえば今日私用事あったんだった。ごめんね、これ私の携帯の番号」
私が茫然としていると、急に優芽ちゃんが申し訳なさそうに謝ってきた。
「もう行かなくちゃ。ごめんね、またどっか行こうね!」
優芽ちゃんは私の返事を聴きもせずバタバタと店を出て行った。そこに呑みかけのジュースを残して。
『今日はごめん、あとありがとね。私のこと優芽ちゃんって呼ぶの由香ちゃんだけだよ?』
画面に浮かんだ文字を見て私はニヤニヤが止まらない。
もう、気づいていた。自分の気持ちに。
これは――恋だ。
私は、遠野優芽のことが好きだ。




