ドラゴンに会う
俺たちが、明日の準備をしていると、村の人々が次から次へと顔を出した。
「これを食べてください。」
「これを使ってください。」
村人からいろいろと貰った物を床の上に置いていったら、おれたちのテントは狭いので、食べ物などの貰ったもので、あふれかえってしまい、置く場所が無くなってしまった。
「ここの村人はいい人が多いのね。」
ネロが食べ物を見て呟いた。
「ああ、本当だな。こんなにされると、何とかしてあげたいね。」
「そうね。出来る限り頑張りましょう。」
ミラも村人の優しさに心を打たれている。
「ねぇ。ユーちゃん。これ。」
なんかサラが見つけたみたいだ。
「ん、なんだ。この赤く光る勾玉みたいなものは?」
「さぁ~。解らないわ。村人が置いて行った物の中にあったの。」
「ちょっと気になるし、これは俺が預かるよ。」
そう言って魔法の袋にしまった。
「せっかくだから食べようよ。」
ネロは待ちきれないらしい。
俺たちは村人から頂いた食事を食べ明日に備えて眠った。
魔物の叫び声は夜中も時折していて、うるさかった。
今は、魔物がいるであろう山の前まで来ている。
結構、距離があったが村からここまで歩いて来た。
村長の言う通り、ここまで来る間、本当に魔物の姿は無かった。
「グォーーーー」
魔物の声は相変わらず、聞こえている。
だが、声を発する間隔が短くなっているようだ。
「ユーちゃん。さすがに怖くなってきたわ。この声を近くで聞くと山に入りたくないわね。」
サラは、魔物の叫び声があまりにも大きいので心配している。
この山には入り口がある。
たぶん大昔に作られたものだろう。ドラゴンを祭るために。
「ネロの感じだと、どう思う?」
俺は聞いた。
「ユート君、これは居るわね。それも相当強い魔物。」
「やっぱり。」
俺は賛同した。
「ユート。慎重に行きましょう。」
ミラも感じている。この声の主の強大さを。
「いいか。この声の主が確認できたら、速攻で逃げるからな。」
「わかったわ。」
3人は頷いた。
「行くよ。」
そう言って俺たちは山に入っていった。
しばらくすると、岩肌に丸く開いた洞窟があり、その中から声が聞こえるようだ。
「入るぞ。」
俺たちは大きな音をたてないように慎重に入った。
中は薄暗く、ゆっくりと上に登って行く階段がある。
壁が光っていないのでダンジョンではないみたいだ。
「ファイヤー」
俺は小さい火を出した。
火の光で先が少し見えるようになった。
その通路は1本道になっており、奥に続いていた。
「ユート。声がしなくなったわね。」
「ああ」
「ちょっとユーちゃん。大丈夫?」
「わからないよ。でも進まないとどうしようもないし。行くよ。」
俺たちは恐る恐るどんどん階段を進んだ。
すると、通路の先に大きな扉がある。
しかも、紋章みたいな模様が施されていて、誰かが作ったようだ。
いかにもこの中に魔物がいるとわかる。
「絶対にこの中にいるぞ。これ。どうする?」
俺は、みんなに聞いた。
しかし、3人とも無言だ。
そりゃそうだろう。扉の奥に相当強い魔物がいると解るぐらい魔物のプレッシャーが扉から発している。
俺が開けるかどうか迷っていると、魔法の袋が反応した。
ん?!
サラが見つけた赤い勾玉だ。
俺は、魔法の袋から勾玉を取り出した。
「ユート。扉が開きだしたわよ。」
ミラが焦ったように言った。
「どうしてだ。ミラが開けたのか?」
「そんなことするわけないでしょ。」
「ユーちゃん。手に持っている物は何? 光っているわよ。」
「何って?」
おれは赤い勾玉を確認すると、赤く点滅している。
やばい。これか原因は。
「扉が開くわよ。備えて。」
ネロが警告を出した。
俺たちは後には引けなくなり、剣を構えた。
そこには、赤いドラゴンが居た。扉の中の中央に、天井から光が差し込んで、ドラゴンを照らしている。
「やばい、すぐに逃げるぞ。」
俺は、3人に指示を出した。
「よく、来てくれた。」
なんだ。この声は。俺は立ち止まった。
「ユートどうしたの? 早く逃げるわよ。」
ミラが心配している。
俺が止まったのを見て、ネロもサラも逃げる足を止めた。
「私は、ドラゴン族のレッドドラゴン。あなたたちにお願いがあります。」
「ちょっと待って、みんな。なんか、ドラゴンが俺に話かけて来た。」
「ユーちゃん。ちょっと、どういうこと? 私には聞こえないよ。」
サラが俺に聞いて来た。
「たぶん、俺の脳に直接、語りかけている。」
「ユート君の持っている赤い石がさっきからずうっと光ぱなしよ。」
ネロが指摘した。
「あ、本当だ。たぶんこれを通してだな。」
俺は納得した。
「もう時間が無い。いいから、良く聞いて。」
なにやらドラゴンは急いでいるようだ。
「ちょっと待って。」
俺はドラゴンの話を遮り、みんなを呼び、赤い勾玉を触らした。
「いい?良く聞いて。私はこれから転生します。
その間、この卵を守ってくださいい。」
ドラゴンは卵を守るように身を丸めている。
「何から守るんだ。」
俺は、レッドドラゴンに聞いた。
「私を殺そうとしている魔族から。」
「魔族?」
ミラが聞き返した。
「必ず守りなさい。でないと、魔族に支配されてこの世界は滅びるわよ。」
「ちょっと待ってよ。なんで俺たちが。
それに俺たちでなんとかなるのか?」
「さあ、わからないわ。でも、守れなかったら、私も死ぬし、貴方達もこの世界も全部死ぬわ。
それじゃあよろしくね。」
「おい、ちょっと待て、まだ聞きたいことが一杯あるぞ。」
俺は叫んだ。
でも返答はない。
「ちょっと、どうするユート?」
「ユーちゃん、魔族って言っていたわね。」
「ユート君、私たち魔族と戦うの?」
さすがの俺たちもこの急展開にはついて行けない。
目の前では、レッドドラゴンは死んでいるように静かだ。
赤い勾玉も光っていない。
「あははは、やっとレッドドラゴンが転生したか。この時を待っていたのだ。」
話し声がした方向を見ると、俺たちが入って来た通路から、黒い服と深く帽子をかぶった男が、一人歩いて来た。
俺たちは剣を構えた。
「ん、お前たちは何だ。人間か。いや、違うのも混ざっているな。」
「お前は、魔族か?!」
俺は黒い男に聞いた。
「だったらどうする?」
黒い男の目が吊り上った。
「やるしかなさそうね。」
ミラがつぶやいた。
「ええ、戦うわよ。全力で。」
ネロも覚悟を決めた。
「ユーちゃん。4人で戦えばどうにかなるでしょ。」
「あははは、いでよ。我が下部たちよ。」
黒い男が、俺たちの会話を聞いていたのか、3体のスケルトンを召喚した。
「行け、ジェネラルたちよ。」
そのスケルトンたちは、鎧と剣を纏っており、普通のスケルトンより位がだいぶ上に感じた。
しかも、黒いオーラが体を纏っている。
「ミラ·サラ、行くわよ。ユート君はあの魔族をお願い。」
ネロが指示を出し、3人はスケルトンに向かって走り出した。
「おい、ちょっと待って。」
俺は3人を止めようとしたが、既に、3人とスケルトンの戦いが始まってしまった。
「いいのですか? 助けなくても?」
黒い男は俺に聞いて来た。
「お前の目的は何だ?」
「あははは~。もちろんその卵だよ。俺の邪魔をするな。」
「そんな簡単には渡さないぞ。俺たちもドラゴンにいろいろ聞きたいことがあるしな。」
「いいだろう。素直に渡さないつもりなら、こいつらがどうな
も知らないぞ。」
黒い男に言わわれ、俺は、女性陣3人を見た。
3人とも怪我を負っていて、既に倒れているではないか。
ちょっと待てよ。
最初は問題ないように見えたのに、ちょっと目を離したらこの状況か。
「いいんだよ。攻撃してきて。」
黒い男は俺を挑発してきた。
俺の目は、黒い男を睨み、かまいたちを放った。
「あははは~。効かないな~。」
かまいたちは黒い男に近づくと、すべて消え去った。
「じゃあ、これならどうだ。」
俺は、ファイヤーを唱え特大の火の玉を放った。
だが、黒い男に火の玉が近づくにつれ、だんだんと小さくなり、しまいには消えてしまった。
「どうした。もうおしまいか?」
黒い男は、俺をこんなものかって、言う目で見ている。
マジか。俺の魔法が全然効かない。どうする。あれしかないか。
必殺技。
俺は、右手に風を集めて白いボールを作った。
「これでもくらえーー。」
俺は、黒い男に近づき、顔面に向けて繰り出した。
黒い男は、その白いボールを左手で受けた。
俺の必殺技を受け止めた黒い男の手は、その衝撃と風で肩から下の腕が吹き飛んだ。
「おお~、これはなかなかいい攻撃だったぞ。」
そう言いながら、黒い男は残った右手で、斜め上から俺の顔面を殴り付けた。
俺は、殴られた勢いで、地面に顔面を強打した。
あががが。
黒い男の一発が強力過ぎて、一月瞬意識が飛んだ。
体が動けない。
「バカが、人間がおれら魔族にかなう訳がないんだよ。
しかし、むかつくな。俺の腕を吹き飛ばしやがって。あはは。いいことを思いついた。」
「パチン」
と黒い男は指を鳴らすと、2体のスケルトンが倒れている俺に近づき、俺の腕を持って俺を立たせた。
「この高貴な私の腕を消すなんて、許さないよ。」
そう言って、黒い男は、何やら呪文を唱えて、俺が吹っ飛ばした腕を再生させた。
「別に腕はすぐに治るけどね。だけど俺のプライドが許さないね。お前は簡単に殺さないよ。まずは女からだ。」
そう黒い男が言うと、もう一体のスケルトンが、ネロの頭をわしづかみにして立たせ、俺の方に向けた。
「いひひひ。こいつは綺麗な女だな。まずはこいつだ。」
そう言って黒い男は懐から剣を出した。
黒い男はネロの顔を、おでこから頬にかけて切り付けた。
「やめろ~。」
俺は大声で叫んだ。
俺はスケルトンの包囲から抜け出そうともがくが、スケルトンの力が強くて全然動けない。
「あははは~。いいね~。その絶望的な顔。たまらないね。あと2人いるし、こいつはとりあえず殺しちゃおう。」
「やめろ~。」
その時、ハクが飛び出してきた。
黒い男に体当たりを試みたが、躱されてしまった。
「ん、ホワイトウルフか。まだまだ小さいな。もっと大きく
なってから相手にしてやるよ。」
そう言って、黒い男は、手から衝撃波のようなものを出して、ハクを吹っ飛ばした。
「キャイ~ン」
「ハク~!」
俺は叫んだ。
「飛んだ邪魔が入ったが、バイバイ。」
そう言って黒い男はネロの胸に剣を突いた。
「ぐほっ」
ネロは口から血を吐いた。
ネロを掴んでいるスケルトンはそのまま、ネロをゴミの様に放り投げた。
「ぜって~ゆるさね~。殺してやる。」
俺は、憎悪に身を委ねた。
「俺をどうするの? 殺すの? 無理だね。お前は弱い。あと2人。お前の大切な人間が殺されるところをよ~く見ていろ。その次は、絶望的になっているお前の番だ。あははは~笑える。じゃあ次。」
今度はスケルトンがミラの頭をわしづかみにして俺の方に向けた。
その時
「力が欲いか。・・・」
誰だ!
「 力が欲しいか。・・・」
俺の脳に直接語りかけてくる。
こんな時に誰だと思ったが、状況が緊迫しており、今の俺ではこのままだとミラとサラも失ってしまうと思い、俺は、力を受け入れることにした。
お願いだ。力をくれ!。
「わかった。・・・」
そこから俺の意識が無くなった。




