エルフの村を出る
次の日、俺たちは、っていうか、俺とネロとミラと特にハクは、エルフの村を早く出たかった。
なぜならば、肉が食べられないから。
たぶん、一か月はろくに肉を食べていない。
保存食の干し肉が少しあったから、みんなで分けてちびちび食べていたけど、
逆にそんなことをしていたから余計に腹いっぱい食べたくなった。
サラは慣れているから問題ないみたいだけど。
「それでは、みなさん。さようなら~」
「さようなら~」
「わんわん」
「ちょっと待ちなされ、もう行ってしまうのかい?」
村長は俺たちを止めた。
「はい、もっとここにいたいのですが、急ぎの用事がありまして。
しかも友達との約束もありますから、帰ります。」
俺は、村長に言い訳をした。
「そうですか。この度は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。
ミラも元気でな。
そうそう。これはエルフの森で取れる回復の実じゃ。お持ち下され。」
「え、それって!」
サラが驚いている。
「いいんじゃ。いいんじゃ。わしからの手土産じゃ。」
そう言って村長は俺に小袋を渡した。
俺は有り難く頂き、その実が入っている小袋をしまった。
「いろいろもらって、すみません。サラの故郷なので、また、遊びに来ます。その時はよろしくお願いします。」
「ああ。またおいで下さい。歓迎したます。」
そうして、俺たちは、エルフの村を後にした。
エルフの村を出たが、サラは嬉しそうだ。
「サラ。ちゃんとお父さんと話しをしたのか?」
「うん。」
とだけ言ったが、とてもうれしそうだ。
話した内容は教えてくれなかったけど。
ま、いいけど。サラが嬉しそうだから。
そう思いながら赤オーガの村を目指している。
「もうすぐ、洞窟よ。」
「え~」
正直、あのデカいホワイトウルフには会いたくない。
あんな怖い思いはもうしたくない。
「大丈夫よ。ユーちゃん。」
サラが俺を安心させようと励ましている。
「ユート君、怖いんでしょ。」
「怖くないよ。何言っているの。ネロ。」
「あ、絶対、怖いんだわ。ユート。」
ネロとミラに見透かされた。
なんか3人と1匹に負けてから、俺の立ち位置が低くなっているような気がする。
女って強いね。
「何言っているの。行くぞ。」
そう言って俺は強がり、一人で洞窟に入って行った。
しばらくするとホワイトウルフがいる広場に出そうだった。
あ、そう言えば、エルフが居ないと通れないんだっけ。
やばい。
一人じゃいけない。サラは?
そう思って振り向いたが、誰もいない。
なんか、広場で白い物体が動いたような気がした。
「うわ~」
俺は怖くなって、来た道を全力で走って戻った。
「サラ~」
俺は、サラを見つけてほっとした。
「なんでお前ら付いてこないんだよ。」
「だって、ユートが先に行くから、どうなるかな~と思って、様子を見ていた。」
そんなことを言ってくるミラ。
「なんだよ~。行くぞ。」
そう言って俺は、先に進んだが、女3人とハクは着いて来る気配が無い。
俺が振り返ると、3人と1匹はクスクスと笑っている。
「なんだよ~。そうやって俺をコケにしやがって、もういい。帰る。」
そう言って俺は、洞窟を出るために、来た道を戻るためにエルフの村の方に歩き出した。
「ちょっと待って。ごねんね。ユーちゃん。」
「ユート君ごめんね。」
「ユート。悪かったわよ。」
3人で謝って来た。
俺も大人だから、この場は許すけど。
この前のダンジョンの件といい、今回といい、命の危険があることだから、シャレになんない。
絶対やり返してやる。そう誓った。
それから、ホワイトウルフの場所は何事もなく通過した。
「ふ~。やっと出れたね。」
ミラが洞窟の先にある光が差し込んでいる出口を見て言った。
洞窟を出て、岩場を歩いていると。
「ねえ、見て。」
サラは、弓を構えて、空を飛んでいるワイバーンに標準を定めた。
なんか、最初の時より弦と矢の光が強いような。
あ、「ちょっと待っ」
俺は止めようとしたが、既に矢が放たれてしまった。
サラの魔力で強化された矢。
その矢は、正確にワイバーンの頭を貫通し、その上を旋回しているファルコンの数メートル横を通り過ぎた。
もちろんファルコンに気づかれ、ファルコンは俺たちを睨んだ。
その目を見た瞬間、俺は悪寒に襲われた。
「まずい。みんな一旦、洞窟に戻るぞ。」
俺は叫んだ。ファルコンは俺たちに向かって飛んで来ている。
「まずい。逃げるぞ。早く。」
俺たちは、洞窟に戻り、物陰からファルコンの様子を伺った。
ファルコンは、先ほどサラが地面に撃ち落としたワイバーンを足の爪で掴み、上空へ再び飛び立っていった。
「はぁ~。良かった。俺たちのことを敵とみなされなくて。」
女性陣3人も頭が蒼い。
「おい、サラ。なんてことするんだ!」
俺はサラを怒りつけた。
「ユーちゃんごめんなさい。まさかあんなことになるなんて。」
「許してあげなよ。サラは、魔法の弓を使ってみたかっただけだから。」
とミラはサラをかばった。
そりゃ~、弓を持っていたら撃ちたくなるよな。
ピストルみたいに。
でも、それをやったら、虐待だし、猟奇殺人だ。
こんなことは絶対に良くない。
「サラ、俺は無益な殺生は嫌いだ。人間が困っているとか、食料にするとか自分自身が襲われそうになったとか、
理由がある場合はいいが、自己満足の為に生き物を殺すな。
守れないようだったら、俺はお前らとは一緒に行動しない。ネロもミラもだからな。」
「ユート、ダンジョンは?」
ミラが聞いて来た。
「ダンジョン内はいい。ダンジョン内の魔物は殺してもダンジョンに吸収され、また、ダンジョンから復活する。
しかも、ダンジョンは討伐しないと、ダンジョンから魔物が出て来たら大変なことになるからな。」
「ということは、ダンジョン以外は無益な殺生は、理由が無い限りしないということ?」
ネロが確認してくる。
「そうだ。」
「私は、ユート君の指示に従う。」
ネロは素直に俺の言うことを聞いてくれる。
「ユート。もちろん私は、ユートが考えていることに賛成よ。
今回のサラは、ちょっと間違っただけだと思うわ。許してあげて。」
ミラはサラをかばっている。
「ユーちゃんごめんなさい。魔法の弓を手に入れて、嬉しくてついやってしまったの。反省しています。だから見捨てないで。」
サラは涙目になっている。
「別に今後、同じようなことをしなければ、問題ない。」
「ありがとう。ユーちゃん。」
「でもさ、本当に今回は危なかったよ。ファルコンに襲われていたら全滅していたな。ワイバーンを持って行ってくれてよかったよ。」
「そうね。私たちある程度、強くなったけど、上には上がいるね。」
ミラが納得したように話した。
「ファルコンもワイバーンを食べているみたいだし、今のうちに森に入るぞ。」
そう言って俺たちは、びくびくしながら森を目指した。




