本格的なオークの駆除が始まる
次の日、朝から武器が入っている小屋にいた。
「ここにあるものは自由に使ってください。」
孫娘のリンが言った。
「それでは、普通の剣を6本と短剣が2本、あとはタオルを数枚いただいてよろしいですか。」
「それだけでよろしいのですか?」
リンが少し驚いている。
「ああ、ネロは何かある?」
「剣は3本づつあるんでしょ。それならこれで十分でしょ。」
「そういうことですので、あとは食料と着替えを私とネロの分を1セットください。」
「わかりました。あそこに台車と食料1週間分、それと着替えは既に用意してあります。それをお持ちください。」
「はい。ありがとうございます。」
「それで、食料が切れたら戻ってきてください。戻ってきたら討伐は終わりです。そこで精算になります。」
「了解です。」
「それではお気をつけて。」
リンと別れた。
遠くから村長も見守っている。それを感じながら北の少し開けた場所を目指した。
しばらくすると森を抜け、少し開けたところ、広場に着いた。
ここを見つけるまで結構な距離を歩いた。
たぶん3kmぐらい。
台車を一緒に運んでいるので結構つらかった。
だって、道が平坦じゃなかったから。
台車を運ぶのにかなりの体力が削られた。
「ユート君、大丈夫?」
「ああ、かなりきつかった。」
「出来そう?」
「ちょっと休憩すれは何とかなるだろう。」
「で、どうやって討伐するの?」
「最初はネロがオークを倒す。
それで、ネロが問題なかったら、
順番でここにオークを引き寄せてやっつけて行く。
あんまりそこら中にオークの死体があるの嫌でしょ。
それに環境もかなり悪くなるし、病気も気になるし。」
「そうだね。そうしよう。」
台車は近くに大きな木があり、その下がちょうど空洞になっているのでそこに隠した。
「それじゃ~、一匹目、行きますか。」
「やっぱりやだな~」
まだそんなことを言っているネロに
「アイス食べたくないのかな~、しかも村長にやっぱりおまえらじゃ無理だったね。と笑われてもいいのかな~」
「アイスは食べたいし。村長に笑われるのも嫌だ。」
「うん。頑張ろう。これは、たぶん短期集中で行かないと精神がだめになる感じだな。一人25匹、3日で終わらすぞ。」
「お~」
そう言ってオークの匂いがする方に歩いて行った。
「おい、ネロ。」
俺は、ネロに伝えた。
案外、簡単にオークは見つかった。広場から近いところで。
「よし、とりあえず俺が囮になるから、広場に着いたら、ネロが仕留めてくれ。」
「わかったわ。」
「なるべく返り皿を浴びないように首をすぱっと行くんだぞ。」
「了解。」
そうして俺は
「うお~」
とわざと気づかれるように大声を出して近づいた。
オークは俺に気が付いて走って襲いかかってきた。
俺は振り返り、広場に向かって走って逃げた。
ネロは俺の前を走っている。
俺が広場に到着して、広場の中央に出たころ、後ろからオークが森を抜けて出てきた。
オークが中央の方まで進むと、
「スパーン」
とオークの首が飛んだ。
ネロは木陰に隠れていて、オークの後ろから綺麗に首を切ったのだ。
オークはそのまま、ひざを地面に付け、前かがみに倒れた。
「な、一撃かよ。」
ネロはどうよって顔で俺を見ている。
ひょっとしてネロって俺より強くね。そう思いながら
「じゃあ今度はネロがオーク連れて来て、俺ここで待っているから。」
「わかったわ。」
そうしてネロはさっきとは反対方向の森に走って行った。
ネロは剣術でも習っていたのかな。
オークを一撃って、
この前、ゴブリンを俺と同じ速さで瞬殺していたからある程度は出来ると思っていたが。
ここまでとは。
既にここいら一帯、
さっき駆除したオークの匂いが立ち込めている。
しばらく待っていると森からネロが駆け出してきた。
「おまたせ~」
そんな言葉を投げかけてきた。
オークを待っているとなんと2匹も
連れて来ているではないか。
「ネロ、なんで2匹なんだよ。」
「だって一匹ずつって言われてないし、近くにもう一匹いたから丁度いいかなあと思って。」
「まったくもう」
そう言いながら俺は構えた。剣ではなく、右腕を。
「なにしているの?ユート君。」
ネロが心配そうに叫んだ。
俺は、人差し指と中指の2本を立てて肩の上から右から左にさっさっと2回振った。
オークは立ち止まり、しばらくすると首筋に1本の赤い線が入り、頭がぼってっと落ち、
それにつられて、体も地面に倒れた。
もちろんもう一匹も同じ状態だ。
「あんた、今、なにしたの!」
ビックリしたのか、ネロにあんた呼ばわりされている。
「あれ、魔法だよ。」
「普通は出来ないわよ。」
「そうなの?」
「そうよ・・・」
「別にいいじゃん。ネロだってクリーンとかしてるし。」
「そりゃ~そうだけど。」
「じゃあ2人の秘密ってことで。」
「もう簡単にまとめるんだから~。
でもさ、ずるくない?遠距離魔法って。汚れないじゃん」
「あ、ばれたあ。あははは~。
いいじゃん、ネロだっでスパッとオーク倒してたじゃん。
汚れないで。」
「そりゃ~そうだけど。」
「もしかして、前みたいに返り血浴びると思ってたんでしょ。
しかもわざと2体も連れて来て。」
ネロは、首をプルプルと横に振っている。
絶対に図星だ。
「悲し~な。ネロが俺を陥れようとしてるなんて」
下を向いてわざと頭の上の方から棒線が並んでさびしい漫画風の情景にしてみた。
その言葉と態度を見て、焦ったのか、
「ごめんなさ~い。もう試したりしません。ゆるしてください。何でもしますから。」
「何でも?」
ネロは、まさか私を襲うつもりかな。それだったら喜んでと思った。
「う~ん。いいわ、なんでもする。」
俺はニヤッとした。
ネロはなぜだか胸を隠してちょっと引いている。
「じゃあ、今回、ネロのLV上げね。」
「え、え~! !、やだよそんなの。」
「だめ。何でも俺の言うこと聞くって言ったじゃん。」
「そんな~許してよ。」
「だめだめ、この前、LV6って言っていたから。
低すぎる。これから冒険するのにLV10は欲しい。」
「じゃあ、これからもユートの冒険について行っていい?」
「それは・・・ネロが付いてきたいなら別にいいけど。」
「やったー!!頑張るわ。私」
そうしてこれから、本格的な駆除が始まった。
もちろんクリーンの魔法はなしだ。
基本、ネロが広場に居て、俺がオークを釣ってくる。
数は多くて3体。
それ以上は一旦オークから離なれて、
連れてきたオークをやっつけてからまた探し出して連れてきて、やっつけた。
途中、子どものオークがいて可愛かったので俺が止めを指した。
たぶんネロでは無理と判断して。
不思議だったのは、オークの子供は臭いがそんなにしなかった。
コプリンもたまにオークと一緒に居たがそれも速やかに俺が処理した。
その他の単独のゴブリンは無視した。
もちろん、俺が、オークを連れてくるまで待っている間に、オークの鼻を切るのはネロの役目だ。
何だかんだで、3日間かかり40匹ぐらいは倒したと思う。
俺なんか、かなり走りまわったよ。
まあ、オークの動きが遅いから、見つけた後、
広場に連れて行く道中の方が休憩する時間だったけど。
村を中心として、オークを取り残さないようにスパイラル状に走って広めて行き、
たぶん村から半径10kmは走ったと思うよ。
一体、3日間で走った距離ってどんだけよ。考えたくもない。
ネロは俺を睨み付けている。
「ユート君の鬼、悪魔、変態」
俺の顔を見ると同じことを何度も言ってくる。
そうりゃぁそうだろう。広場に一人で置いてかれて、40体のオークの死体とほぼ3日間、一緒にいる。
臭いもすっげー強烈。
剣も切れなくなって交換していたけど、
毎回スパッと行くことは無く、
それに、強い個体も数体いた。
だから、ネロは血だらけになっている顔も髪もほぼ全身すべて返り血だ。怪我は一切切していない。
俺は、見た目は綺麗だ。
でもさすがに強烈な臭が体中にしみ込んでいる。
「これだけやればもういいだろう。小さいのも含めて全部で46体だな。おつかれ~ネロ。」
「ふ~終わった。これでアイスが食べられるのね。アイスのために頑張ったわ。」
「ああ、ラサールの町に戻ったら食べさせてあげるよ。とりあえず、川に行って着替えるか?」
「うん。そうね、この格好すごすぎるわ。」
と言ってネロは俺に抱き付いてきた。
「うあ~、やめろ~」
「ユート君だけが綺麗なんて許さないわ。」
「誰か助けてくれ~」・・・・




