74話 海の魔獣
海上から何本かのうねうねした生き物が顔を出している。あの感じはこちらに気が付いている。大事なことは、私たちを攻撃してくるか来ないかだ。
「マリンさん。あれって魔獣ですよね」
「そうよ。そんなこと言ってないで逃げるわよ」
「え?襲ってきているんですかあれ?」
「いいから早くしなさい!!!」
マリンに急かされて陸の方に走り出す。私はすぐに浜辺を抜け出して木の後ろまでたどり着く。しかしマリンは砂に足を取られて遅い足がいつもにも増して遅くなっている。
海のほうを見ると小さいように感じられた海の魔獣は既に海岸まで迫っていた。
その姿はまるで蛇のような体に青い色を塗った感じだ。背中には透き通ったヒレがあり、尖った口からは大量の水が準備されている。
とっさに地面に伏せて魔獣からの攻撃をやり過ごす。目の前にあった木は真っ二つに割れており、当たっていたら頭が吹っ飛んでいたであろう。
それよりもあいつ等が水を纏って陸に上がってきたのだが、これは普通なのか?
「マリンさん!これ、どうすればいいんですか!」
「戦うしかないわよ!水魔法は私が防ぐから隙を見て火魔法で攻撃して!」
私はマリンの後ろにぴったりとくっ付き相手の水魔法が当たらないようにする。
「火の槍よ!飛んでいけ!」
火の槍を相手目掛けて飛ばすが水魔法で打ち消されてしまう。雷魔法なら一撃で倒せるのだが、残念ながらあれは私には使えない。
そうこうしていると五体いる内の四体が同時に攻撃を仕掛けてくる。強烈な一撃だがまだマリンは攻撃を止めることができている。
ただ本当に厄介なのは必ず一体が防御に回っているということだ。これではいつまで経っても攻撃が当たらない。
「マリンさん!これじゃあやられちゃいますよ!」
「分かってるわ!あいつ等の口の中に強烈な火を打ち込めればいいんだけど…」
「飛んで近づくとかどうでしょう?」
「駄目よ。水の刃で切り殺されるわ」
「じゃあ、一緒に飛べばいいんですね!」
「え?は?はああああああ!?」
マリンの腰に手を回し体を密着させる。こんなことをするのは恥ずかしいが、最近はマリンに体を水魔法で洗って貰っているからこれぐらいもう平気だろう。
「ちょ!アリスちゃん!ま、待ってよ!」
自分とマリンに対して風魔法をいつもより強くかける。ゆるゆると私たちの体が浮き上がって完全に宙に浮く。
今度は素早く動けるか試すが、マリンを掴んでいるだけあって急な旋回は無理なようだ。その代わりに飛ぶ速度を上げれば問題ないだろう。
「ひ、ひいいい~!」
魔獣の体と体の間を器用にすり抜けながら攪乱する。だが奴らは頭が頭がいいのか口だけは開けて攻撃してくる気配がない。
「仕方ないですね。短剣よ。行ってこい!」
空間から取り出した短剣を一体に向かって投げつける。背の部分は固そうだが、腹の部分なら傷つけられるかもしれないからだ。
短剣に気を取られている個体に対して火柱をお見舞いすると、怒りだして水魔法を連発してきた。
「ひっ、ひっ、ひぃー!水魔法なら任せなさいー。全部打ち消してあげるんだから!」
小さい悲鳴を上げながらしっかりと敵の攻撃は全て無効化してくれる。やはり水魔法となるととても頼もしい人だ。
口を大きく開けて私たちに攻撃していた魔獣は魔法が無効化されたことに驚いている。これが隙というやつである。
「火炎よ!口の中に入り燃え上れ!」
轟音と共に魔獣の口の中に炎が注ぎ込まれていく。内側から強烈な火炎を食らった魔獣は痙攣を起こして地面に倒れこむ。
自分の口に火を突っ込まれるのを想像するが、いい気分ではない。考えるのは止しておこう。
一体が倒れるのを見たことで怖気づいたのか他の四体は海の中に潜ってしまった。
「そ、その早く降ろして頂戴…あなた、いつもこんな視界で戦っていたのね…」
心臓をバクバクさせているマリンを地面にゆっくり降して、倒した魔獣を確認する。
きれいな鱗が高く売れるだろうか…だが流石に鱗の剥ぎ取り方なんて知らないのでどうしたものだろうか。




