73話 初めての海岸
町の住人たちの反応はまちまちであった。盗賊が討伐されたことを嬉しく思っている者、知り合いがその中に居たのか憂鬱そうにしている者。
冒険者二人が壊滅させたという話はすでに広まっており、私たちが店に寄る度に町の人の反応が違うことに驚いた。もっと喜ぶものかとばかり思っていたのだ。
複雑な心情でこの町を後にする。おそらくは畏怖の対象としてあの町では語られるのだろうが、今はそんなことは考えたくない。
いや、そんな思いは素っ飛んでしまったが正しいだろう。
「こ、これがうみですか」
「そうよ、あなたが海を知らないなんて少し驚きだったけど本当のようね」
目の前にはどこまでも続いているかのような青い水。ゆらゆらと水面が動いていたと思えば、白くなってこちらに押し寄せては消えていく。
そしていつまでも続くザーザーという音。足元にはとても柔らかく暖かい砂に、常に海から吹いてくる心地よい風。
なんて綺麗な景色なのだろう。これは何時までも見ていられる。
「さあ、行くわよ!途中の村までは結構かかるわよ」
「あ!待ってくださいよ!」
ふかふかの砂の上を走ってマリンを追いかける。
「あの、この海の向こうには何があるんでしょうか」
「海の向こう?海しかないんじゃないの?どこまでもずーっと広い海が広がっているんじゃないかしら」
「ふーん。それと海の水って飲んでもいいんですか?」
「?!絶対に飲んじゃ駄目よ!」
「えっ?そんなに危険なんですか?」
「海の水は一度飲むとまた飲みたくなるっていう悪魔の水って話よ。一度でも口にした人は永遠と海の水を飲み続けて最後には死ぬそうよ」
この海の水はそんなに恐ろしいものだったとは。見かけによらず海というのは怖いところなのかもしれない。
実際のところ本当に怖いものは居るのだろうか。例えば魔獣とか。
「海にも魔獣って居るんですか?見た事とかってあります?」
「いるわよ。地上の魔獣とは違って足とか手が無いのが多いけど、あいつらは数が多いうえに大きいのが厄介なのよ。その上皮膚は固い鱗で覆われているから魔法も剣も効きづらいの。極めつけにあいつらは短時間なら陸にも上がってきて攻撃してくるわ」
「え…なんですかその化け物は…」
「あいつらは火と雷の魔法にはめっぽう弱いからあんまり問題にはならないけど、海の中に引きづりこまれたら生きて帰るのは難しいわね」
まるで戦ったことがあるかのような言い方だが、海岸にはよく出現するのだろう。私も気を付けて海岸を歩かねば。
それから海に関する他愛もない話をマリンとし続ける。知らないことを知るというのはとても楽しいことである。
お昼を過ぎてクロプ町で買った料理を海を背景に堪能する。
トマトアンドガーリックのソースとパスタを食べた後に、海から生えた数本の何かを鑑賞しながらオレンジジュースを口にする。
…ん?これは魔獣ではないのか?




